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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
12/503

頼元愛梨


 濃い時間だった。


 慌しいLHRを終え、先生はそのまま解散、と楽しげに教室を出て行った。

 あの後、質問をした生徒を褒め上げてみんなのやる気を出させた先生の手腕は、少々おそろしいものを感じる。みんな真剣にしおりを読んで質問し、先生は重要だと思われるものには書き込みを言い渡していった。

 本当に中身が濃い20分で、しおりに関してうちのクラスが一番詳しいのでは? と思うくらい。

 でもまだ終わったわけではない。これから班のみんなで夕飯に使用する食材の値段を調べに行くのだ。


 明日までに先生へ金額の明細を提出し、許可を貰わなければならないのだ。

 私たち1班は、駅前のスーパーに集合する予定に。

 本当は先生から、班全員で見に行くのは合理的ではないから、各自家の近くの店で調べて明日中にまとめればいいと言われたけど、みんなどこの店にいくかと話し合った結果、同じ店だったのでついでに見て回ろうという事になった。

 でも制服で寄り道はダメと釘を刺されたから、一旦帰って集合。最近学校帰りに夕飯の買い物してたけど、ダメだったんだなんて残念。

 制服姿で買い物をすると、時々美味しいおまけをくれるのに。


 教室から出ると、まだ他のクラスは終わっていないようで、どのクラスも扉や窓が閉まったまま。LHRが長引いているようだ。

 靴箱で4組の所を見ると外靴ばかり、遥ちゃんまだ教室みたい。

 私はカバンからメモ紙を取り出すと、先に帰る旨を書いて靴の横に置く。急いで帰るべく校門へ向かうと頼元さんが前を歩いてた。


「頼元さん」


 声を掛けたら吃驚したようで、肩が飛び上がった。羨ましい程の黒い直毛の髪がさらりと揺れ、こちらを見る。ただ、眉間に厳しそうな皺が……怒ってないよね?


「い、がさきさん」


 固まる彼女に恐くないとアピールするよう微笑んでみるも、目を右往左往させ口篭られてしまう。


「駅前のスーパーに集合だけど、間に合いそう?」

「大、丈夫、です……自……車で行き……ます」

「私も間に合うように行くね、今日はよろしく! それじゃまた後で」


 嫌われているわけではなさそう。慣れていなくて緊張しているだけだよね、人見知りが激しいだけだよね?

 せっかく同じ班になれたのだから、これから仲良くなりたいな。彼女に手を振ると私は家まで走った。

 

 家には悪阻でぐったりした母がソファーにもたれていた。


「おかえり……花音」

「ただいま、お母さん大丈夫?」


 台所を見れば、洗い物が終わってる。


「私が洗うから、水に浸けておいてくれれば良かったのに」

「気になって」


 お母さんは体を起こすと、立ち上がろうとした。なので、急いでそれを制する。


「何か飲めそう? ベッドで休んだら」

「ありがとう、横になってたからもう大丈夫」


 全く大丈夫に見えない様子に強情だな、と冷蔵庫を開けた。


「今からオリエンテーションで使う食材の価格調査をしにいくんだ。今日は何が食べれそう? ついでに買い物してくるよ」

「値段調べにいくの? 最近の学校は大変ね」


 お母さんはよろよろと自分のカバンを取りにいき、お財布を出す。


「今日こそは買い物へ行こうと思ってたのに」

「いいじゃない、私がついでに買ってくるよ」

「助かるわ、ありがとう」

「へへ、では頂きます!」


 私は丁重に軍資金を貰うと、部屋へ向かった。急いで制服を脱いでパーカーとショートパンツに履き替える。制服をハンガーにかけて学校指定の白靴下を脱いで顔を上げた。するとお隣の要と目が合う。


「うお」


 そこでレースのカーテンを閉め忘れていた事に気付く。彼は漫画を読んでいたらしく、そのまま目を大きく見開き固まっていた。別に裸を見られたわけじゃないので、私は気にしない。

 ただ要が持っていた漫画の雑誌を手放し、首を振って口を動かしている。多分悪かったとかお前が悪い、気をつけろとでも言ってるんだろうな。窓が開いていないので、彼がなんと言っているのか分からない。


