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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
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宇留間七海

 そうだ、せっかく紅茶を入れてくれたんだ。冷える前に飲まなくては! いつもいい香りだけど、高い紅茶なんだろうな……。美味しい紅茶を堪能しつつ、明日の事を考える。

 別所さんの行動とその友人達の行動をまだ理解出来ていないので、なるべく5組にお邪魔した方がいいかもしれない。今日みたいな事が愛梨ちゃんに起きない保障はないのだから。明日あのクラスに近づくのはどうかと思うけど、噂が広まれば大丈夫だろう。

 私の噂をあの名前も知らない女子が広めてくれたなら、きっと大丈夫だよね?

 勝手に彼女が情報拡散タイプと判断したけど、その通りですように。

 届け、私の願い! ……なんちゃって。

 愛梨ちゃんと廊下で話して、別所さんか友人達が来たら、交際おめでとうと話せばいい。1人を心配して来てくれる氷室くんは、私が行けば近づくまい。でも氷室くんが多数の女子に声を掛けている、というのは感心しないな。強いフェミニスト根性でだろうか?

 でも彼自身軽そうだからそうみえないよね。江里口くん越しに変な噂が立っているよと伝えてもらおう。


「花音ちゃん?」


 おっと考え込んでしまってた。飲み終えた紅茶のカップを戻し、今日あった事を話す。


「ごめん、今日学校で勘違いされて、その事を思い出してたの」

「大丈夫だった?」

「もちろん」


 少しピンチだったけど。


「私が氷室くんの事好きだと思われたんだ」

「え、なんで?」


 愛梨ちゃんが首を傾げる。私を知っているなら、そう思うよね。


「おかしいよね、ありえないのに」


 今なら笑える。けど本当におかしかった。あの場の奇妙な空気って、なんだったんだろう。


「あの、花音ちゃんは、誰が好きなの?」

「いないよ」


 恥ずかしそうに聞かれたけど、はっきりと答える。


「え、あれ? そうなの?」


 すると愛梨ちゃんが困り、そして悲しそうな顔をした。なんでそんな顔に? 驚いて戸惑ったけど、もしかしてと思い謝る。


「ごめんね、愛梨ちゃんは気が置けない仲だよ? 信用してるし、いるなら相談してる。でも今は本当にいないの」


 親しい仲ならそういう話もするよね。好きな人はいないの。というより好きになれないの。誰に対してもそういう気になれないので、どうしようもないのよ。

 愛梨ちゃんには嘘をつきたくない。なので慌てて立ち上がり、彼女へ説明する。


「そうなの?」

「うん、出来たら絶対に相談するから、その時は乗ってね」

「ええ。ありがとう! その時は頑張るね」


 笑ってくれたので、ホッとして椅子に座りなおす。

 ん? 噂、そうだ、噂だ。今日噂も流したので、彼女の耳にも入るかもしれない。きちんと誤解されないよう先に話しておかなきゃ。他に遥ちゃんも話さないと危ないよね。

 あ……そうだった、要にも帰ったら話すか。ああ、面倒くさい。


「後、誤解されない為にも話しておくね」

「何をでしょう?」

「5組の変に突っかかって来る女子に嘘をついたの」

「嘘?」

「そう。入学式に気になる人がいて、その人が好きだーって。だから氷室くんには全く興味がありませんって」


 今頃どこまで噂が広まっているのか、現実……目に見えないのは残念だ。楽しげに話したのに、愛梨ちゃんが考え込んでいる。どこか話にミスあったかな? そう思っていると、訊ねられた。


