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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
19/503

第三中学校


 なんでこうなったんだろう。

 横にいる明智くんは、何も言わず歩いている。


 先週までは遥ちゃんが隣にいて、普通の事を話したり笑っていた。

 表現がおかしいかもしれないが、世界の色が変わったように見える。ほんの少しだけ異常が、平穏な日常を濁している、そんな気がした。

 気のせいに違いない。けど、不安でたまらなくなる。


 前を見ても、後ろを見ても、第三中学校の生徒が1人もいないのだ。遥ちゃんはもちろんの事、誰も。

 何かこの状況に要因があるんじゃないだろうか? そっと明智くんを見れば、視線に気が付いてくれたようで、何? と応えてくれる。


「あのね……」


 SDカードには遥ちゃんの姿が? それだったら明智くんは、友人が待っていると言わない。だから大丈夫だよ、ね。

 それで、気が付きたくないことが1つある。

 愛梨ちゃんの泣き顔が脳裏に浮かんで消えた。もう1つ考えたくないことは、彼女の過去に似ている自分。


「ねぇ、もしかして私が襲われたと噂されてたりする?」

「あの時急遽引き上げたのは伊賀崎と頼元だ。噂になる可能性は高い」

「そうだよね、そう思われても不思議じゃないよね」


 遥ちゃんが犠牲にならなかったのは良かったけど、避けられたのはきつい。愛梨ちゃんもこんな気持ちだったんだろうか。少し、泣きそう。


「大丈夫だ、詳しい話は江里口と氷室がそれとなく広める」

「痛快活劇にして?」

「落ち着け」


 わざと大げさに言ってみると、軽く嗜められた。


「不安なのは分かる。が、俺たちがいる」


 揺るぎない大木の様に明智くんが言い切る。そうだ、私の為に頑張ってくれている人達がいる事を忘れちゃいけない。気持ちを無駄にしない為にも明るく考えなくては。


「ごめん、ちょっとへこんでた」

「自身で気付けたのなら、いい」


 少し笑ってしまう。すると、突然静かだった周りが音に溢れた。周りを見渡すと、ポツポツと制服姿の人影が目につき始める。


「???」


 私は困惑するばかりで、静かに息を吐いて緊張を解す明智くんに気付かなかった。


 学校にはたくさんの生徒がいて、先週と同じような雰囲気に見える。

 靴箱でいつものように上履きへ履き替えて教室に向かう。2組の前で、笑い声が教室から聞こえ、何事かと覗けば、氷室くんが教卓で身振り手振りで話をしていた。


「最初は寝ていると思っていたら、なんと奇声を上げて襲い掛かってくるじゃないか!」


 バシッと教卓を叩くと、彼は目を閉じ溜めながら唸った。


「そこで俺の必殺剣が犯人を捕らえたわけよ」


 格好良く教卓に登り、えいやぁと両手を振る氷室くん。


「嘘つけ!」


 即行で男子からツッコミが来た。


「何をぉ!! 剣道二段の腕は嘘じゃないぞ!!」


 本当に段持ちのようで、自信ありげに両手を組む。

 とりあえず、氷室くん。教卓から降りたほうがいいと思うよ?


「氷室、お前倒れてた犯人の頭上に叩き落しただけだろ?」


 江里口くんが溜息交じりに彼の制服を引っ張る。やはり学級委員、教卓に上る彼を見逃せなかったようだ。


「江里口! それは言わないで」


 いやん、と氷室くんは両手で顔を隠してうずくまる。


「やっぱりなぁ」


 教室内に笑いが飛び交う。


「いやいや、俺が最初に立ち向かってたら」


 立ち直ったのか、教卓から降りると氷室くんは胸を張って格好をつける。


「あの短い薪で戦うの?」


 女子からの指摘に、彼がうっと仰け反る。


「えっと、まぁな! かの武蔵だってオールで戦ったんだし……」


 オールと聞くとなんか誤解しそう。使ったのは櫂を削ったものじゃなかったっけ?


