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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
27/503

江里口奏太


 江里口くんの言葉に驚いた。

 氷室くんは助けるつもりで動いたわけではない。偶然?

 でもゲームで知っていたからって……。あの時、愛梨ちゃんが私の落し物に気付き、明智くんに喋ったから、彼が探してくれた。

 そうだ、氷室くんはどこにも係わっていない。最後に、あの男へ攻撃をしただけだ。ショックで、ドスンとソファーに座ってしまう。

 なに、それ?


「面倒だなぁ……」


 江里口くんは飲み物を持つと、ストローを咥えた。


「え、なんで、でも、そこまで」


 氷室くんは驚き、震え、必死に何かを考えているようだ。

 目の動きが尋常じゃない。最後までコーヒーを飲んだ江里口くんは、コップをテーブルに置いて背もたれに寄りかかる。


「あの後、急いでゲームの話をして伊賀崎さんの心配したのは感心したよ。でもより詳細を思い出していくうちに、喋ったことを後悔していたね」


 氷室くんのフォローで、明智くんが動き、私は痴漢や変態に遭っていない。その感謝さえも消える言葉だった。


「残念だよ、僕の知り合いに似ていたから、楽しかったのに」


 江里口くんの目から表情が削り落とされる。いつも垣間見えている優しさが消えた。


「襲われていた伊賀崎さんを見てから、少しずつ君は変わった」


 それってどういう事なんだろう。


「ビデオカメラを回収したのだって、伊賀崎さんのデータが欲しかったんだろ? でも我慢した」

「ぐっ」


 氷室くんの顔が歪む。その顔を見て、全身を鳥肌が覆った。温かいお茶にすれば良かった、と頭の端で関係ない事を。暖房が効いているから、そんな理由で鳥肌にならないのに。


「行動にさえださなければ僕も静観してたよ」

「あれは、和田が!」

「そうだね。焦りから急いで名前を呼び親密度を高めて、軌道修正を行おうとした。全てを手に入れるために」


 違う、違うと氷室くんが首を振る。


「なら何故隠さず全てを話さない」


 眉を顰めて残念だと、江里口くんが立ち上がった。


「俺がやろうとしている事は保護だ、変態や痴漢から守ってやれるのは、俺だけなんだ!」

「だから午前中、家の地下にある座敷牢を掃除していたんだ」

「え」


 家に座敷牢があるって、どんな家なのよ、氷室くんの家って。


「お前どこで……」


 真っ赤になる氷室くんを見ると、本当に掃除をしていたみたい。今身近にいる攻略対象は私だから、そのつもりだったの? さっき言っていた『俺の側に』って、そういう事?

 あんまり変わらないけど、氷室くんから距離を取るべく、少しだけだけどソファーを移動した。ほんの少しでも離れたかった。

 でもその行動を氷室くんに見られて、もう帰りたくなった。

 家に帰って弟を抱きしめて、あの優しい匂いに包まれたい。


「はぁ……どうせ後から俺に惚れるのにって……頼む、これ以上嫌いにさせないでくれよ」


 驚いて氷室くんの視線が江里口くんへ移動した。


「なんで? ……心が読めるのか? 江里口」

「どうとでも。さて、あんまりしたくないけど、君は忘れたほうがいい」


 江里口くんが手に何かを掴んでいた。そしてゆっくりと氷室くんの額に寄せていく。氷室くんは動けない。近づいてくる彼の手を見つめたまま震えている。


「嫌な記憶は消して、まっさらな氷室に戻って人生に望もうよ」

「い、いや……だ、い……や」

「やはり最初からこうすればよかったんだ」


 彼は抵抗しない氷室くんの額に何か押し付けると、何かを呟く。聞き取れない音に集中しているからか、私もそのまま動けず見守っていた。しばらくすると、がたりと氷室くんが崩れ落ちるよう床に倒れる。

 ちょっと痛そう。糸が切れたように倒れる姿は、操り人形みたいだった。

 江里口くんは彼を助けもせず、こちらへ体を向ける。


「さてと、また知っているのが二人になったか」

「何が?」


 意味が分からないので、そのまま聞く。


「ふふ」


 目が笑ってないので、恐いです、江里口くん。


「あの男にした事を、氷室にしたんだな」


 明智くん、あの男って……あの変態さんだよね。さん付けはおかしいか、あの変態にした事って?


「そうだよ」


 江里口くんが肯定し、石を見せるように指先で掴む。無色透明、水晶かな?