「なんか色々ごめんね」


 ショルダーバッグにオリエンテーリングのしおりと筆記用具を詰める。次は忘れてはいけないお金だ。お母さんに託されたお金を自分の小銭ポーチに入れてポケットに収める。


「花音! 窓を開けろ! ちゃんと聞け!!」


 軽く謝ったのに、要から大きな声で呼ばれる。あ、窓が開いていないんだった。多分私に説教したいであろう彼へ、両手を合わせた謝るポーズを取る。分かり易い謝罪パフォーマンスだ。そしてすぐにサイハイソックスとショルダーバッグを持って部屋を出た。

 彼には悪いが本当に時間がないのだ。居間に戻ってサイハイソックスを履きながら、母親に軽く聞く。


「果物は、まだイチゴ食べれそう?」

「うーん、あんまり」

「分かった。今日は遅くならないように戻るから、夕飯待っててね」

「ありがとう、花音」

「では、行ってきます」


 玄関でスニーカーを履くと飛び出す。


「花音!!」


 着替えたから外出するだろうと待っていたんだろうな。二階の窓からこちらに向かって要の声が届く。でも後で謝ろうと逃げることにした。

 後で受ける説教に無視した事も含まれそう。その頃までに怒りが少しでいいから収まってますように。


 軽く走っていくと、駅前に頼元さんが立っているのが見えた。ピンクのニットが可愛い! 赤いチェックのフレアスカートも似合ってる。でも表情が硬く、思いつめているようだ。1人で待つのは不安だよね、早く安心させなくちゃ。