「剣豪と一緒だなんて、大きく出たなぁ」

「オールと薪じゃねぇ」

「いいじゃないか、俺がヒーローで、ね、頼元さん」


 いきなり話題を振られた愛梨ちゃんは口を微妙に開けて、視線を泳がせた。頼りにした彼女の対応に氷室くんが焦る。


「あれえええ、頼元さん???」


 愛梨ちゃんは別段彼を否定したわけではない。彼女はたくさんの視線を受けて緊張しただけだ。


「ほら、やっぱり明智がやったんだろ?」

「俺も活躍したんだってば、ね、江里口見ただろう? 俺の勇姿」


 氷室くんが学級委員に縋り付く。


「はいはい、すごかったすごかった。犯人を踏みつけて頑張ってた」

「ちょっとぉおお? 誤解招くから、それ」


 楽しそう。他人事なら一緒に笑いたい。


「あ、明智だ」


 誰かの声に、全員の視線がこちらに集中する。でも、明智くんは気にする事無く自分の席に着いた。強いなぁ、と感心しつつ私も後に続く。


「ねぇねぇ頼元さんを逃がして、伊賀崎さんも戦ってたんでしょ?」


 朝の挨拶も無く、席の近い七瀬さんが側に来た。


「おはよう、七瀬さん」


 彼女の勢いに押されつつも、一応挨拶をしてみる。


「いいなぁ、私も守られたい!」


 野村さんも私の席に来た。あの、挨拶……。江里口くんが席に着き、フォローのように喋り始める。


「おはよう、伊賀崎さん。彼女は戦ってないよ? 少し離れて見ていただけ」

「それってなんで?」

「彼女は走るのが速いだろう? 俺たち三人がやばかった時の保険」

「ええー」

「ナイフとか武器とか持ってたら、即走ってもらったよ」

「武器はむしろ氷室くんが持ってたわけね」

「え、なに? 俺卑怯者にされてない?」


 氷室くんも参戦、するが会話に入れていない気がする。


「ねぇねぇ、明智くん、空手とか習っているの?」


 七瀬さんが明智くんの前に移動したからだ。続いて野村さんも移動。

 ……氷室くん、ドンマイ。

 キミも頑張っていたし、輝いていたのは私が知っているからね。でも倒れていた不審者を発見して通報じゃなかったのかな? 情報にズレを感じるぞ?

 ちらりと江里口くんを見れば、苦笑していた。

 まさか氷室くんのアドリブ? 大丈夫かな……なにかボロが出ないといいんだけど。明智くんにみんなの注意がそれたので、私はチャンスとばかりに席を移動して愛梨ちゃんの所へ移動する。