「伊賀崎さんの時は粉砕したけど、まだ知りたい情報が入ってるから」

「?」


 なんとなく分かるようで、分からないぞ? 気持ちが分かるなら、教えてよ、江里口先生! ちょっと真剣に見つめていると、彼が苦笑して教えてくれた。


「今の伊賀崎さんの心は読んでないけど、目が物を言うってこういう事を言うんだね」


 あ、学級委員の顔に戻った! いつもの彼に戻ったので、少し安堵する。


「これに記憶を移動させたんだ。なるべく使いたくないんだけどね……本人が混乱して人格に支障がでる場合が多いから」


 手の平に乗せて、こちらへ石を見せてくれる。水晶は綺麗に見えるけど、あの氷室くんの記憶が入っていると思うと触りたくなかった。変な念を持ってそう。お寺に奉納した方がいいのでは?

 それより、色々なにか気になる点が激しくあるんだけど。

 そう思っていたら、先制するように彼が笑う。


「伊賀崎さん、物語でもドラマでも知りすぎたら……その人は大変な事になる、そう思わない?」

「ソウデスヨネ、エエモチロン」


 今度は心を読んだんですか? なんか恐いですよ、学級委員さん。私は敵じゃないです……って敵って何をするんだろう? 江里口くんに攻撃するにしても理由が無いし方法も考え付かない。

 記憶を取る以外に何か必殺の技を持っているかも。希望なんだけどね! それにこんな事誰かに話しても、可哀想な中二病として見られる事間違いなし。逆に彼からの返り討ちも考えられる。うん、敵なんて無理。

 江里口くんは素敵な友達です。友達は信用しなきゃ。

 頭が考えるのを拒否した訳ではありません。信用したんです。信じるって素晴らしい、ですよ。江里口くんを敵にする理由は、全く無いのですから。


「でも」

「でも?」


 これは聞いてもいいかなと思い切って聞いてみた。


「なぜ助けてくれたの?」


 無視して知らないふりも出来たのに。見せていた水晶をポケットに入れて、彼が腕を組んだ。


「この件は大勢の人が係わりそうだから」


 12人の美少女の件だろうか? まさか、江里口くんもハーレムを?


「基本、18を迎えていない女の子は助けるよ」

「え」


 先程とは違う内容で悩んでしまうよ。まさかのロリ……いや、今13歳だから、そうとも言えない。きっと上限5歳までOKという事なんだ。

 それにどんな女の子でも高校までは未成年みたいなものなんだから、助けてあげる、そういう意味なんだよね。そうだよ、紳士じゃないか、ジェントルマン!

色々考えていると江里口くんが、念の為にと話してきた。


「僕は女性を侍らせるの賛成派じゃないから、一人で十分だから、そこらへん勘違いしないでね?」

「あ、そうなんだ。良かった」

「やっぱし何か勘違いしてたんだ」

「え、違うよ? 心が読めるんじゃないの?」


 今まで心の中がばれていると思っていたので、知っているつもりで話していたのに。


「これはかなり力を使うから、頻繁に使用できないんだ」

「力を?」


 様子を見るに彼は全く疲れているように見えない。


「いつも読めていたら、気が狂うと思わない?」

「そうだよね、混線したラジオほど分かりづらいもんねぇ」

「伊賀崎さん、ラジオを聞いているの?」

「あ、いや、うーん、どうなんだろう」


 記憶というのか経験と言うのか、なんと説明したらいいかわからない。でもそこらへんの記憶は読まれたくないな。


「江里口、氷室の情報を読めるなら対策を立てたいのだが」


 雑談していたら、鬼気迫る明智くんが……。静かだから気にしていなかったけれど、すごく怒っているみたい。理由は私にもわかる。事件が起きるのを知っていて、何もしないなんて出来るわけがない。


「そうだよね、来年に宇留間さんが襲われるなら詳細をしって助けたい!」


 宇留間さんは、もちろん私のゲームに係わっている人だ。海堂一真の幼馴染。秘書的な役割で側にいるんだけど、寡黙な理由が氷室くんの言う『誘拐』からなら阻止したい。

 ほんの少し笑う彼女は素敵だった。なら満面の笑みを浮かべる彼女は、もっと素敵だ。


「江里口くん、情報が取り出せるんだよね、詳しく詳しく」


 勢いよく聞きだそうとすれば、拒否られた。


「ええー、今日はもう勘弁してほしいな。月曜に書面で持っていくから」


 彼は疲れたようにソファーへもたれ掛かる。本当に疲れているのか……なら無理はさせられないな。追い討ちをかける様で申し訳なかったけれど、更にお願いしてみた。


「あの、出来れば他の女性10人の詳細もお願いしてもいい?」

「それより自分の身の心配はしないの?」


 10人の詳細だけ聞かずに、自分の詳細も尋ねなかったから心配された。


「あ、そうか。これからまた何か起きるかもしれないんだった」


 いけない、忘れてた。

 氷室くんの記憶が消えたことで、私の脅威が去ったとは言えないんだった。私がショックを受けていると、江里口くんが背もたれから起き上がり、ポケットを探り出す。なんだか色んなものが出てきた。