「頼元さん、お待たせ」


 声を掛けると彼女はぶんぶんと頭を振る。サラサラの黒髪が左右に乱れるが、動きが止まると真っ直ぐに流れる。

 さて、頼元さんと何の話題で話そうか。女の子のおしゃべりをしようと思ったら、声を掛けられた。


「遅れてごめんね」


 江里口くんと氷室くんがいて、その後ろに明智くんがいる。残念、女子トークはまた今度。


「じゃあ全員揃ったね」

「え?」


 氷室くんが後ろを振り返って明智くんを認識した。


「本当だ、後ろにいたなんて気付かなかったよ」

「おい氷室。ごめん明智くん」


 江里口くんが氷室くんの謝罪をした瞬間、私はにこやかにスーパーを指差す。


「じゃ早速見に行きましょう!」


 5人集まったのなら、さっさと用事を済ませて買い物がしたい。さぁさぁとみんなを駅前スーパーへ軽く促す。


「そうだね、もう夕方だし遅くなれば補導されてしまう」


 江里口くんが優等生な発言で頷く。

 夕飯の買い物ラッシュが来ているので、スーパーには買い物客が多い。価格を見るだけなので、レジに並ばなくていいのは助かる。


「じゃあ最初は野菜だね。にんじんと椎茸とごぼうと…」

「にんじんは1袋198円、椎茸198円なんだけどぶっちゃけ高いから2つ買わずに、1つしめじ98円で安く代用しない?」


 早く済ませたい私はさっさとメモ帳を出して価格を書いてく。


「そうだね、みんなもそれでいい?」

「いい、です」


 江里口くんが他の三人の合意を求めてくれた。頼元さんも頷きながら答えてくれる。明智くんと氷室くんは頷くだけだ。


「ごぼうはこの三本にカットされた洗いごぼうで198円ね」


 洗ってない長いままのごぼうを持っていくより、同じ値段ならこっちで楽にしたい。次に豆腐の場所へ行き、値段を見る。


「油揚げは128円で豆腐は…」


 さくさくと進む私を許してね、みんな。そのお蔭か15分もしないうちに調査が完了した。


「じゃあまた明日一緒にまとめましょう」


 早く買い物に行きたい私は、メモ帳をバッグに入れて出口に足を向ける。が、終わったと思った氷室くんはお菓子売り場へ足を向けた。


「あれ、氷室どこへ行くの?」

「新商品見て帰りたいんだ、もう終わりだろ?」

「おいおい」


 江里口くんが困った顔をする中、私が仕切らせてもらう。お菓子よりもお魚屋さんに行きたいんだ、私は。


「じゃあここで解散だね。私は用事があるから、また明日」


 そう言ってみんなから離れようとすると、頼元さんの声がお店の音楽の合間を縫って聞こえた。


「また……明日」


 小さな声だったけど、ちゃんと聞こえた。振り返ると真っ赤になった頼元さんが眉をしかめて下を向いている。


「うん、頼元さん、明日ね!」


 これは仲良くなれそうな感じ、嬉しい。

 気分良くスーパーを出ると、いつものお魚屋さんへ向かう。

 このまま頼元さんと仲良くなって、オリエンテーションで『愛梨ちゃん』って呼べるかも! 顔がかなり浮かれていた様で、お魚屋さんのお姉さんに笑われた。


「花音ちゃん、いらっしゃい」


 すらりとした身長に格好良くゴムのエプロン、黒い長靴を履いたお姉さんが出迎えてくれる。


「よっぽど嬉しい事があったのね、ものすごくいい笑顔」

「実は新しい友達ができそうなんです」

「良かったじゃない、おめでとう」

「ありがとうございます」


 お礼を言いながら、店先を眺めた。今日の夕飯のメインは何にしようか?


「お母さんの悪阻は大丈夫?」

「うーん、もうそろそろ安定期に入っているはずなんで、おさまるかなとおもってたんですけどね」


 お姉さんの質問にそう答えたら、また笑われた。変な事言ったかしら?


「花音ちゃんが産むわけじゃないのに、詳しいわね」

「ぬかりありません、妊娠の本を2冊読み終えましたから」


 図書館から借りてきた雑誌や本の題名を挙げる。


「なるほどね、でも雑誌なんだ」

「昔のより新しい本の方に最新情報が入っていると聞いて」


 図書館の司書さんから借りる理由を聞かれたのは秘密だ。かなり神妙な顔をして、恐る恐る聞いてきたのだ。私のおなかをチラ見しながら。……失礼な、胸もだがお腹も出ていないぞ。まぁ誤解がすぐに解けたからいいけど。


「そうそう、今日はカレイの煮付けがあるわよ」


 少し考えていると、お魚を提案してくれた。煮付け……すでに完成しているから食卓にだすだけ! 楽だ。お魚屋さんの煮付けは大なべで作るから、味が沁みて美味しい。


「じゃ、カレイをお願いします!」

「砂抜き済みのあさりも持っていく? お味噌汁にどう」

「では、それも」


 調理時間も考えてそれでお願いした。お金を払い、商品を貰う。


「今日もありがとね。でも花音ちゃんはまだ子供なんだから無理しちゃだめよ?」


 そう言うとお姉さんがこっそり別のビニールを渡してくれる。中を覗くとフロランタンだった。アーモンドが美味しそう。

 お姉さんは前から難しいお菓子を作っていたんだけど、とうとう去年フランスへ1ヵ月のお菓子留学に行ったんだ。

 更に腕を上げたお姉さんは、店の端にお菓子を置いている。そこだけ見れば、まるで洋菓子店だ。現在、客層の幅を少しずつ増やしているみたい。だってお姉さんの作るお菓子は美味しいから。


「そんな、お小遣いで買います!」


 全部輸入のいい材料で作っているので、普通に洋菓子店並の料金だったりする。めちゃくちゃ美味しいんだけど、贅沢な品だから仕方ない。


「いいのよ、残り物なんだから……ちゃんと花音ちゃんが食べてね」


 微笑むお姉さんに目一杯感謝を伝えて頭を下げる。ありがとう、お姉さん! 大きく手を振り、自宅に向かう。もう空が薄暗い。

 温野菜作りながら味噌汁作るかな。蒸して煮るだけだから、他にも一品作れるかも。何か妊婦にいいおかずはないものか……。

 体に良くても口に合わず、申し訳なさそうに残す時が多々ある。でも味噌汁だけは飲んでくれるんだよね、お母さん。あれ? もしや塩分を求めて?

 よし、今日のメインは煮付けがあるので、味噌汁は鰹節と昆布から出汁を取るかな。顆粒のだしでやれば楽なんだけどね……。使った出汁カスは明日の煮物に回そう。


「伊賀崎」

「え」


 呼ばれたので振り返ると、明智くんがいた。あれ? まだ帰ってなかったの? 彼もそう思っていたみたいで、私の荷物を見て納得する。


「お前も買い物をしていたのか」

「も、って事は明智くんも?」


 彼は本屋の袋を持っていた。読書家だな……と見ていたら、ふと思い出した。そういえば私、最近本を読み漁っていない。図書館も妊婦本だけでご無沙汰している。


「伊賀崎の家はこっちの方向か?」

「そうだよ」

「ならば途中まで一緒に行こう」

「うん」


 と、彼の隣をとぼとぼと歩き出す。どんな本を買ったんだろう。本屋さんも最近覗いていない。彼の購入した本の事が気になったので、質問してみた。


「明智くんはどんな本を読んでるの?」

「色んな新刊」


 新刊ときた! 高い本? 小説? まさか漫画本? あらゆるジャンルかしら? 彼も本が好きなら、語り合いたい!


