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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
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携帯電話

 机の上に携帯がごろんと転がって、どのぐらい時間が経っただろう。


 傷ひとつ無い新品に見える携帯。スマートフォンですよ? 駄菓子と違うんです、高級菓子とも違うんです。更にその上を行くモノだ! 一体幾ら……しかもCMでよく見る新しい機種ですよ。最新の携帯は高額なんです。

 私の部屋にその携帯があるなんて親が知ったら? 絶対に怒られます。

 正座をさせられて説教が始まる事間違いなし。ただでさえたくさん心配をかけ、不安にさせてしまったのに。これ以上だと私の信用が……。


 『預かっていてくれ』


 不意に明智くんの言葉を思い出した。

 預かって、と言うのなら彼のだよね? うん、これは預かり物なんだから、深刻になる必要なんてないよね。

 自分の信用云々の事を先に考えてしまって恥ずかしい。明智くんは理由無しにこういった物を渡したりなんかしない。信用されて渡されたんだから、責任持って預かろう。


「………」


 ちらりと携帯を見る。

 電源は入っていた。好奇心で、少し操作してみる。お父さんやお母さんの携帯なんて触らせてもらえない、というより触りたくない。……携帯には悪魔が住んでいて、見たら必ず後悔するという。

 触らないのは大人の記憶の所為かもしれないけど。


 悪魔は知りたくない情報を与えてくれるのだ。もし私の事が書いてあったら? それが褒め言葉じゃなくて、否定する言葉だったら?


 泣く、絶対に泣く自信がある。あ、想像だけで涙ぐみそうだ。

 この携帯は私に預けるくらいだから、見てはいけないものはないだろう。見られては嫌なものはロックしているか削除してるはず。そう自分を納得させて触る。電話帳だけ……と思って見ると、『明智』一件だけ登録してあった。

 わざわざ一件だけ?

 明智くんが、私に預けた携帯に彼の番号が入っている。これは掛けて来いという事なのかな……。それとも?


「うーん」


 少し考えて、電話が掛かってくるのを待つことにした。自分が契約者でない携帯を勝手に操作して電話するなんて、私には無理。こういうのは相手に許可を取ってからじゃないと、うんうん。

 真新しい携帯を見て、ふと心配になった。この新しすぎて傷の無い携帯って新品だよね。まさか私との連絡の為に契約しに行ったのかな……。

 そういえば明智くん、図書カードを大量に持っていると言っていたけど、金券ショップで携帯購入資金を作ったんじゃ? 私に怪我をさせたかもと責任を感じて動いている明智くんを思い出し、まさかと考えてしまう。

 いやいや、まさかそこまで私の為にするわけないでしょ。きっと、前から携帯を購入しようと思っていた、偶々タイミングがあっただけなのかもしれない。まだ誰も連絡先知らないし、ちょうどいいと思って貸してくれたのかもね。お昼頃に理由をつけてうちにくれば、返せるし。そうに違いない。ただのクラスメイトに携帯用意するなんておかしいもの。

 ……ってあれ? 中学生だけじゃ携帯の契約って、出来ないよ……ね? 昨日親から買ってもらったばかりだったりして。


「えー……」


 それは危険すぎる。親御さんが彼の為に買ってあげた携帯を私が持ってるってダメですよ!? 万が一親御さんから連絡があったらどうするの、明智くん! 出ないという手もあるけど、何度も掛かってきたら罪悪感ハンパないです。親が子供の携帯に連絡を入れるのって大抵緊急時じゃないですか。まかり間違って私が出てしまったら……。


  ご両親「なぜ息子じゃない?」

  私「拾いました」

  ご両親「どこで?」

  私「えっと」


 脳内シミュレーションで失敗。どう答えたらいいのよ。

 駅? 学校? 商店街?

 いやいやいや、明智くんの家の場所を知らないから安易に答えられない。ご両親に「なぜそんな所に?」と言われたら、今度は明智くんが両親に心配される。

 そうだ、うちに来た時に忘れて帰った……って明智くんと江里口くんの訪問って先生のお墨付きだったんだよね。ではご両親は? 今朝うちに来たことはご存知なのかしら?

