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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
14/504

オリエンテーション2日目

すみません。15禁と残酷描写追加です。

気分を害してしまう表現があります。

フィクションではありますが、後味悪く気持ちを悪くさせてしまう可能性もありますので

読まずに飛ばしてください。


 いつもの日課の所為か、私は6時に目が覚めてしまった。

 他のみんなはまだ起きていない。肌触りがあまり良くない毛布だとみんなで文句を言っていたが、今ではしっかり包まって眠っている。

 山だからだろうか? ほんのり外気が寒い。


 私はみんなを起こさないようにテントからこっそりと外へ出た。


 外はすでに明るく、しんとして静かだ。

 1人だけ起きているのがちょっと嬉しくて、ほくそ笑んでしまう。木々の間のテントを縫うようにあるいて水場へ向った。

 混む前に洗顔と歯磨きをする為。じっくり歯磨きしてゆっくり洗顔したい。朝の日課であるランニングが出来ないのは残念だけど、1人離れるのは団体行動として良くないもんね。

 キャンプ場広場の水場に着くと、のんびり歯を磨いて顔を洗う。水が冷たくて気持ちいい。

 タオルで顔を拭いていると、砂利を踏む音が聞こえた。

 誰か起きてきたかな? 私は挨拶をするべく振り返ると、見知らぬ人がいた。


 一瞬、タオルを握り締める。


 黒いパーカーにジーンズ姿。キャンプ場の人? どう見ても中学生でも女の人でもない。中肉中背の男だ。ゆっくりとこちらへ歩いてくる。

 男の砂利を踏みしめる音が酷く落ち着かない。顔色を伺おうにも目深に被ったフードで表情がよく見えなかった。


「おはようございます」


 先制攻撃でもするような気分で声を掛けてみる。が、口の端をあげるだけで何も私に返さない。


 これは危険な場面なの? 


 たかが町近くのキャンプ場だよ? 私は洗面用具を見捨て、その場を去るよう歩いた。すると男も私の進む方向へ向きを変える。

 なんで? 軽く振り返ると、まだこちらを見ているようだ。良く見ると黒い手袋にジョギングシューズを履いている。

 

 なぜ黒い手袋をしているの?


 これって危険なのかしら、私の勘違いじゃないよね? それとも森のくまさんみたいに私に何か用なのかな。軽く走ってみると、相手も走り始めた。


「あの、私に何か用ですか? それともたまたまこちらに用事があるんですか?」


 走りながら語りかけるが、返事はない。テントの方へ向かおうとするが、行かせない様に詰めて来る。いけないかも……どんどん人気のない方向へ行かされてない? 私に何用だ、本当に。


 焦るな、落ち着かなきゃ。


 とりあえず、全力で走る。キャンプ場から駐車場、町へと向かう道路。道路は数百メートル毎蛇行している。最初の折り返し地点で振り返れば、50mは離せた。でも問題は終わってない。男が私を見続けているからだ。絶対諦めてないのが分かる。


 本当に何目的なのよ!


 想像がつくのは、猥褻目的。

 中学1年生のつるぺただぞ、マニアか! 


 次に誘拐目的。

 これは下調べしてお金持ちから狙うだろう。


 監禁目的。

 これは一番考えたくないな、私にはする事があるんだから。


 その上をいく、更に恐いのは猟奇目的。

 考えていたら、相手がガードレールを乗り越え、曲がり角を使わずにショートカットして私の前に躍り出た。


「ひゃひゃひゃひゃ……」


 嫌な笑いに鳥肌が立つ。

 私は踵を返し、降りてきた道を登った。今度はショートカットしにくいはず、だって滑るように降りてきたのだから。

 上り坂を全力で走る。まだ大丈夫、死ぬほど苦しくない。でも息が上がっている。

 負けない。負けたくない。景色が、周りがにじみ始める。


 いけない、涙だ。


 私泣き始めてる。走ることに体力を向けなければならないのに、どうして涙が出るのよ。手で涙を拭いながら、私は走った。

 駐車場に着き、少し安堵した所で衝撃を受ける。


「いたっ」


 段差で転んでしまった。

 こんなところでどうして……。しびれるような痛みを無視して立ち上がると、嫌な気配を背に感じる。頭だけ振り返ったら、後ろにヤツがいた。息が荒い、が……にやけた口は余裕そうだ。

 青く光る偏光サングラスに、私の顔が見える。追いつかれたんだ。


 私は、負けたの?


 体が竦んで動かない私を突き飛ばし、アスファルトに押し付けられる。

 痛い……。

 痛みで固まっていると、どすんと私の腰の上に乗り、左腕を無理やり背中に回された。


 これではいけない!


 抵抗しようと残った片腕を前に伸ばすも力ずくで背に回される。そして私の両親指を揃えて握り締めた。何か、固定された!?


