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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
24/503

主人公


 かなり濃いお昼休みを過ごしてしまった。

 その後、無事に教室へと戻ることが出来たが……。内緒にされていたことが思いもよらない話だったので、呆然としてしまう。

 明るく楽しい恋愛シミュレーションから、陵辱系に移行だなんて……かなり衝撃的なんですけど?

 主人公格から降ろされ、攻略対象にされているのも驚きだ。

 少し気が楽になったかも? と思いつつも余計なスペックを装備したので頭が痛い。

 痴漢や変態とのエンカウント付きなんて、呪いに近い。明智くんがいなければ、既に遭遇している可能性大だった?

 気軽に外出できなくなりましたよ、ええ。

 氷室主人公ゲームは、なんてゲームだ!

 色々考え過ぎて、午後の授業は集中できなかった。和田くんの言葉が、脳裏で何度も反芻してしまっていたのも大きい。


『僕だけじゃなく、氷室くんも陵辱監禁が出来るゲームなんだよ』


 なんて爆弾を投下するのよ。

 これ以上、悩みの種を植えつけないでほしい。

 ……でも良かった、恋愛シミュレーションの主人公かもしれないと誰かに話をしてなくて。

 痛い女確定! だけでなく、全くそんなんじゃなかったという……。要なんかに話をしていたら、大爆笑間違いなし、一生ネタにされてしまう。

 帰ったら、ノートを捨てよう。万が一、親に微笑ましく見られてたら……ああ、もう!! 想像だけで軽く身もだえしてしまう。

 黒歴史以上の暗黒レベルだもの。

 5時限目が終わると、明智くんの背を軽くつついた。すると彼はすぐに振り返ってくれる。


「どうした?」


 氷室くんには聞かれたくないので、小声で話す。


「ねぇ、いつ和田くんから話を聞くの?」

「伊賀崎を送り終えたら。今日はもう外出するな」


 やはり、私抜きか。


「私も聞いておきたいな」

「聞いてどうする」

「え?」


 なんで? 聞いちゃいけないの?


「だって私の事なんだよ?」

「聞いても面白い話じゃない」


 そりゃあ、ゲームが18禁っぽいからね。でも引き下がるわけには行かない。

 なぜなら私が入っているからだ。


「そこを気遣われてもね。知っていると知らないじゃ心構えが違うし」


 私が食い下がるので、彼は印籠を出してきた。


「弟を待たせていいのか?」

「うぐっ」


 愛らしい弟で諦めさせるなんて、ずるいぞ。


「い、一日だけだもん。それに、万が一明智くんが病気や不在になった時、困るじゃない」

「氷室や和田が居るだろ」

「それは、ちょっと信用が」


 いくら良い人でも、出来れば今後係わりたくない方々だ。変なフラグとか立って、私もおかしくなったら困る。


「そうか」


 頼られて、嬉しいのかな? すこしご機嫌になった明智くんは、席を立つと和田くんの席へ向かう。女子に囲まれていた彼だが、彼女達に断りを入れて教室の外へ出る。

 彼らを見送ってたら、同じ様に氷室くんも見ていた。

 ただ、彼はすごく荒んだ顔をして、周りが見えていない。

 彼は私の列の一番後ろの席なんだけど、明智くんたちを鋭い目つきで凝視していた。彼は大丈夫なのかな……、お昼休み後から目に見えておかしい。

 私はそのまま真後ろの学級委員へ声を掛けた。


「江里口くん、江里口くん」

「なに? ちょっと忙しくて大変なんだけど」


 なにやら書類を一生懸命に書いている。先生から目を付けられた彼は、生徒会の仕事を手伝わされていた。あのズボラ先生、生徒会の顧問だったらしい。働けそうな蜂を見つけては、捕まえて生徒会室へ送り込む、つまり江里口くんは選別され捕獲されたのだ。

 あのLHRで張り切らなければ……同情するよ、江里口くん。そして仕事を増やしてごめんね。


「氷室くんの荒み具合が激しくて、恐いんだけど」

「ん?」


 彼が振り返って、氷室くんを軽く確認する。


「んー、頭の中が真っ黒な感じだね」


 まさしく、そう見えるよね。


「それって、人でも刺しそうって感じ?」

「ははは。物騒だね、伊賀崎さん」


 目つきから、いつか和田くんを害しそうで恐い。江里口くんは持っていたシャープペンを机に置くと、私の目をジッと見てきた。


「知ったんでしょ? 彼らの話」

「……えっと」


 この場で言える内容じゃない。どう答えていいのか、口ごもってしまう。


「雰囲気で予想がつくよ。氷室は、しばらく様子見だね」


 フォローしてあげないの? 友達なんだから、声を掛けてあげればいいのに。


「友達でもこれはちょっと問題が重いんだ」

「重いの?」


 彼は考えて、頭を軽く掻く。なんで問題が重いんだろう? 江里口くんは何か聞いているのかな?


「そうだね……すごく感情移入したゲームがあったとして」

「あったとして?」

「スペシャルハッピーエンドが見たい」

「うん……」


 にっこりと笑った。え、何? 私はそんな18禁ゲームしたことないよ? その、違う女性向けのゲームなら......って、あれ? あのゲームのスペシャルハッピーエンドってどんな状態なんだろう?


「その為には全ルートを攻略しなければならないなら、どうする?」

「全ルートを……?」

「そう」


 それって……全員から好意を向けられなければならないとか、ハーレムエンドとかいうやつ? それともどんなハンピー、アンハッピーエンディング総なめしないと駄目と言うこと?


