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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
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頼元家

 愛梨ちゃんのお家は、私の家と駅を挿んで反対側の場所だ。

 そこは閑静な住宅街でけっこう大きな家が立ち並び、建物は洋風が多くて一瞬外国のように感じてしまう瞬間も。飽くまで壁や門構えだけ見れば、ですが……。


 特に愛梨ちゃんの家は綺麗で立派な細工の門構えがあり、普通の一般家庭の人間にとったら前を通るだけでもビビるほどじゃないかな。更に追い討ちを掛けるように、監視カメラの数が尋常じゃない。もし私が泥棒なら、避けて通りたい場所の1つだ、きっと。

 しかも敷地内に入れば、お庭と噴水がある。白く綺麗な石で造形してある噴水はとても美しく、夏は涼しげだった。その周りの庭もいつも綺麗に花が咲き誇っている。これは噂に聞く庭師様が居ませんか? 本当に居るかどうかは聞いたことないけどね。


 愛梨ちゃんの家にお邪魔して、はじめてその風景を目にした時、まるでテレビでしか見たことのない世界にテンションが上がった。喜んでいると、散歩を提案してくれて……一緒に庭を回り乙女な気分を味わって、私にもまだそんな気持ちが存在していたんだと驚いたのを憶えている。

 その後、彼女の部屋に移動したんだけど、家の中に入るとまたまた別世界すぎて……物を壊さないように細心の注意が必要だった。


 生活レベルが違うと気を遣いますね。愛梨ちゃんが駅まで迎えに来てくれたからお宅に入れましたが、1人で伺っていたら固まって動けなかったかも。

 でも、私が友達でいいのかな? お嬢様は同じお嬢様たちと友達でなくていいのかな?

 家の方の反応は良好に見えるのでスルーしていますが、いつか悪影響を及ぼすと怒られないか心配していたり。そんな事になりませんようにと何度お星様に願ったか……。

 今は、もう何度もお邪魔しているので、平気でチャイムを押せますけどね。


「さてと……」


 私は彼女の家の門の前に着くと、インターフォン越しに会話をしてロック解除してもらう。色んなカメラに囲まれながら、解除された門の端の入り口を通り抜ける。そして玄関へ走ると、彼女が私を待っていた。


「愛梨ちゃん、お邪魔しまーす」

「花音ちゃん、来てくれてありがとう!」


 彼女が笑顔で迎えてくれて、ホッとする。どうやらもう泣いていないみたいだ。真っ白なワンピースを着た愛梨ちゃんは、洋館に相応しいお嬢様みたい。制服よりもとても似合っている。


「元気そうで良かった、これお見舞いのプリン」

「ごめんなさい、心配掛けて……」


 お土産を受け取ると、彼女の視線が下がった。


「愛梨ちゃんが好きなんだから、心配させてよ」

「花音ちゃん……」


 にっこりと笑って、彼女の肩を軽く叩く。また涙腺が緩みそうなのか目を潤ませている。泣かないで、愛梨ちゃん!


「入って……お茶を入れるから」

「うん。お邪魔します」


 目を片手で擦りながら、誘導される。すると扉が開かれ、執事さんが出迎えてくれた。来る度思うけど、正直慣れない。渋いおじ様1人と若い男性が6人。しかも最近高校生の見習いの人も入っているらしい。

 そうだ。執事さんたちは男性ですが、愛梨ちゃん大丈夫なのかな?