 すんなり二人を帰してしまったのは失敗だったかも。巾着袋をひっくり返してメモか何かないか探すも、携帯の他には金平糖だけ。うわー、どうしよう。


 ブブブブブブブ ブブブブブブ…


「ひゃあっ」


 突然、携帯が震えて動き始めた。

 携帯の着信をバイブに設定してたのか。バイブが作動して、机の上を生き物のように移動する。これは誰から? 手に取ると、表示に『明智』と出て着信を教えてくれていた。が、発信者電話番号も表示されている。最初の3桁の番号は携帯を指し示していた。


 携帯の番号? 緊張が走る。


 巾着袋を渡してきたのは明智くん、だから彼の携帯と思われる。携帯の着信は登録されている『明智』からで、その番号は携帯から。親御さんでしょうか……。可能性は無きにしも非ず。

 お風呂に入ってさっぱりしているのに、背筋に汗が流れ出そう。


 ものすごいプレッシャーが!

 

 携帯を購入したら、きっと親と赤外線通信を行うと思う。きっと1件目の登録データは明智くんと一緒に購入した親だ。ならば、出られない。あああ、親御さんが不安に思っているだろうな。すみません、すみません。今少し諦めてください。すぐ明智くんを探してみますから。


 ……しまった、家から出れないんだった。


 お母さんから外出禁止を言い渡されてたんだ。携帯の前でおたおたしていたら、着信が切れる。留守番電話になったのかな? ホッと胸をなでおろすが、問題が片付いたわけじゃない。どうしよう。

 なんとなく窓を開けて家の前を見てみる。明智くんいないかなぁ……。江里口くんと歩いていってしまったし、もう自宅だったりするのかな。親御さんから電話だから、自宅ではないのかも。

 考えていると、また着信が!!

 私は机の前に戻ると携帯に向かって必死に祈りを込めた。この着信は彼の帰りが遅いから心配して掛けてきているだけですように。緊急の出来事ではありませんように、と。


 ブブブブブブブ ブブブブブブ…


 さすがに着信件数が20を超えると、無視出来なくなってきた。

 かなり心配されているのでは? 困っているのでは? と恐くなる。ものすごく悩んで、悩んで…出ることにした。

 体調を崩したので学級委員と一緒にきてくれたんです。その時に落としたのでは? と思うんですが……よし、これで行こう。

 操作方法を知っているので、さっさと通話を押す。腹を決めたら、速攻対応して終わらせよう。


「もしもし」


 恐る恐る話すと、聞きなれた声が聞こえた。


『もしもし、伊賀崎?』

「はい。……もしかして、明智くんだよね」


 念の為に聞いてみる。


『そうだ』


 分かっていても、本人だと確認が取れると安心してしまう。良かった、親御さんの緊急電話じゃなかった。


「びっくりしたよ、お菓子の下に携帯なんて……」

『すまん。こんな方法しか思いつかなかった』


 そうだよね、自宅へ電話しにくいだろうから分からないでもない。異性への電話なんて公的以外にする場合、躊躇してしまうよね。特に中学生なんて微妙な年齢だと更に。


「……お菓子は食べていいの?」


 気持ちは大人なので、話題を逸らす。


『ああ』

「ありがとう、んで携帯を使ってまで話しておかないといけない事があるんでしょ?」

『ああ』


 嫌な予感しかしない、でも聞かないとね。


「なにかな?」

『まず先生にはバレている』

「え? なんで……」


 あんなにみんなで隠そうとしてくれたのに、のんびりとした先生がどうして。


『まずは伊賀崎の怪我だ。手と膝の傷とビデオカメラで察したそうだ』


 駐車場で転んだ傷とロープの痕の所為か……。


『江里口たちと誤魔化そうとしたが、お前が襲われて俺達が助けたんだろう? と』

「そう……」

『辻褄を合わせる為にも頷くしかなかった。警察も納得させなければならないから。だから先生に提案したんだ』

「提案? 何を?」

『これはお前のご両親にお話した理由と同じだ。お前が1人で接触した事実を隠す事』

「でもそれってあの変態が何か喋ったらおしまいじゃない?」

『それは心配しなくていい』


 きっぱりと言われた。何の根拠で心配しなくていいの?