「やめて、助けて!」


 声に出して助けを請う。

 キャンプ場の広場と駐車場の間には常緑樹が等間隔で並んでいる。偶然でも誰か駐車場に来なければ、キャンプ場から見えにくい。もっと早く騒げば良かった……。

 全員起きても会話や生活音で、遠くの私の声なんか気付かれない。遅すぎる自分の対応を呪いたくなる。自分の足に過信した事も。毎日走っているから逃げ切れるなんて、どうかしてた。


「数分で終わる、それとも騒いでみんなに見られるか?」


 何を言っているんだ、こいつは。嬉しそうな声に吐き気がする。

 紐のようなものを私の指や手首に巻きつけながら、男が囁く。


「俺はどっちでもいいけどね」

「中学1年生相手に何言ってるのよ!」


 子供だとアピールするように学年を言うが、別になんとも思ってない。むしろ逆に楽しそうだ。


「いいのか? 裸にひん剥かれて転がってる姿を人に見られても」


 腰の上から重さが無くなったかと思ったら、いきなり体をひっくり返された。


「黙ってれば、終わった後開放してやるよ」


 そしてまた私の腰の上に乗っかる。

 どんと乗られたので、背に回された腕が痛い。腕が背にあるので、胸が仰け反る格好になった。

 こんな男の前でそんな体勢なのが嫌で堪らない。

 そんな私を見つめながら、ポケットからデジタルビデオカメラを取り出す。

 記録しようというの? 口止めの為?


「やられて黙っているか、やられて公表するか選べって事?」


 せめての抵抗とばかりに睨むと名前を呼ばれた。


「へえー、伊賀崎頑張るー」


 胸に張ってある名札を見て、ジャージのチャックを掴む。


「冗談じゃないわ、私の人生はあんたの為にあるんじゃないのよ!」


 必死に体を動かしてがんばってみる。けれど、チャックを下ろすのを止めない。上半身を動かそうとするも、意味がなかった。

 アスファルトに乗った肘の痛みが増す。

 でも無抵抗なんて嫌だ。こんな奴に貶められたくない。


「助けて! 変態よ! 変態! 変態!」


 大きな声を出そうとしているのだけれど、予想より出せていない気がする。胸を仰け反らせているから?


「いいねぇ、恐怖に震える声……そそるよ、伊賀崎……名前は何かなぁ?」


 怖気が全身を襲う、そろそろ誰か気が付いて……。私の心でも読んだように男が嘲笑う。


「可哀想に。走って離れたから、みんなに気付いてもらえない」


 シャツに手をかけてきた。もうダメ。顔を背けて目を瞑る。唇をかみ締め、体を固くして耐えようとした。


「だめだめ、視線はこっちにね」


 顎を掴まれて、正面を向かせられる。触れた手が気持ち悪い。


「唇噛んだんだ、赤くなって……口紅したようで色っぽくなったよ……」


 カメラを顔に近づけてきた。


「いいねぇ、なんか艶がある。これは当たりだ」


 男の息が荒くなっていく。

 顔に息が掛かると、臭かった。食い入るように体を近づけてくるが、離れて欲しい。こんな事件が私に起きるなんて、なんでなんで……。


「うっ……」


 そういえば、私って運が無いんだった。いつもそう。また、そうなんだ。諦めかけて、心が沈みそうになる。


「うわ、その目! 最高、もう少し髪が長かったら、色気倍増だったのに残念」


 なんだその上から目線は。男の言葉で、私は怒りに燃える。

 危ない、諦めるところだった。


「お前のやる事なす事、ほくろから輪郭から何かの癖まで全部覚えてやる」

「へぇ」

「私はお前を絶対許さない、捕まえられるなら私の人生を犠牲にしてもいい」


 呪うように睨むと、男の手が止まった。そして圧し掛かっていた体を退ける。立ち上がる男に驚きながらも上半身を起こす。びびってくれたのかな? 体を動かしても男はこちらをジッと見ているだけだ。不審に思いながらも片足を立てて立ち上がる。すると腕を掴まれた。


「ありがとう、立ってくれて。起こすの面倒だと思ってたんだ」


 まさか場所移動? キャンプ場では人の声が聞こえてきているから、もっと見えない場所へでも行こうと言うの? 力いっぱい離れようとしても、所詮は大人と子供。後ろから両腕を掴まれ、逃げられない。


