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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
28/503

大河要2

「伊賀崎、おっはよう!」

「お、おはよう」


 明るい顔の氷室くんが、通り過ぎて行く。

 不思議。あんな悲痛な顔をしていたのに、まるで憑き物が落ちたような笑顔だ。

 一昨日の彼が嘘のよう、記憶の在る無しでここまで変わるとは……。そこまで人の心を蝕むゲームは、発禁にした方がいいと思います、私の平穏の為にも、って出た後に文句を言っても仕方ないですが。

 でも、どうして氷室くんが最悪のハッピーエンドを望んだのかわからない。和田くん死亡確定の、退廃的なハーレムエンディングはどうかと思うんですけどね。みんなが笑顔で終わる、幸せな結末を望んでほしかった。


「氷室くん、知っていた記憶に振り回されただけなのかな?」


 ぽつりと呟いたら、背後から江里口くんが応じてくれた。


「コンプリートでも目指したんじゃない?」


 私は振り返り、不満を口にする。


「コンプリートの為に、他人の人生を不幸にしちゃ駄目だよ」

「監禁陵辱に興味を持ってたのもあるけど、好きな人が確実に手に入る方法だから、固執したんだよ」

「違う固執を何故しないかなー」


 悲しい顔の宇留間さんより、笑顔の宇留間さんを願わなかった彼はおかしい。惚れてるなら、知恵を絞って助けてよ。

 ただ気になるのは、氷室くんの本質だ。記憶が無くとも同じ結果を望むのだろうか? 和田くんの様に変化してほしい。

 そしてチラリと明智くんへ顔を向ける。


「……」


 彼はかなりご不満そうだ。

 不機嫌オーラを醸しながら、B5用紙の束を捲っている。

 彼の手元にある手作り冊子は、江里口くんから渡されたゲームの詳細内容。やはり私の思っていた通り、彼は情報を整理する為にパソコンにデータを保存していた。

 その枚数から、よほどデータを知り尽くしていたんだろう。何せ、分厚いのだ。

 紳士な明智くんには許せない内容の様で、私も少し見せて欲しいのだけれど……どうも声を掛け辛い。


「ねぇ、あれを印刷するの大変だったでしょ?」


 インク代を心配して言って見れば、江里口くんは全くと気にしていない。


「氷室のうちで削除する前に印刷してきたから」

「そうなんだ……」


 その間、氷室くんはどうしていたんだろう? いや、どうでもいいんだけどね、それは。気になるのはデータの存在だ。


「もう、氷室くんの手元にデータは残ってないんだよね?」

「それは何度も確認したよ? 一応携帯の中身も机の周りも確認したから」

「あと、座敷牢の鍵の話をしてたよね? 手に入れたの?」

「もちろん、型を手に入れたよ」


 型? 型だけ手に入れたの?


「氷室のうちの鍵だから、そのものを手に入れるのは泥棒だよ」

「ぐっ……それはそうだけど……」


 確かにそうだけど、意味が分からない。その鍵が無くなれば、座敷牢が使用される事がなくなるんじゃないの?


「……明智くん、まだ読んでるね」

「そうだね」

「私も早く読みたい」


 希望を告げるも、はははと返される。


「今の彼に声を掛ける勇気があれば、どうぞ」


 無理です。不機嫌そうなオーラをかもし出す彼に、声をかけるの気が引ける。これは放課後まで待つしかない。


 だが、私の手に氷室くんのゲーム攻略の冊子が回って来る事はなかった。


 帰宅して部屋で着替えると、手を念入りに洗ってから弟の馨と戯れる。

 お母さんは買い物に出かけた。私が代わりを買って出たが、1人で外出したいと言われて引き下がる。弟はこんなに可愛いのに何故離れたいのか分からなかったが、丸一日面倒を見るとなると息抜きの時間も必要になるものかもしれない。

 今の私には、十分な癒しの時間になるので構わないが。


「ねぇ、馨。酷いと思わない? 私だって読みたいのにね」


 でも弟には酷かもしれない。私の愚痴に付き合ってくれているのだから。絆される笑みで返してくれるので、悪影響は出ていないと信じたい。


「帰り道はずっと黙っているし、声を掛け辛い不機嫌オーラ全開だし」


 弟の柔らかな頬を優しく突きながら、不満を述べる。


「家の前で紙を渡してくれると思って聞いたのに、ちょっと待てだもん」


 私の情報だってあるのだから、少しでもいいから教えて欲しい。本当はうがーっとでも叫びたいが、可愛い弟が怯えるのは避けたいので我慢。明智くんの自宅を知らないのが悔しい。