「なんで? 虚偽罪になるんだよ? みんなにそこまで」

『これは保障できる、大丈夫だ』

「??? どういう事?」


 意味がわからない。そんな危ない橋をみんなに渡らせたくないよ。


『……心配するな。後、お前にだけ伝えておかなければいけない事がある』


 話を切り替えられた、なんでだろう? 何かあったのかな? もしや氷室くんの攻撃で植物人間状態になっているとか!? 頼元さんは来られなかったの分かるけど、彼が来なかったのは過剰防衛で拘束されているからだったら、嫌だなぁ。


「深刻な話?」

『学校が休校になった理由だ』


 学校が休校にまでする理由。不審者が現れたぐらいじゃ為らないよね。……親に説明された会話に気になる話があった。警察に即御用とされた原因のSDカードだ。


「もしかして、氷室くんが見つけたSDカード?」

『ああ』


 ……多分犠牲者がいたんだ、私以外に。あの男の異常な体臭と口臭。恐らく昨日は確実にお風呂には入っていない。どのぐらいあそこにいたのだろう? 私の気持ちを察してか、明智くんも黙る。


「……」

『……』


 沈黙が重い。携帯の契約者は明智くんだ、これ以上お金を掛けてもらったら申し訳ない。


「わかった、教えてくれてありがとう」


 会話を終わるように話すと、彼が話し始めた。


『俺は、伊賀崎が無事で良かったと思っている』

「ありがとう。これも全部みんなのお蔭だよ」

『そして力不足を悔しく思っている』

「そんな事ないって」

『今の問題を解決する事は、多分簡単だが、次が難しくなる』

「え?」


 次って、なに?


『俺自身が動きたい』

「???」


 何を以って言っているのかよく分からない。


『これから色んな事があると思う』


 色んな事にどきりとした。何を知っているの? 明智くん。


『……俺を頼って欲しい』


 思いつめた様な言葉に、私に怪我をさせたと悩み謝った彼を思い出す。責任なんて感じなくていいのに。


「明智くんは立派だったよ、ああなったのは私のミスなんだから気にしないで」

『俺が気になるんだ。心配で堪らない、出来れば側にいてほしい』


 幼稚園の時に目の前のお店へお使いに行ったら、お父さんが立派だけど可愛くて心配だと抱きしめてくれた事があった。今の明智くんはお父さんみたい。でもそれだけの事件だったんだ、そう感じてしまうのも頷ける。


「そんな、大丈夫だって」

『俺は頼りないだろうか?』

「そういう事じゃなくて、落ち着こう明智くん」


 卑怯だぞ、その言い方は。いまや責任感の塊である彼をどう説得しようか。


「私も気をつけるから、それにああいったことはなかな起きないよ?」

『そうならいいんだが、不安がある』

「不安って?」

『安心できるまででいい、お願いだ』


 安心ってどうやって出来るものなのよ、もう杞憂だよ、明智くん。


「あのね、あ……」

『頼む』


 言葉を遮られた。どうしよう。断ってもSPみたいなことされそうだしな……。中二病と思ってここは許可しとくか。


「んー、わかった。友達として頼るね、これでいい?」


 さっきの着信数もあり、私の思考は疲労のピークに達している。昼寝でもして休みたい。


『ありがとう。伊賀崎』


 思いつめた声が落ち着きを取り戻した。今は過剰になっているだけなんだから、おいおい忘れていくよね。


「そうそう、携帯はいつ返せばいい?」

『いや、使ってくれていて構わない』

「へ?」


 何を言ってるの、この人は。


『それじゃ伊賀崎、ゆっくり休んで明日会おう』

「ちょ、ちょっと待ってよ! 親にはなんて説明するの!?」

『そうか。伊賀崎のご両親が不審がるのか』


 いやいや、違うって、あなたのご両親でしょうが!


「この携帯は明智くんのでしょ?」

『ああ』

「なら、明智くんが持っていないと」

『どうして?』


 あれ? ……話が通じていない。私の方がおかしいの?


「ご両親が明智くんの為に購入したんだから、明智くんが大事にしないと」

『いや、俺自身が用意したものだが?』

「え?」

『だから伊賀崎が大事にしてくれるなら、それに越したことはない』

「ちょ」

『すまない、後は学校で。今から抜けられない用事があるから』


プッ。


 通話を切られました。

 私の言質だけもぎ取られて行かれたような気がするぞ、明智くん。

 携帯を机に置くと、盛大な溜息をつく。分からない事が多すぎる。情報をまとめなきゃ。

 額に片手を添えて目を閉じると、疲れていることを自覚。私はふらふらとベッドに向った。後で、今日あったことをまとめよう。なんだか色々あり過ぎて疲れた。今だけ現実逃避させてください。


 ベッドに入って目を閉じ、そのまま眠った。



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