「その人って本当にいる人なの?」

「うん」


 現実味が増すから彼を選択したんだ。学校には顔をあまり出さないだろうから。当人が現れることは無いだろう。


「それはあまり良くないんじゃないかしら」


 彼女の冷静な指摘に、思わず策を頭の中で考え直す。で、少し時間をかけて考えただけなのに、背筋がゾッとした。


「……そうだね」


 失敗した。あの時は名案と思ったのに、今は下策だと思う。頭を抱えて悶えそうになった。


「どうしよう」


 今ならどんなリスクがあるか分かる。なんて愚かな事をしてしまったんだろう。


「あの、そのお話した女子は5組の方なんでしょう? 私、頑張って話をしてみます」


 両手を胸の前で組み、必死な表情の彼女に縋ってしまった。


「ごめん、ありがとう」

「どんな人ですか?」

「えーっと、別所さんと仲が良さそうだった」


 憶えているのは、別所さんを慰めていたこと、私を敵視したいたこと、厭きれるほど聞きにくい話を聞きだそうとする所。

 声は分かるけど、顔は……なにかボワッとしていて印象が薄い。

 名前を知らない女子を思い浮かべて特徴を話そうとするけど難しくてなかなか出来ない。


「ああ、上手く外見を言えない」


 落ち込む私に、愛梨ちゃんが優しく提案してくれた。


「明日は絶対に学校へ行きますから、その方を教えてね」


 人違いが無いようにと気を遣ってくれる。


「頼りにしてます、ありがとう!」

「ううん」


 でもあの女子にどうフォローしようか……。

 うーん。そこで例の噂を思い出した。


「あの噂を肯定しておけば良かったかも」

「あの噂って、どんな?」


 愛梨ちゃんの知っている人なので、なんだか恥ずかしい。


「明智くんが好きだとか付き合っているという噂」

「それです!」

「へ」


 迫力を増した彼女に驚く。

 何? 何がそれなの?


「花音ちゃんは明智くんに助けられて、一緒に行動していたじゃないですか!」


 今度は愛梨ちゃんが立ち上がり、私に前のめりで近づく。


「は、はい」

「私と外で会う時も明智くんが一緒でした」


 あの頃はしかたがなかったのよ、SPまがいでついて来たのよ。


「2人のお付き合いは寂しかったけど、見ていてとても素敵でした」

「あの付き合っては……」

「花音ちゃんの側にいるのだけど、節度を持った距離で……」


 彼と付き合ってもなにも無かったから、普通の友人の距離ですが。


「家の前まで送り迎えしてくださるなんて、深い愛を感じました」


 三軒隣のマンションに住んでいたから、ついでなのよ。


「明智くんは保護者だったのよ、保護者」

「いいえ、見守る明智くんの目は……見えませんでしたが、視線が優しかったと思います。あれは愛です」


 やっぱり愛梨ちゃんも眼鏡と前髪で彼の表情が見えなかったか。しかも感情をあまり表にださないから、分かりにくかったよね。にしても、優しかったと思いますって……ちょっと。

 愛梨ちゃん、どうか帰ってきて……。


「少し、落ち着いて……ん?」


 彼女の背後に大きな本棚がある。

 その一角に気になるものが! あれは……少し遠いけど恐らくあの本は、恋愛漫画。プラトニックで可愛らしい絵の、小学生が読む、優しい話のものだったと思う。

 もしかして、その漫画の影響でそう思っているのかな? そういうフィルター越しに私達を見ていたのかな? 近いうちにパソコンであらすじや感想を探してみよう。

 愛梨ちゃんの感じていた気持ちが少しでも分かるかもしれない。


「明智くんは今も花音ちゃんを想っていますから」


 まぁ、心配はしてくれているかもしれないね。それなら早く資料をくださいと言いたい。年末に帰省とかしないだろうか……その時にでいいから私に資料を!!


「そして遠い地で、一生懸命寂しさに耐えて、きっと頑張っているんだわ」


 『きっと』……ってそれは妄想ですね? 愛梨ちゃんの中で、明智くんはどんな人になっているんだろう。なにか少し違うものとして捉えていそう。少し軌道修正しなくては。


「そうだね、でも今は両親と仲良く過ごしているから寂しくないと思うよ」


 さり気に話せば、彼女が口を尖らせた。あ、可愛い。


「もう花音ちゃんったら……わかりました。明日私が5組で説明します」

「え」

「教壇に立ち、2人の関係がどんなに素晴らしくて、尊いものか」


 私を知らない人もいるのだらから、ぽかんとされちゃうよ! 愛梨ちゃんがおかしくなっていく、止めなくちゃ。


「いや、それは止めて、お願い」


 私が流した噂より酷い尾ひれが付きそう。そして愛梨ちゃんにも変な噂が立つよ。万が一明智くんが帰国した時も、どう彼に詫びればいいのか。

 今までの恩を仇で返すなんて冗談じゃない。世間様に顔向け出来なくなってしまう。

 だったら、同じ明智でも、明智新吾の方でいい。

 彼に知られても歳の差で相手にされないだろうから、絶対大丈夫だ。好感度を上げず、彼好みの服や態度を取らなければ、鼻で笑われてお終い。うん、学生が教師に恋をする、教師は呆れて相手をしない。卒業して、「いい思い出だった……」で終了。

 よくある話じゃないか、もうそれで行こう!


