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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
35/503

別所百花

 二年生になって愛梨ちゃんとクラスが別れてしまった。なので、最近は土曜や日曜に遊んだりすることが多い。学校では、廊下で会ったら少し話をするくらい。

 私は1組で彼女は5組なので、それもなかなか機会がないけど。

 ただ、気になる点といったら、廊下で出会う彼女はいつも1人だ。私も似たような状況なので、それはなんとも言えないけどクラスではどうなんだろう?

 ちなみに遥ちゃんと水原くんは2組で、南里さんは3組、和田くんと地場くんは4組だ。

 ……氷室くんは5組で愛梨ちゃんと一緒のクラス。あまり近寄りたくないけれど、彼に聞くべきなんだろうか。

 カラオケでの一件以来、きちんと話した事はない。

 江里口くんから、出来る限り和田くんと氷室くんには近づかないように、と注意を受けている身としては避けたいんだよね。

 何しろ預言者&魔法使い様からのありがたい忠告だから……。5組で他に話せる人はいないだろうか?

 お昼休みにクラスを覗きに行くと、ちょうど別所さんが廊下に出ていた。

 1年生の時に同じクラスだった人だ。あまり話した事が無いけど、いけるかな? 全ては愛梨ちゃんの為と勇気を振り絞って声をかけた。


「別所さん」


 軽く声を掛けたけど、こちらを一瞥して歩き始める。

 無視? じゃない、きっと親しくないから自分じゃないと思ったんだ。そう、だよね?

 彼女に近寄り声を掛けると、少し驚かれた。


「えっ、伊賀崎さん、何?」


 そんなに驚かなくても……。でもそうだよね、親しくない元クラスメイトだもんね、怪訝になるよね。


「ごめんなさい、ちょっと聞きたい事があって、……少しだけいいかな?」


 不審にならないよう笑顔で聞いてみる。

 突然だからだろうか、何かうろたえられた。目も右往左往している。別所さん、何か用事があったのかな?


「ちょっと……お手洗いに行ってからでいい?」

「それはもちろん!」


 あちゃー、廊下でそれは言い難かったよね、ごめん邪魔して。


「じゃあここで待ってるね」

「……え、ええ」


 5組はトイレが側なので彼女を見送り、その場で大人しく待った。

 待って、待って、待ち続けた。

 ……なかなか別所さんが戻らない。でも、そういうのって時間を気にしてないって装わないと失礼だよね、だからのんびり窓の外を眺める。

 でも少し遅くない? いやいや、女の子は身嗜みや色々あるから時間がかかるもの。お昼休みのトイレは化粧室という名の通りに代わっているんだ、きっと。


「………………」


 まだ来ない。待ち続けるのは寂しいなぁ。

 私を待ち続けていた明智くんを思い出し、改めて彼のすごさが分かった。それにしても1人廊下で立っていると、人からジロジロ見られているみたい。

 違うクラスの人が5組の廊下にいるから、なぜ? という感じだろう。

 1組からほんの少しの距離なのに、なんだろうこのアウェー感は。特別5組の廊下というわけじゃないのに居心地が悪いから不思議だ。出直した方がよかったかも。

 それにトイレを待たせてもらうって、ちょっと無神経だったかな。愛梨ちゃんの為とはいえ、強引過ぎたか?

 どうしよう、気まずい。今更後でとも言えないし……言伝を頼める人もいない。

 居た堪れない気持ちを誤魔化すように窓の外へ集中していると、肩を叩かれた。


「あ、ごめんね。急がせちゃった……かな?」


 別所さんが戻った、と振り返って固まる。


「何の用なの?」


 そこには三人の女子がいました。

 あれ? なんでだろう? 一応顔は笑顔にしているが、心の中では困惑していた。三人とも私を怪訝な表情で見ている。もしかして5組の前の廊下に不審者が! と思われたのかも。なので私の用件を伝えてみた。