 綺麗な石や何かの形をした物や、くしゃくしゃの紙に……。整理はした方がいいぞ、江里口くん。学級委員の彼のイメージが、少しずつ変わっていく。

 整理整頓、綺麗好きで真面目な彼が、実は! に。でも紳士でいい人には変わらないか。全部のポケットを探っても、目的のものが出なかったらしい。


「おっかしいなぁ……。まぁ、まだいいか」


 あ、諦めた。諦めるのか、江里口くんも。つい興味津々に見てしまった。視線が合うと、少し恥ずかしそうにポケットへ手を入れる。可愛く見えてしまったよ、13歳だもんね。


「月曜でも大丈夫だろうか」


 明智くんの問いに、江里口くんが氷室くんの石を取り出して答える。さっき使った水晶は、すぐに見つかるんだ。やはり怪しい念が入っているから?


「恐らく。氷室の予定も何もない」


 その答えを聞いて、一緒に安堵した。良かった、酷い目にあう子がいないというのは嬉しい。


「江里口には助けられてばかりだな」

「二人は大勢の人と係わることになるから、……これから宜しくね」


またあの、にっこりの笑みを浮かべる。気になる言葉が多いよ、なに? 大勢の人とって。


「あ、そうそう。僕は無力だから力を求められても、何も出来ないからね」


 その言葉に、RPGの世界を思い出した。


「魔法使いは勇者じゃないって事ね」

「伊賀崎さん……」


 的を得た発言と思ったけど、外したみたい。あれ? しくった?

 なら、そうだ!


「預言者だったっけ」


 真面目に話しているつもりなのだが、より疲れさせてしまったみたい。ごめん、江里口くん。そんなつもりじゃなかったんだ。


「つまり、荒事や厄介ごとを持ってこられても、対処出来ないよってこと」

「おお」

「分かっている」


 代わりに明智くんが締めくくった。部外者じゃないのに、私が一番部外者な気持ち……。男と女の友情には隔たりがあるというけど、こんな気持ちかもしれない。

 江里口くんが氷室くんの頬を叩き、起こしにかかる。


「氷室、氷室、大丈夫?」

「……ん、あ?」


 氷室くんは盛大な伸びをすると、立ち上がった。


「なんだか体が鈍っている気がする」


 首を左右に傾げ、腕を軽く回す。


「最近疲れてるんだって、部活に期末試験に頑張ってるんだろう?」

「ああ、そうだ、英語を聞くと眠くなってきて……」


 前までの氷室くん、に見える。


「あれ? ここは?」

「みんなでカラオケに来たんだけど、曲を選びながらお前が眠ったから驚いているところさ」

「え、そうだっけ???」


 混乱している氷室くんに私もフォローしてみた。


「いきなりソファーから落ちたから、みんな心配したんだよ」

「え、寝落ちとか恥ずかしい」


 氷室くんが頬を押さえる。


「今日はもう帰ろう。またいずれ」


 明智くんが立ち上がる。


「せっかく来たのに?」


 何も覚えていないはずの氷室くんからブーイングが。……記憶の欠落ってもっとすごいものを想像していたんだけど。


「行こう」

「はいはい、分かったよ」


 マイクや荷物を纏める、明智くんが先に部屋を出ると氷室くんも渋々後を着いていく。いつもなら明智くんの後ろをすぐについていくのだが、氷室くんが動いたので待った。あと、江里口くんに1つ相談したいことがあったから。


「さ、伊賀崎さんも行こう」


 彼が扉から出ようとした時、そっと腕を引っ張った。


「どうしたの? まだ氷室が恐い?」


 心を常に読んでいない事が、今はっきりと分かる。

 私の心は今から聞きたい事、それで一杯なのだから。あまり遅いと二人が心配してここに戻るだろう。外に出たら明智くんと一緒に帰るし、彼は氷室くんと帰る。月曜にこの話をしても遅い。

 だから、今しかチャンスがない。そう思うと、つい焦ってしまう。


「氷室くんはノートを持ってないかな?」

「ノート? なんの?」


 私は慌てながら喋った。


「記憶を書いたノート、ほら、考えをまとめる為にも書いたりしない?」


 私のように。


「ノートじゃなくても、パソコンや何かにゲームの情報を書いてないかな?」


 もしそれを読んでしまって、記憶の補完が出来てしまったら……。江里口くんの記憶を取るものが、どういうものかは分からない、けど危険なものは排除した方がいいに決まっている。

 ちゃんと伝えられているかな?

 必死に捲くし立てて話していると、ポンポンと肩を叩かれた。


「大丈夫。これから一緒に氷室の家に行くから。座敷牢の鍵も欲しいし」

「え」


 座敷牢の鍵? 何に使うんだろう。


「それより、明智くんがこれから離れていくから、その対処方法を考えた方がいいよ」


 いきなり聞かされた預言者の言葉は、重かった。



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