「おはよう、愛梨ちゃん」

「花音ちゃん……お、おはよう」


 ぎこちない笑みを浮かべて挨拶を返してくれた。緊張しているんだろうな、教室の会話の内容が内容なだけに。出来れば早く消えて欲しい話題だ。


「おはよう、伊賀崎さん」


 横から長谷川さんが来た。


「おはよう、長谷川さん」

「おは……よう」


 愛梨ちゃんが少し縮こまる。


「あのさ、あの時なんで教えてくれなかったのよ。はっきり言ってくれたら私だって助けたわ」


 どうやら愛梨ちゃんの居場所を聞いた時の事を言っているようだ。話せたら話してたよ、長谷川さん。色々あったんだ、本当は。


「あのね、勘違いしてたんじゃないかって恐かったの」


 考えていた理由を述べる。


「とっさの事だったし、ただの愉快犯で驚かされただけだったら過剰防衛になるでしょ?」


 本当は寝ているだけの人だったはずなんだけどね。良かった……さっきの氷室くんの大立ち回りみたいなの見てて。じゃないと話がずれてた。


「……でも頼元さんははっきり話さなければならなかったと思うわ」


 びくりと愛梨ちゃんの体が震える。


「ごめんなさい、心配をかけて」


 彼女を庇うように謝ってみた。


「全くだわ。泣いてばかりいても何もならないのよ」


 ああ、やっぱりそれだけじゃ治まらないか。どうしようかと思っていたら、思いもよらぬ方向から援護が来た。

 和田くんだ。あの、私とは違って女子に囲まれている、和田くんだ。


「まぁまぁ。長谷川さん、落ち着きなよ。頼元さんも反省してるみたいだし」

「和田くん」


 優しげな声に場が和む。


「別に……落ち着いているわ」


 あれ? 長谷川さんの頬が少し赤い。声の質も変わったようだ。


「伊賀崎さんも大変だったね。体調が悪かったんでしょ? もう大丈夫かな」

「おはよう、和田くん。ありがとう、もう元気よ」


 チャイムが鳴った。


「席に着かなきゃ。愛梨ちゃんまた後でね」


 私は急いで自分の席へ戻る。

 なんだろう、和田くんのあの空気。イメージは『春』。格好良いわけでもなく、悪いわけでもなく……普通? そう、普通なのに……えーっと、うーん、……そうだ、フェロモンを振りまいているような感じがする。声質も優しいし、気を緩めてしまいそうな雰囲気。

 これはモテる訳だ。

 先週の班分けで女子が争っていた理由が分かる。でも近づきたくないな。女子は心を開いて当然と思っている。なぜかそう思えた。


「あれ?」


 決め付けは良くないのに、どうしたんだろう、私。


「おはよーぉ」


 先生が疲れていますアピールをしながら教室に入ってきた。


「先生はほぼ徹夜で馬車馬のように働きすぎて死にそうだ」


 寝てないアピールをしているが、後頭部に寝癖がある。


「これから体育館で校長から話がある。明日は緊急保護者会があるからこれを親に渡せよー」


 面倒くさそうにプリントを配り始めた。


「テレビに映れるかもとマスコミに近づくなよー、不名誉な映像だぞー、半永久的に残るぞー、消せないぞー、後悔するぞー」


 間延びした声で淡々と配る。


「特に氷室、ヒーローだからって調子に乗るなよ? 静かにしとけー、もう喋るなよ?」


 先生の注意にみんな驚く。


「ヒーローって明智くんじゃないの?」


 七瀬さんの言葉に明智くんが口を開いた。


「俺は犯人を突き飛ばしただけだ、氷室が動けなくしてくれなければ危なかった。それに空手は習っていない」


 習っているのは総合格闘だよね。明智くんのカミングアウトで教室がざわつく。


「ほらな、言ったろ? 俺ヒーロー!」


 氷室くんが立ち上がり、両手を広げる。


「運が良かったんだ。残り少ない運を大事にしろよー」

「先生、そりゃないよ!」


 途端、みんなが笑った。


「そして伊賀崎、お前も慎めよ? 逃げずに調子のって野次馬なんかしていたから熱がでたんだ」

「すみません」


 そうか、私は野次馬扱いなのね。微妙なアピール寸劇の後、先生が体育館へ移動を命じた。江里口くんの『保険』という扱いから『野次馬』に下がった私の評価が気になるところだが、その方が真実味があるなと納得する。


 体育館では校長先生が落ち着くようにとか、外出を自重するようにだとか取材には応じないようにとかをいかに生徒の為であると話した。

 事件後に外出を自重しても意味が無いような気がするけど。

 一時的にスクールカウンセラーが滞在してくれるそうで、体調不良や恐い人は担任に相談したら受けられるらしい。私は受けないが……。

 早く日常に戻って欲しい、それだけだ。


 2時限から通常の授業が始まり、何事も無かったように時間が進んでいく。ただ、休み時間になると氷室くんがみんなに剣道をしよう! と勧誘が始まったくらい。話を大きく盛り込んだのは、剣道部勧誘の為のデモンストレーション? 剣道か……入ろうかな……。

 いや、もうすぐ家には新しい家族が来るから、部活に時間を割きたくない。体育会系は時間厳守だろうし、休むなんて難しそうだ。心置きなく赤ちゃんと過ごす為に部活は諦めよう。当分は赤ちゃんに癒してもらうんだ。考えるだけで嬉しくなってきた。

 早く会いたいな、妹か弟よ。



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