「どこへ行こうというの!」

「うち」

「……え」


 なんて言ったの……この人。


「お前を飼ってやるよ、大人になっていく姿は最高だろうなぁ」


 腕を引き寄せられると、首筋をべっとりと舐められる。


「いやぁあああああああ!!」


 恐怖で真っ白になった瞬間、突き飛ばされるように体が倒れた。その男の上に。服も臭い。ゾッとしたが、すぐに片腕を強引に引っ張られた。


「ったた」


 臭いから離れる事ができて嬉しいけど、片腕で全体重を吊り上げられたので痛い。


「くっ、いってぇな……一体何が……」

「えい」


 体を起こした男の頭部に薪が振り下ろされる。ゴッ、とかなり良い音が。男は頭を抱えてのた打ち回った。


「念の為に肩をはずす?」


 氷室くんが楽しそうに物騒な事を口にする。


「待って……中学生が……そこまで、したら、変に、勘繰られるよ」


 苦しそうに息を吐きながら答えたのは江里口くんだ。こんな状況だけど、ついツッコミをしてしまう。それこそ中学生の考えじゃないぞ。


「大丈夫か? 伊賀崎」


 体を起こしてくれたのは、明智くんだった。

 すぐに腕の縄を解いてくれた。

 自由になった手は血が巡ってきたのか、ポカポカする。


「でも明智すっげー足早いな! しかも上段回し蹴りなんて映画みたいだった」


 興奮気味に氷室くんが頷く。

 私は感謝を伝えようと口を開けたが、出たのは嗚咽だった。

 涙が、溢れ出てきて止まらない。


「あ、あり、が、とぉ……おっおっ……」


 氷室くんはおたおたしながら男を足蹴にした。

 蹴っ飛ばしてうつぶせにさせた後、肩を踏んでいるのだ。江里口くんは私に背を向けると、男の頭に手のひらを乗せてた。何か呟いているようだけど、聞こえない。


 涙をジャージの袖で拭うと、明智くんが首筋をタオルで拭いてくれた。……これは一番嬉しかった。出来れば石鹸で、消毒液で、拭いたい、痕跡を消したい。あの感触は最悪で気持ち悪かったから。


「ロープで拘束するか?」

「いや、大丈夫」


 明智くんが私を縛っていたビニール紐を見せるけど、江里口くんが笑って首を振った。いや、大丈夫じゃないよ……大人だし、反撃してきたら怖いよ?


「じゃあ警察呼ぶか」


 氷室くんの言葉にびくっとしてしまう。すると、江里口くんが立ち上がって私に言い含めるように喋った。目を真っ直ぐに見られる。


「いいね、伊賀崎さん。忘れるんだ。この男とは何も無かった、いいね?」


 でも、と口篭る。が、江里口くんは大丈夫大丈夫と肩をポンポン叩く。


「氷室、ビデオカメラを渡せ」

「ちぇ……見てたか」


 ちょっと、自分のものにしようとしてたの!? 男が落としたビデオカメラを懐に入れていた氷室くんに驚いた。

 私のデータが入っているんだけど……。そんな不安を見抜いたように、彼が私の側に来る。


「大丈夫だ」


 明智くんはビデオカメラのモニターを私にも見えるように持ち替えた。慣れた手つきで操作をすると、再生された。

 データは私の映像のみのようだ。


「すまない。これは火にくべよう。伊賀崎が持っていろ」


 明智くんはSDカードを取り出し、折ると私に手渡した。見たぐらいで謝らなくてもいいのに、逆に助けてもらった……感謝しきれない。


「携帯発見!」


 氷室くんが嬉しそうに男のポケットから携帯を取り出した。


「じゃあ警察に連絡取ろう」

「ロックが掛かっているんじゃないのか?」


 明智くんの指摘に氷室くんは笑いながら、携帯を起動させる。


「通報はロックが掛かっていても出来るのさ」

「いや、氷室。電話は待て」


 電話を掛けようとする彼を江里口くんが止めた。


「明智くん、伊賀崎さんと一緒に先生を呼びに行ってくれる?」

「?」


 私が首を傾げると、彼はにっこりと笑った。


「人が倒れてる、と伝えてね」


 底知れぬ何かを感じたけれど、それを表現できる言葉がない。明智くんは何かを察して頷くと、私の肩を叩いた。


「行くぞ」

「あ、うん」


 私はジャージのチャックを閉めると、明智くんの後を追う。すぐに追いつき、一緒に歩く。

 その時、思い出した。

 健康診断の時、明智くんは歩くスピードが早かった。なのに、この前送ってくれた帰り道や今、ゆっくりと歩いてくれている。

 気を遣われているんだ。

 その優しさに、また涙が出そうになる。


「実は、最初に気が付いたのは頼元さんなんだ」

「え」

「伊賀崎のタオルを抱いてあたふたしていた」


 頼元さんにも迷惑を……。


「ちょうど俺が起きて、助けてと」

「そうだったんだ」

「急いで江里口と氷室を起こして探したんだけど、遅くなった。ごめん」


 私は首を振った。


「家に連れて行かれる所だったんだ、助かったよ、本当に」

「頼元さんにも言った方がいい、何か思い詰めていた」

「もちろん」


 再度出そうになる涙を、もう一度袖で押さえ込んだ。



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