「マルチエンディング全てを見ないと、真のハッピーエンドが見れない。そうなると、見たくない物も見なくてはならない可能性が高いよね」


 まぁ、そういうゲームが多いかな?


「氷室は大好きなキャラが壊されるシーンを色濃く覚えていてね」


 氷室くんは私の様に、大人の記憶を持っているの?


「それはどうだろう、聞いてみたら?」

「え。何を?」


 あれ? 私、もしかして、口に出して喋っていた?


「さあね。でも氷室はどんなキャラのどんなシーンが気になるか知りたい?」

「いや、それは……」

「彼女が現れるのは高校の時らしいんだ」


 高校! 同じ学校でないといいな。


「物語が始まるのは、高校から。伊賀崎さんもだろ?」

「え」

「伊賀崎」


 明智くんが戻ってきた。


「下校の時に途中で合流するよう話してきた」

「ありがとう」


 どうやら和田くんと今日のスケジュールを合わせてきたらしい。私が動揺しているのに気が付いたのか、彼は江里口くんに話す。


「江里口、伊賀崎の件だが和田に協力してもらう事になった」

「それがベストだろうね。氷室とは今、ちょっと距離を置いた方がいい」


 江里口くんはそう言うと、また書類を書き始めた。気になる言葉があったけど、また邪魔するのも悪いので前を向く。

 江里口くんは何か知っているのか、それとも分かっているのか。次の授業も悶々として、全く頭に入らなかった。

 期末試験が近いのに、どうしよう。


 下校時間。明智くんと一緒に帰るけど、和田くんは女子に囲まれて教室を出て行った。どこで合流するんだろう……。モテモテな彼に非難の声が上がらないのは、ゲームのお蔭なのか中学生だからなのか。


「花音ちゃん」

「ひゃっ」


 呼ばれて驚いてしまう。


「ごめん、びっくりさせて」


 氷室くんが傍に来ていた。


「な、何かな、氷室くん」

「俺といたら安全だから、俺といない?」


 突然すぎる提案に、頭が速攻で『No!』と判断を下す。

 けれど、もちろん態度ではまだ出さない。今の彼は何をするか分からないので、ソフトな対応で処理しなければ。


「氷室くんは剣道部でこれからまだ学校にいるでしょ?」

「あ……」


 思い出したように、彼は頭に手をやる。


「それに、明智くんが一緒に帰ってくれるから」

「あ、そうだよな、そうだ……ごめん」


 そして空ろな目をして教室を出て行った。

 大丈夫か、氷室くん。明日あたり何かしでかさないか、(私の身が)心配だ。


「それじゃ、行くか。伊賀崎」

「うん」


 明智くんから促されたので、私がカバンを持ってついて行こうとすると、江里口くんがぼそりと呟いた。


「伊賀崎さんもいろいろ選択を気をつけてね」


 彼を見れば、バイバイと手を振られた。

 なに? 私、何かした? 気を付けてって、何か選択ミスでも?

 氷室くんがおかしくなったのは私の所為だったりするのかな? もう少し優しい助言を求む、江里口くん。

 ぐるぐる考えながら明智くんの後ろを付いていく。

 靴を履き替え、校門を潜り、歩いていると途中で和田くんが現れた。


「ごめんね、こちらの指定に合わせてもらって」


 周りを見ると、私の通った事のない道だった。

 考え事をしていると、回りが見えなくなる。にしても、見えなさすぎじゃない? 私。


「いや、話が聞けるなら助かる」

「私が聞きたいって言ったから、スケジュール変更させてごめんね」

「ううん、聞いておいた方がいいよ。身の安全に係わるから」


 和田くんはにっこりと笑いながら話してくれるのだが、内容がいただけない。気楽に聞けないよ。


「あまりよろしくないが、うちで話すか?」


 明智くんが提案してきた。珍しい、彼が家に呼んでくれるなんて! でもよろしくないって……例のアレかな?男の家に女性がってやつ。


「それって、私がいるから?」


 友達なら関係ないと思うんだけどな。


「色々な意味でそうだ」

「色々?」


 複数の理由なんて、嫌な予感しかない。


「伊賀崎と同じ場所に居続けるのは、呼ぶ危険性がある」

「うそ!」

「それと男の家に……」

「それは分かってる。それより呼ぶ危険性って」


 私ってホイホイ的な存在なのかと思うと、切なくなった。というか、異常発生しすぎじゃない? 痴漢と変態が。でもそうなら、これから家族旅行や弟とお買い物とか出来なくなるの?

 絶望していると、和田くんが声を上げて笑った。

 人の不幸が楽しいのか、酷いよ!


「ごめんごめん、今なら大丈夫だよ」

「何が大丈夫なのよ」

「僕がいるから」


 その言葉に、明智くんは周りを見回し、ホッとしていた。


「本当だ、嫌な気配が無い」

「私ってどんだけ明智くんに迷惑を掛けてるの……」

「気にするな。負担になっていない」


 男前過ぎる、将来凄腕のSPになれるよ、きっと。


「氷室か僕と一緒にいれば、痴漢や変態は現れないんだ」

「お守りみたいね」

「あははは、そうだね」


 私たちは近くの公園に行くと、ベンチに座った。

 明智くん、私、和田くんの並びだ。

 うわぁ、ちょっと男を侍らせてる悪女に見えない? 大丈夫かな? 不安に思っていると、明智くんが話を進めてきた。


「詳しいゲーム内容を知りたい」

「氷室くんからは聞いてないのかい?」

「この世界はゲームに酷似していて、これから伊賀崎が危険な目に遭い易いとしか」


 和田くんはそうか、とバッグからノートを取り出した。



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