「やっぱり、よく考えて見たら、入学式の人が気になってた」

「え、なぜ?」

「いやぁ、愛梨ちゃんと話していたら、好きかもしれないと思ったの」


 もう自棄になりながら話す。自分の失敗は自分で何とかしなきゃ。まだ最悪な状況じゃない、まだ修正できる。


「そんな」


彼女が崩れ落ちるようにソファーに座った。


「明智くん……わたしどうすれば」


 大丈夫だよ、何も起きていないし、これからも起きないから。彼の未来を応援するだけでいいじゃない。きっと正義の味方のような立派な人になるだろうから、見守ろう?


「その人って転びそうになった私を助けてくれたんだ」

「助けてくれたの?」

「そうそう」


 よし、食いついた。あの明智くんへの妙な情熱は忘れようよ、愛梨ちゃん。


「踊るようにくるりと回されて、後ろから抱えられたかれもう驚いてさ」

「え、その人って大人なの?」


 彼女が自分を守るように、両腕に手を添える。いけない、トラウマにひっかかったかな?


「高校生に見えたかな」

「少し、年上なのね」

「凄く綺麗な顔だったなぁ。知的な感じ?」

「素敵」


 両手が頬に移動したので、安心した。愛梨ちゃんのトラウマは、どういうものなんだろう。そこらへん詳しく知りたいけど、聞き出すのは無理がある。

 なんとかして前向きに普通になってほしい。そう思うのは傲慢だろうか。


「でもきっと彼女がいると思う、モテそうだったから」

「そんなこと無い、花音ちゃん可愛いもの。きっと大丈夫よ」

「へへ、ありがとう」


 嘘の恋バナだけど、いいよね。話が一旦落ち着いたから、話題を変えてみよう。そうだ、愛梨ちゃんはお金持ちのお嬢様。なら、お嬢様つながりで宇留間さんを知らないかな?

 彼女に笑みも戻ったので、聞いてみた。


「そうだ、宇留間七海さんって知ってる?」


 来年に向けて情報を得たいので、念の為に。だって誘拐事件なんて起きない方がいいもん。ほんの少しでいい、軌道修正したい。


「え、知ってますが、どこで名前を?」


 知ってる!? よ、良かったぁああ!!


「ん、その……誰かしらに名前を聞いた事があって」

「そう?」


 そうだよね、超お嬢様らしいので、庶民と知り合いはおかしいよね。質問失敗したかな?


「とても素敵な方です。数年前の七夕で琴を演奏されていたのを聞きましたが、素晴らしかったです」


 琴を演奏! ひゃー、世界が違うなぁ。


「他にもピアノや花、お茶と基本お出来にならない事はないと聞いています」


 思い出しながら、恍惚に話す愛梨ちゃんはお嬢様に戻っていた。私の変な言葉をうつしたりしないよう気をつけた方がいいかな。愛梨ちゃんはお嬢様業を頑張っているのだ。


「友達なの?」

「まさか!」


 ええ、なぜに驚くの?


「まさかって……知っている人なんでしょう?」

「少し前まで人に不慣れで怯えていた私を導き、可愛がってくださったお姉さまです。友達なんてそんな」


 お姉さまって。でもそうだよね、今まで愛梨ちゃんは大変だったんだよね。あの嫌な暴力を、小学生の身で受けさせられたのだ。わけも分からず恐かっただろう。彼女の過去を思い出して、落ち込んでしまう。

 過去にいける道具があれば、助けに行けるのに。


「友達は花音ちゃんです。七海様は姉のように慕っているだけです」


 嬉しい事を言ってくれてありがとう。私、愛梨ちゃんが幸せになれるよう尽力するよ。


「よく……その方と遊ぶの?」


 七海様と言う彼女に、さん付けで呼ぶなんて出来ないよ。


「いえ、今は遠くにいますから」

「そうなの?寂しいねぇ」


 どこにいるかまで聞いたら、不審がられるかな?


「大丈夫です。テレビ電話でよく話しているんですよ」


 おお、会社で見た事があったぞ? テレビ会議で良く使用してた。昔の思い出だけど、設置から使用法まで覚えている。


「そっか、早く直接会えるといいね」


 まだリミットはあるので、焦らず少しずつ情報を求めよう。彼女が嬉しそうに、微笑んだ。


「ふふ、来年には会えますの」


 やはり氷室くんのいるこの町で誘拐されるのかな? 上手く阻止しないと……。近々電話代が恐いけど、明智くんに連絡を取ろうか。


「高校受験なので、早めにこちらへ来るとか」

「え」


 高校受験? 誰が? 宇留間七海さんが?


「同じ、歳じゃないの?」


 祈るような気持ちで、愛梨ちゃんに訊ねる。


「いえ、1つ上です」


 私は叫び声をあげそうになった。



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