「えっと、別所さんを待ってまして……」

「彼女に何の用なのって聞いてるの」


 はい、分かりませんでした。

 突然『何の用だ』と聞かれただけなので……。そう話せば『火に油を注ぐ』と思われるので、喋らないように口を閉じた。

 良く分からないけれど、三人の様子から見るに怒ってらっしゃるようだ。でも怒られる理由がまるで分からない。


「何か、誤解されていませんか?」

「誤解も何も、百花……別所が泣いてたわよ」

「ええっ!?」


 なぜに? トイレで泣いていたの? 意味が分からない。


「それって私の所為ですか?」

「当たり前じゃない」


 三人に囲まれて、怒られる。正義は我にあり! って感じだ。女子トイレで泣いていたのなら、私も入ればよかった。

 一先ず誤解を解かなければ。


「私は、少し聞きたい事があるけどいい? と話しただけですよ」

「嘘!」


 即行で嘘判定! なぜに。


「あの……嘘を言ってどうするんですか」

「じゃあ何で彼女は泣いてるの? おかしいじゃない」

「ええ、おかしいです」


 三人の向こうで、別所さんが泣きながら知らない女子に慰められている。


「別所さん! 別所さんも言ってよ、私は何もしていないって」

「!!」


 私の声にビクついて、彼女はより肩を縮めてハンカチで目を覆う。な、なんでかな? その反応。まるで私がいじめの加害者のようだ。


「ほら、怯えているじゃない」

「謝りなさいよ。酷い事したんでしょ」

「百花ちゃん大丈夫?」


 彼女らの反応で、廊下が騒然とする。人だかりも出来そうだ。やばい、これはやばいぞ。ただちょっと愛梨ちゃんの話を聞きたかっただけなのに、なぜこんな事に?


「はいはい、どうしたの?」


 その時、聞きたくない声が近づいて来た。氷室くんだ。どうしてこんな時に……って彼のクラスの前だから、いるのは当たり前か。


「百花ちゃんどうしたの?」


 『百花』は別所さんの名前だ。彼が下の名前を呼ぶとは、親しいんだ。ほほーっと見ていると彼女を宥めていた女子が、私を指差して答える。


「そこにいる女子がいじめたのよ」

「え」


 いじめは決定なんですか? そこで氷室くんと目が合う。


「伊賀崎さんじゃん。いじめって、どんな?」


 ここで反論しても、攻撃が増すばかりなので静かに様子を伺う。いざとなったら大人に介入してもらおう。いじめの証拠はないんだから……大丈夫だよね?


「別所さん、教えて。どんな酷い事を言われたの? されたの?」


 みんなが彼女を優しく見守る。


「あ……ごめ……わたし……」


 目が真っ赤に腫れ上がり、口が嗚咽でまともに開かない。


「辛かったよね、大変だったよね、もう大丈夫よ」


 なんだろう、この場面は。

 何かが出来上がっている様に感じられる。どう動くのが最善なのか……。最悪の場合、私がハブられていじめられるくらいか。

 あーあ、日常がやっと落ち着いたら、次はこれ。何度も思うけど、どうやらこの世界は私に対して厳しいようだ。みんなの視線が痛い。私は人をいじめる暇なんかないぞ? やるべき事が多すぎて手が回らないんだから。