「いらっしゃいませ、伊賀崎様」

「こんにちは」


 様付けされるような身分ではないのですが……。毎回私には勿体無い挨拶をされるけど、きちんと返せてるのだろうか? 愛梨ちゃんに聞いても、気にしないでといわれてるけど、めっちゃ気になるよ。

 階段を上り、廊下を渡り、角を曲がった先に愛梨ちゃんの部屋がある。


「お邪魔しまーす」


 お家に入るときに挨拶をしたけど、部屋に入るとき改めてもう一度挨拶する。相変わらず綺麗な部屋だ。座り心地のよさそうなソファーを勧められたので、遠慮なく座る。

 対面に彼女も座り、ついて来ていた執事さんにお茶をお願いした。紅茶の種類を詳しく話している姿は、いつものように見える。このままお茶を楽しむのもいいけど、今日は平日なので早く話を進めないとね。お邪魔できる時間が限られているから。

 執事さんが部屋を出たので、すぐ話をきり出す。


「愛梨ちゃん、朝の電話なんだけど」

「うん……」


 彼女が話すまで待つか、それとも氷室くんの話をするか。出来れば話して欲しいんだけどな。

 ジッと彼女を見つめれば、目を合わせたり離したり、口が開いたり閉じたりを繰り返している。考えあぐねているようだ。だから先制することにした。


「今日ね、5組に行ったんだ」


 彼女の顔が上がる。


「愛梨ちゃん、変ないじめにあってない?」

「う……」


 ものすごく困った顔をして、両手が行き場の無いように空を舞う。


「クラスメイトに何かされた?」

「いいえっ」


 クビを振る。あれ? 違うの?


「なら、氷室くんに何かされた?」


 びくりと反応した。当たりか!? 彼自身を見直そうと思っていたのに、おのれ氷室め……。そうなると要の情報が正解か。それもちょっと悔しい。


「失礼します」


 控えめなノックが聞こえて部屋の扉が開いた。

 先程の執事さんとは違う、若いお兄さんが紅茶を持って入ってくる。

 優雅に紅茶を注いで置いていくんだけど、何か、何かおかしい。何か微妙な空気を感じる。チラリと顔を見れば、愛梨ちゃんをガン見していた。

 すごい目力!

 顔が整っているので、迫力がある。視線の先の彼女を見れば、顔一杯に焦りの表情が。なんだ、なんだ、この疎外感。ものすごく失礼ながら、ものすごく楽しいぞ。ワクワクしてしまう。


「お茶菓子はどうなさいますか?」


 はっきりとした聞き取りやすい声。もしかしたら、執事業って発声練習もしているのかな?


「そう、です、ね、イマハマダ……」


 男性に怯えない愛梨ちゃんは珍しい。でも男性に緊張して明後日の方向を見ている彼女も珍しい。もしかして、もしかして、何か美味しい予感が。つい2人の様子をジッと見ていたら、執事さんがこちらを向いてにっこり。

 優しい笑みだ。でも、私にはなんだか適当っぽくて軽い。


「了解いたしました」


 綺麗な姿勢で扉を出て行く。

 パタンと閉じた瞬間、彼女を見ればホッとしていた。


「先程の執事さんは?」


 いつも年配の執事さんが来ていたのに、珍しい。……本当に聞きたい事はそんな話じゃないけど少しは話題を逸らして気分転換も大事だよね? 本音はこっちも聞きたい! と知りたがりの野次馬な私から出ただけです。


