手紙
はい、伊賀崎花音です。今日も元気に走っています。どこを走っているかというと、自宅へ向かう帰り道を走っています。
ええ、ほぼ毎日ですよ? 江里口くんからペンダントを貰って以来、下校は全速力で走っております。
なぜなら、お守りさんが危険を知らせてくれるんですから!
素敵な私の警報機さんに感謝しつつ、少し辟易もする。なぜならエンカウント激しすぎだからですよ、もしかして、私は呪われているんでしょうか? それ程に酷いです、酷すぎます。
どこかの古代遺跡で呪われた武器でも手に入れた気分。
「いやいや」
きっと日本全国から、痴漢と変態がこの町に集合してオフ会でも開催してる、そうに違いない。三歩ほど歩くとすぐにお守りがほんのり光り、温かくなる。
前世を全部思い出していないので分かりませんが、何か余程悪い事をしたんですよ、ええ、絶対に。だからこんな事に遭遇するんです。そう思わなければ、納得できない程のエンカウントです。私の方こそ、相手に呪いを掛けたくなってしまいますよ。
いや、駄目だ! 人を呪わば穴二つ、情けは人の為ならず、全ては自分の為に……我慢我慢。
「きっと、きっと意味があるんだ、これには意味が」
私がこの役目を引受けているから、誰かがこんな思いをせずに済んでいるのだ、そう思えば救われるような気がしないでもない。そして朝も、遥ちゃんに会うまでは、油断できなくなった。
いつもペンダントに気をつけて、ひやひや歩く姿はいつか通報されそうなほど不審者。そのくらい自分でも怪しいと自覚しつつ、頑張っています。
いつかこの努力が報われる日が来るといいなぁ。
そうそう、明智くんはお手紙をくれていましたよ。郵便受けに朝刊と共に入っていたそうです。うちはお父さんが出勤する時に新聞ごと全部持っていくので、私の手元に来るのが夜になってしまったのだ。
お父さん酷い、そういう時は手紙だけ戻しておいてよね。郵便受けを確認するかどうかは、別として。
明智くんからの手紙には、こう書いてありました。
伊賀崎へ
突然だが転校することになった。
約束を違えて、すまない。
だが、伊賀崎に大きな事件は起きないはず。
大丈夫だと思う。
もしもの時は江里口に頼んでおいた。
また会える日を楽しみにしている。
明智 真
短いです。
それよりも、突然すぎますよ! 病気だと思っていたのに、学校転校と知って驚きました。預言者様の言葉があったので、いつか側にいなくなると知っていましたが、あまりに早すぎ。クラスが変わるから、離れるくらいにしか思っていなかったから、かなりの衝撃でしたよ、ええ。
最後にせめて一言お礼が言いたかった。何時頃に郵便受けに入れたんだろう? 深夜か、明け方か、新天地へお見送りだってしたかったよ。そして、もう一枚ありました。
追伸
氷室の資料だが、あまり人の目に
触れない方がいいと判断した。
俺が管理するので、安心して欲しい。
それでも詳細が知りたくなったら、
電話をくれ。
いつ掛けてもかまわない。
Tel:XXX-XXXX-XXXX (携帯から)
0033-010-44-XX-XXXX-XXXX(固定電話から)
読み終えた時の私の気持ちは、もう凄かったですよ? かなり吠えたかったです。うおーうおー! って心の中で大音響だ。
だって資料を読みたい人間に対して、『管理するから安心して欲しい』って、そうくるか!? しかも詳細を知りたければ、電話しろって国際電話じゃないの!! 幾らすると思っているんだ!! そんな高いお金払えないわよ、お母さん驚くわ!!! 手紙を握り潰さなかった自分を褒めてあげたい。
憤るこの感情をどうしようか、と自分の部屋をかなりうろついた。もうデータにしてしまって、ロック掛けて私に送って欲しかったぞ。あと、メールアドレスも教えてくださいな、住所でも可。連絡手段が電話だけって、厳しいです。以前携帯を借りたときはメールをしていたようなので、書いてもいいだろうに。
「……急いでいたから、書けなかったのかも」
そう考えれば、この手紙も友情厚いものへと早代わりする。ふと空を見上げれば、明智くんのいい笑顔が(見たことはありませんが)見えるような気がしました。
また会える日を楽しみにしていると言ってくれた彼。会っても文句は言いません。言えるはずが無いんです。悲しいことに分かっているんです。ええ、分かってます。私たち、子供だなと。親に扶養されて生きている、子供だと。
親が移動すれば、一緒に移動する。子供のうちはそれが当たり前と分かっているのですが、儘ならない別れは寂しい。だから手紙は大事に持っています。明智くんの善意を忘れない為に、変態に屈しない為に。
なんとしても、監禁陵辱より素敵な恋愛シミュレーションゲームメインな世界にして見せます。その手紙もお守りとして、大事にしていくよ。
「花音、お帰り」
サッカークラブのユニフォームを着た要が、自転車に乗って声をかけてきた。
「お疲れ、今日はサッカー?」
「そ」
そっと胸に手を置けば、冷えた感触があります。エンカウント停止中、みたい。1人より2人、しかも異性だと呪いのエンカウントが止まる確率が高いっぽい。でも安心は出来ません。世の中には巻き込まれる、というご迷惑な単語もありますから。遥ちゃんや愛梨ちゃん、馨や両親を巻き込みたくない。
まぁ江里口くんと要なら、なんとか逃げ切れそうなイメージがあるので大丈夫かな。
「なに考え込んでんの?」
「ちょっとね……乙女心と秋の空ってやつよ」
「え? 今、秋じゃ……」
「うっさい、はよ帰れ」
「花音も気をつけて帰れよ」
私を気にしてくれる要に悪かった、頑張ってね、サッカー。心の中で応援してみる。
「要も運転気をつけてね!」
「おう!」
彼のお蔭で息が整いました。今日もどうやら逃げ切れそうです。油断禁物なんで、最初から全力で行きます。
2年生になると、御影山の麓に建設中の学校が、来年度の生徒募集を開始した。星雲学園高等学校……ゲームと同じ学校名だ。
「本当に出来るんだ……」
学校の掲示板に張り出されたポスターに、はっきりと書いてある。壁紙に質問しても返事はない、でもつい独り言を言ってしまう。
「でも再来年でなくて、来年だなんて……時間がズレてる?」
衝撃過ぎて、混乱する。なぜなら私の知る恋愛シミュレーションゲームでは、初年度の生徒として私が入学するから。
全国から引き抜かれた有能な先生たちに新しい校舎に最新設備、威張る先輩がいない状況はとっても美味しいと思いませんか? 意味不明な言いがかりや、命令を受けなくて済むんです。
でもこんな早くに高校が募集を掛けるなんて、やはり現実とゲームでは違う? にしても校舎ってこんなに早く出来るものなんだ。去年に建設開始したのに来年には開校するなんて、海堂グループってすごい。いや、下請け会社がすごいのかな? ああいうのはどうなっているのだろう? 全部海堂グループなのかな? 違うのかな?