「新刊かぁ。毎月どのくらい本を買うの?」

「読める分だけ」


 読める分だけとか、どんだけお大臣様なの!? 気になる新刊は多々あるが、いずれ図書館に並ぶならばと私は待つほうだ。よほど気に入った本でないと買わない。気ままに買えば、お金が尽きちゃう。

 そういえば明智くんのシャツはしっかりアイロンが掛かっているし、高そうな布に見える。ズボンもジーパンではなく、スラックスだ。もしやお金持ちなのかもしれない。


「お、お小遣いで買ってるの?」

「家に図書カードがたくさんある。それで購入している」


 図書カードがたくさんある家ってどんな家なんだろう……。何かの粗品か、貰い物か。


「思う存分本を……。そんなに本を買ったら自分の部屋が狭くならない?」

「いや、ならない」


 いいなぁ、広いんだ。やっぱりお金持ちなのかも。そうだった、武道を極めたおじいさんがいるんだから、道場とかある日本家屋を想像してしまう。うん、そういうの明智くんに似合いそうだな。


「そっか、私はほとんど図書館の本で済ませているからなぁ」

「七夕市営の?」

「そう。しかも最近妊婦の本しか読んでないから新刊が羨ましいや」

「!?」


 明智くんの足が止まった。いけない、またあの図書館職員のように誤解させたかも? 変な噂が立つ前に理由を言っておこう。


「ほら、新しい兄弟が産まれるって言ったじゃない」

「あ、ああ。そうだったな」


 止まった足が動き始める。と言う事は、勘違いしかけたな?


「……お母さんにさ、何がいいか調べてるの」

「そうか」


 もう元に戻ったが、動揺する明智くんはなかなか珍しい。つい笑ってしまいそうになる。


「伊賀崎?」

「ごめんなさい、司書さんに誤解された事を思い出して」


 笑いかけた内容を誤魔化す為に、図書館で妊婦に関する本を借りた時の状況を話した。内容が内容だけに明智くんが口篭る。いけない、思春期の男の子には厳しい内容だったかな。

 引くよね、引いたよね……せっかく仲良くなれた隣人を無くしたくない。更に誤魔化さなければと思っていたら、家がもう近かった。これは逃げるが勝ちかなと話を逸らす。


「うちはそこを曲がった所なんだ。明智くんの家は?」

「気にするな」


 一緒に歩いてくる。あれ? もしや。家の前まで来ると、彼はそれじゃと来た道へ踵を返した。


「もしかして、遠回りさせた?」

「いや、だいたい方向は同じだ」


 暗くなってきたから気にしてくれたのかな? それは悪い事をしたかも。


「ちょっと待って」


 明智くんが立ち止まって振り返る。急いで私は駆け寄ると、袋からお菓子を取り出した。


「これね、お魚屋さんのお姉さんがくれたの」


 3つあったフロランタンの1つ。


「すっごく美味しいんだよ。私のお気に入りの一つ」


 明智くんに渡すときに手が触れた。手の平の皮が硬い。かなり鍛えているんだ。


「いいのか? 好きなんだろう?」


彼の疑問に笑って答えた。


「美味しいものは分かち合わないとね、送ってくれてありがとう」


 早くご飯の準備をしなくては。家まで戻ると玄関の扉を開く。ふと振り返ると、明智くんがこっちを見ていた。なので、手を振るとお返しに軽く手を上げて、帰っていく。

 家に入るまでは安心できないってやつかな?


「ひゃー」


 ここまで女の子扱いされたのは初めてなので、照れながら扉を閉める。本当に紳士だな、明智くんは。ご機嫌に振り返ったら、家の中に要がいた。


「おかえり、花音」

「あの……いらっしゃい」


 忘れてた、そういえば怒らせていたんだった。優しげに出迎えてくれた彼だが、かなりお怒りのご様子。その日は女の子について説教を受けながらご飯を作る事になった。

 お母さん、笑ってないでフォローしてよ。



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