 口に出して言える内容じゃないのが、悲しい。


「違うんじゃないかな、伊賀崎さんが悪いんじゃなくて、何かつらい事を思い出したんだよね」


 氷室くんが優しく、泣いている彼女の頭を撫でる。


「あ、ああ……っ」


 別所さんの目から大粒の涙が更に流れていく。


「大丈夫、もう大丈夫だから。俺が守ってやるよ」


 氷室くんはそう言うと、縋りつく彼女の背を軽く叩く。

 私は黙ってその様子を眺めていた。遠い窓越しに見るように。


「ほら、元2組ってさ、嫌な目にあった事があるから、思い出しちゃっただけさ」


 あの事件を臭わすように氷室くんが話す。みんなを諭すように、仕方がないと苦笑しながら。そして私に向ける視線が、違うものに変質した。哀れみが混じる、可哀想な目で。


「大丈夫! 俺強いから、みんな頼ってね! そして剣道部を宜しく」


 氷室くんが大きく手を広げて、次期部長だよ~とおちゃらける。先程の奇妙な空気が変わり、明るくなった。そして私を囲んでいた三人の女子が、そっと引いていく。


「別所さんさ、ちょっと感情的になっちゃっただけだから」


 氷室くんが離れると、彼女が心細そうに両手を胸の前で握り締める。もしかして、別所さんは彼の事がすきなのかな? 彼女の反応を気にせず、氷室くんがこちらへ来た。


「伊賀崎さ、どうしたの?」

「……少し聞きたい事があっただけなんだ」


 まだ回りが注目しているので、緊張してしまう。あと、あまり近づかないで欲しい。別所さんに誤解されて、更に嫌われる要素が増えるのは避けたいから。


「何を?」


 え、ここで氷室くんが聞くの?

 悩んだ末に出た言葉は、目的とは違うものになった。


「あ、愛梨ちゃんが見当たらないから、休みかどうか」

「なぁんだ、そんな事なら別所さんじゃなくても良かったじゃん」


 まぁ、そうなるとそうですよね。


「たまたま廊下にいたのが別所さんだったから……元クラスメイトだし話しやすいかなと」


 ああ、何の為に5組に来たんだろう。どうでもいい情報(別所さんが好きな人)を手に入れるために来たんじゃないのに。


「だよねー」


 氷室くんが明るく笑う。


「彼女最近になって情緒不安定みたいでさ、許してやってよ」

「そんな、許すとか許さないとか……」


 強い視線を感じて、そっと目を向ければ案の定、別所さんがこちらをジッと見ている。

 ひぃいいい! ただジッと見ているだけなので、睨んではいないんだけど、なんだか恐い。こちらを観察しているようだ。

 違う、違うぞ、私は氷室くんに好意は無いぞ?


「じゃ、私はクラスに戻るよ」

「愛梨ちゃんは風邪で休みだよ」

「ありがとう、ごめんね、お騒がせして」

「また遊びに来てね~」


 いや、遠慮します。畳み掛けるように話を打ち切り、急いで1組に戻るべく足を速めた。が、数歩歩くと、先程の三人が私を待っている。


「ちょっと」


 やっぱり声を掛けられた。厄介事しか感じられないのに、話を聞かないといけないみたい。


「百花と氷室くんの、邪魔しないで」


 やはり忠告でした。もう勘違いは勘弁してください。


「彼氏が転校したからって、近づかないでよね」


 転校と言ったら、明智くんしかいない。

 またですか……そんなに有名だったの? 私と明智くん。登下校を一緒にしていただけなのに。私は溜息をつくと、5組に来た本音を喋った。


「愛梨ちゃん最近元気が無かったから、どうしたのかなって来ただけです」

「愛梨?」


 誰のことと言わんばかりの対応だ。クラスメイトの名前を知らないの?


「頼元さんの事です」

「ああ、彼女ね」


 苗字を言えば、納得してくれた。名前で気が付かないものなのかしら?


「彼女も氷室くん狙ってるから、止めてあげてね」


 ありえない事を止めるよう言われても困る。言葉に詰まっていると、三人は自分の教室へ戻って行った。これがショックで休んだのかな? 愛梨ちゃん。

うーんと考えながら、廊下を歩く。

 あ! しまった。明智くんとの誤解が……でも彼女達に弁明しても意味が無いかもしれない。まぁ本人が帰国したら、謝ろう。多分帰ってこないような気がするけど。


「はぁ……」


 大きく溜息をつく。最近溜息をつく回数が増えた気がする。いけないなぁ、幸せを逃しているようだ。付き合ってる、付き合ってないは本人に聞いてくれ。誤解を解くのが、もう面倒くさいです。



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