 お母さんが帰ってきたら、訪ねて冊子を読みに行きたかったのに……。今度部屋番号を聞いておこう。

 そう決心していたら、玄関の扉が開く音がした。買い袋の音が聞こえないからお母さんではなさそう。お邪魔しマースと声が聞こえるので、誰か分かった。

 要だ。


「オッス、花音。靴があったから、いると思ったんだ」


 ずんずんとこちらに歩いてくる。


「待った! 手を殺菌してきてよ」

「あ、ごめん」


 気付いて、勝手知ったるうちの洗面所へ駆け込む。


「可愛い馨に雑菌がついたら大変ですからねー」

「あー」


 軽く胸の上を撫でれば、私を見上げてくれる。

 うう、私の天使。帰ってきた頃、尖ったナイフのようにささくれ立った私の心は、和み一色。幸せだなぁ。


「花音、すごい顔してる」

「なによ」


 その幸せに水を差された。


「なんか顔が崩れてたから」

「それを言う為に来たの?」


 女性にいう言葉じゃ無いぞ、なんて暇人な! 半眼で彼をみれば、違う違うと首を振る。


「ちょっと聞きたいことがあったんだってば」

「聞きたいこと?」


 隠し事が多くなったこの頃、聞かれて不味い事ばかりなので後ろめたい。ジッと相手が喋るのを待つ。下手な情報を渡して、墓穴を掘りたくない。誰に言うわけでもないが、1人心で呟く。

 最近は用心深くなったんだよ、私も。


「あの、朝のあの人のことなんだ」


 朝の? ああ、明智くんのことか。


「一緒に走ってる明智くんのこと?」


 確認してみれば、頷いた。

 1年近く三人で走っているけど、あまり会話はしていない。むしろ無言で走りこんで、そのまま帰ってくるので息が切れてて挨拶くらいしか出来ない。息切れを起こすのは、ペースが早いから。明智くんが早めているのは、言うまでもない。

 ペースメーカーになって、私たちを引っ張っているのだ。


「俺ってさ、いてもいいの?」

「は?」


 一瞬、要の言っている意味が分からなかった。


「どうして?」

「いやだって……」


 もしかして走るのが嫌になってきたのかな? 私はお小遣い加算や、体力をつける為にも止められない。ここで止めたら更に非力になりそうで、恐いのだ。

 おばさんの命令で始めた要にとったら、負担にしかなっていないのかもしれない。今では明智くんがいるから、走らなくてもいいんじゃないかと思ったのかな?


「無理に付き合わなくてもいいんだよ?」

「え?」

「今、ジョギングというより本格的にランニングになっているから、キツイんでしょ?」


 そういうと反論された。


「違うよ、それくらい平気」

「ならどういう意味?」


 きちんと教えてください。お姉さんぶって聞いてみた。


「花音って、あいつと付き合ってるの?」

「……え?」


 一瞬、頭が停止した。そして蘇る記憶。勘違いした私の記憶が吹き出た。

 恥ずかしい! 明智くんは好意で側にいてくれているのに。いや、勘違いさせるような態度は誤解を招くよね? 将来彼は苦労するよね? 絶対に。


「花音?」

「ん?」


 呼ばれて返事をすれば、要が不安そうにこちらを見ている。えっと、なんの話だったっけ? 明智くん……明智くんの事を聞きたいんだね? なら、誤解を早く解かなければ。


「違う違う! 要、明智くんは私の保護者気分でいるんだよ?」

「なんだよ、それ」


 要が馨を挿んで、座り込んだ。


「朝一緒に学校行って、一緒に帰ってきてるんだろ? 違うの?」


 驚く彼に苦笑する。未だに遥ちゃんも勘違いしているのだ。何度も説明しているんだけど、私が恥ずかしがっていると思ってる。要がそう思うのも無理も無い。


「最近、痴漢や変態が多いし、あの事件があったから心配してるの」


 彼の口があんぐりと開く。


「だから、登下校も一緒なんだ」

「あー、あー」


 会話に参加したいのか、馨が手を振り回して声を上げる。


「馨も誤解しないでねー」


 手を掴んで応えれば、笑みが帰ってきた。ああ、可愛い。


「そっか……なら俺いていいんだ」

「当たり前でしょ? もう気遣い過ぎ」


 彼の様子に、説明しなかったことを後悔した。

 そうだよね、付き合っている二人と一緒にランニングって……第三者的に気まずいよね。本当に付き合っていないので、何も言わなかったんだよ。悪気があったわけじゃないからね!

 安心したのか、要も寝転ぶと馨を突いた。


「あ、優しくね」

「花音より上手くやれるよ」

「こいつ……」


 器用そうだから出来ないだろ、と言い難い。でも負けてたまるか!