「うーん?」
でも、『新設校』には入学できなくなったけど、嬉しい誤算でもある。だって氷室くんのゲームも差異が生まれた事になるのだ。
彼のゲームも新設校入学なので、設定と違うくなる。私のゲームより、氷室くんのゲーム阻止の方が大優先なので、それを喜ばなきゃ。
やったね、現実の勝利だ。
学年上がってのクラス替えでは、残念ながら、愛梨ちゃん、氷室くん、和田くんと離れてしまった。江里口くんとはまた一緒なのが救いだよね。ほんと、預言者と一緒だと心強い。ただ、彼を明智くんの変わりにしないように気をつけ、1人で頑張れるようにならないと。おんぶに抱っこは私の望むところじゃない。
そして氷室くんは、別のクラスになった。ホッとしてしまうのは、彼のあの悲痛な顔を見たからかもしれない。
真のハッピーエンドを目指し、和田くんの死亡フラグを立てようとする姿は、今思い出しても鳥肌が立つ。彼と同じクラスだと脅え、違うクラスだと不安になるなんて……。
一番の心配は、愛梨ちゃんが氷室くんと同じクラスになった事。違うクラスになった時、彼女はものすごく泣いて、悲しんだ。
私も、悲しいよ? やっと友達になれたのに。ただ氷室くんが『俺に任せとけ!』なんて胸を叩いてくれたんだけど……気持ちは嬉しいが、それが恐い。
あの過去の記憶が入っていない状態は、基本彼はいい子なようですから、そのまま豹変せずに、真っ直ぐな氷室くんで居て欲しい! 彼女の過去を彼が知る事が出来ませんように。毎日必死に祈っています。
後ろ暗い過去を持っていれば、氷室くんにちょっかいを掛けられるかもしれないから……。それも絶対阻止したい。
愛梨ちゃんを庇いながら、氷室くんや痴漢変態から逃げる。私でも戦えるかな? 明智くんみたいに。
「うん、無理」
悔しいかな、全然出来そうにない。まぁ非力なので、特に剣道二段の氷室くんと真正面から戦うのは無理ですな……。もともと荒事に向かないから、別の手段で補うしかない。
ナイフや拳銃は銃刀法。ヤバイ薬は薬事法。スタンガンは軽犯罪法。
頼り? になる物は、全部警察にお世話になるものばかり。要からスタンガンを渡されたので、つい武器の1つにスタンガンを考えてしまった。
駄目だ駄目だといいつつ、使用武器の1つとして考えてしまうなんてね。本当は使いたかったのかしら?
落ち着いて頭の思考をまっさらに消して、改めて考えよう。
体力の無い女子は、どうやって身を守るのか……。私以外の監禁陵辱キャラに聞きたい。変態や痴漢とのエンカウント率はどうなっていますか? と。宇留間さん以外知らないので、確認しようがない。しかも宇留間さんは、超お嬢様なので、面会を申し込んでもスルーされるだろう。
苦労を分かち合える仲間が、側にいなくて寂しい。宇留間さんのクールなキャラなら、平気とか言われそうだけど、平気なはずが無い。でもそんなにお金持ちのお嬢様なら、きっと護衛が守ってくれるから大丈夫だよね。
ただ気になるのは来年にあるという『誘拐』。これは確定なんだろうか? 優秀なボディガードが側にいて、誘拐される。その場合は何が原因なんだろう?
誰かが犯人を引き合わせたのか、それとも何かの物語やドラマのように悪戯で家から抜け出して捕まったのか。
江里口くんにもう一度氷室ゲームの詳細を知らないか聞いてみて調査しよう。もし知らなかったら……お年玉のお金を引き出して、明智くんへ電話だ。くぅう、貯金が……早くバイトしたい。
ふと疑問が。バイトの終わる時間って遅いですよね? 私はその頃までに、このエンカウント地獄から開放されるんでしょうか?
バイトしてお金貰って、みんなと遊びに行きたい。だから、もっと早く走れるように頑張ろうかな?