「実はお祖母様が、男性に早く慣れた方がいいと、専属にされたの」


 おお! 良い案ですね、お祖母ちゃん。見ていて二人の関係にドキドキしてしまいましたもん。ああ、続きを所望してもいいですか? なんて。


「ああ、近藤さんがいいのに」


 がっくりとする愛梨ちゃんに苦笑する。近藤さんは一番年配の執事さんだ。毎回入れてくれる紅茶の薀蓄話は、面白くて楽しい。


「じゃあ平気になるまで、このままなの?」

「今の所、その予定……」

「そっか」


 なにやら大変そうだ。不謹慎にワクワクしてごめんなさい。……だいぶ話がズレてしまった。


「執事さんの話は後で聞くとして」

「ええ!」


 驚く彼女を抑えて、氷室くんの話に戻る。


「氷室くんが何をしたか、よければ具体的に教えて」

「う、ん」


 手を口元へ寄せると、愛梨ちゃんが困った顔で答えた。


「……最近、近づいてきて」

「近づいてきて?」

「……1人で寂しそうだ、とか一緒に帰ろうかとか」


 一緒に帰る? 部活はどうするの? 氷室くん部長になるんでしょ? サボっちゃだめじゃない。


「話を聞きたい、辛い事があったんじゃないかって」


 どうだろう、もしかして愛梨ちゃんは氷室ゲームでの攻略対象の1人? でもお嬢様枠は宇留間さんだから、たまたま? いや、お嬢様枠じゃなくて違う枠組みでいるのかな? ああ、明智くんが持っていった資料があれば、一発で解決できるのに。


「ううー……」


 少し考えて、首を振る。

 違う。もしそうなら明智くんが放って置くはずがない。なら氷室くんの無意識行動?


「そして飴玉をくれた」


 え? 餌付け?


「学校で飴玉は校則違反だから、すぐカバンに隠したけど」


 愛梨ちゃんが机の場所へ行き、置いてあるカバンを開ける。でもどんなに探しても貰った飴玉は見つからなかった。


「あ、あれ? どうしてだろう。無い」

「まあ、落ち着いて」


 カバンの中を何度も確認している。


「あのさ、氷室くんがずっと話しにくるの?」

「うん、最近だと1日2,3回」


 頻繁すぎる。それとも日課にしてたり? ついでなのか本気なのか分かり難いぞ。


「それはしつこいね。剣道部にでも勧誘したいのかな。人数少ないとか?」

「そうかも……ああ、そうか……うふふふ、ありがとう」


 彼女から突然お礼を言われた。解決できたんだろうか? ならいいんだけど。


「花音ちゃんと話して落ち着いた」

「そう? ならいいんだけど」

「なんだか私の事を全部知っているようで、恐くて堪らなかったの」


 愛梨ちゃんは本当に酷い事をされた経験があるから、尚更敏感になってしまうんだろうな。


「知られていることは、何もないのにね」


 ほんの少し首を傾げて苦笑する。そしてお茶に口をつけた。

 それはいつもの愛梨ちゃんに見えたので、ホッとする。彼女の中で氷室くんの行動が何か腑に落ちたのかも。


「愛梨ちゃんが落ち着いたのなら、良かった」


 つまり氷室くんの態度を要約すると、1人でいる愛梨ちゃんを心配した『気遣い』になるのかな?

 そっかそっか、ゲームを絡めすぎたかも。いつも1人だから……でも、氷室くん以外はどうかしら?


「別所さんとまた同じクラスだったよね」

「うん、そう」

「彼女からは、何か言われてない?」


 彼女は上を見上げながら、考えて頭を振る。


「特には何も」


 おかしいな? 私を見て泣いてたし、氷室くん命に見えたんだけど……。


「クラスでは何かなかった?」


 曖昧な質問になってしまった。


「何か、ですか?」


 うーん、と考えてくれる。

 ありがとう、愛梨ちゃん。この様子なら、クラスでいじめには遭っていないようだ。良かった、と思いたいけど5組の女子の動向がきになる。

 どうしようか……氷室くんと係わらなければ、問題解決だと思うんだ。そうだ、氷室くんだ。


「氷室くんも別所さんと付き合っているなら、他の女の子に声を掛けるの躊躇してほしいねぇ」

「お付き合いしているの? 氷室くんと別所さん」


 両頬を押さえて嬉しそうな愛梨ちゃんを見ていると、別所さんの誤解なんてどこかに飛んでいくと思う。


「知らなかった」

「私も今日知ったのよ。5組でラブラブな所を見て吃驚した」

「いいな、幸せそう」


 男女間の仲を羨ましがるなんて、愛梨ちゃんの男性恐怖症のリハビリは終わりかけかな? 今度執事さんと仲良くしている話を聞きたいものだ。



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