っと、そうだ。


「ねぇ、要」

「なに?」

「あんたさ、何か護身術でも習ってる?」

「無茶言うなよ、ただでさえサッカークラブの練習で疲れてるのに」


 本格的なサッカークラブだから、コーチの熱がすごいと話していた事を思い出す。


「そうだよね、そうかー」

「突然なんで?」

「明智くんに頼り切りも申し訳ないから、ちゃんと鍛えたいなと思ってさ」


 二年になればクラスも変わるかもしれないし、いつまでもべっとりじゃ成長が無い。預言者様の言葉もあるから、ちょっと焦っていたりする。恋愛シミュレーションゲームだと、気楽に考えていた時代が懐かしい。

 こんなサバイバル的なゲームも込みだったなんて……神様、正直私には厳しいです。宇留間さんの存在も匂わされたので、こちらのゲーム確率も増えたと思う。監禁陵辱より恋愛シミュレーションがメインになるよう、頑張るべきかもしれない。

 でも、何を頑張ればいいのだか……。もしや、何かの生存ゲームみたいに『私が犯人の毒牙に掛かれば、(恋愛シミュレーションの)ゲームオーバー』とか? そして監禁陵辱系一本に! なんていうのは避けたいぞ、それだけは絶対避けたい。

痴漢変態如きに負けるわけには行かなくなってきた!

 ああ……なんで小学校の時に、空手か柔道を習わなかったんだろう? お父さんの反対を押し切って入ればよかった。中学生からじゃ遅くないかな。


「花音、色んな事考えてるんだろうけど、落ち着け、な?」

「あ、ごめん」

「すごい百面相だった。でもそうか、痴漢か……」


 要も腕を組んで考え始める。その姿が、サポートキャラを思い出し、後ろめたい気持ちになった。


「要も気苦労を掛けるね。大丈夫、なんとか考えてみるから」


 感謝しながら笑う。サポートキャラなんかじゃなく、いつも一緒に遊んだお隣さんなんだ。出来るだけ迷惑は掛けたくない。


「ちょっと、待ってて」

「え、どうしたの?要?」


 突然立ち上がると、急いで玄関へ走っていった。

 ゲームの要だと、相談したら情報を持ってきてくれるから、そうなのかも。何だかんだといって、彼をサポート扱いしてないか? 私。気をつけないと、私のエンディングに彼も係わりそうだから心配だ。

 今後、要と距離を置くべきなのかもしれない。

 こんな付き合いさえも制限しなければならなくなるのは、ちょっと悲しい。少ししょんぼりとしていると、馨がこちらを見ていた。


「ああ、馨、私にはキミだけだよ」


 弟はエンディングに係わりないだろう。馨に軽く抱きついた。


「お姉ちゃん、頑張るね」

「うー」


 バァン! あ、玄関が開いた。どたばたと足音がして、再び要が戻ってくる。


「花音!」

「手!」


 一度でも外出したら、また手を洗いましょう。

 要がもどかしく、洗面所へ向かった。申し訳ないけど、殺菌は宜しくお願いします。乱暴に洗ったのか、焦って洗ったのか、要のシャツが少し濡れている。どうしたのだろう? 少しは落ち着いてね。


「花音、これ使って!」


 彼が袋から黒い箱の様なものを出してきた。


「何?これ」

「ストップ」


 触ろうとすれば、手をどけられる。


「?」


 使ってと言うわりには、触らせてくれないの? 危ないものかもしれない。少し馨を引き寄せた。


「ここが持つ場所で、ここがスイッチ」


 説明を受ける、けどこれは何? 発信機か、警報機か……その類のものっぽい。そうか、ものすごく大きな音が出る警報機なら、痴漢対策になるよね! 納得すると、ものすごい音が聞こえた。


 ヂヂヂヂヂヂヂ!


 え、何の音? ちょーっと嫌な光も出たよね?


「よし、良好!」


 何が良好なのかな? にこやかな要さんが恐い。


「花音を狙うんだから、首筋いっていいと思う」


 首筋って、けっこう重要な体の場所だと思うんですが? 今度は馨を抱き上げて、少し下がる。


「うー」


 危なそうだから、少し離れようねー。


「躊躇したら、花音が危ないから、やっちゃえ」


 誰が、誰をやるんですか? どんどん、冷静になっていく自分がいた。


「あ、持つ所に気をつけてね? 後、手作りだから毎日メンテさせてもらうよ」


 でも、もう少し強化するか……とその黒いものを持ってブツブツと考え込む。えーっと、要さん? 要さん、どうしたの?

 私の必死な無言の問いかけに、彼が気付いた。


「ほら、未成年って売ってくれないだろ? だから自作してみたんだ」


 自慢げに話してくれる。いやいや、聞きたいことはそうじゃなくて。でも、未成年に売らないなんて危険なものだからじゃないのかな? 君は少し犯罪に足を掛けていないかい?


「えっと、何かな?それ」


 なるべく気軽そうに聞いてみる。


「え、これ?」


 不思議そうな顔をする要に、私は汗が大量に出そうだ。


「スタンガン」


 ヂヂヂヂヂヂヂヂ


 怪しげな光を放ちながら、彼は満面の笑みで応えた。



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