初夏の匂いが雨誘い
そして、初夏の雨がくる。
日が伸びたことが良いか悪いかは人それぞれなのだろうが、これはみんな一緒だと思う。暑過ぎるのは嫌だ!
通学途中にある一軒家の庭にそびえ立つ夏みかんの実が大きくなっているのを見て、夏が始まる…。とため息交じりにそう呟いた。
学校に着き、いつもの日常が流れる。友達と喋り、授業を受け、飯を食い、ホームルーム。そして部活となる予定だったのだが、今日で期末試験一週間前である。なので部活は停止だ。
置き勉している教科書類を秩序なく詰め込まれた我が通学カバンはギチギチと唸りをあげていた。しかし、そんな唸り声など完全無視!俺は、バッグに一切のいたわりを与えず少々乱暴にそいつを斜めに背負った。
スリッパみたいに履き潰した上履きをパタパタと鳴らし歩き、下駄箱へ向かう。
「一緒に帰ろう?」
いつものメンツの誘いに手を上げ応答し、昇降口をくぐった。
ん…?
不意に空を見た。青い空が広がっていると思ったのだが、そんなことはなく。むしろもくもくとした入道雲が広がっていて、青空を食べているかのようだった。
…一雨くるかもな…。
雲は時間と共にさらに空を喰らい、その色もだんだんと黒くなっていった。
それを自分の部屋の窓を開け眺めていると、後に埃が舞い上がったような匂いが鼻を突いた。この匂いがする時は、必ずと言っていいほど雨が降る。
今日は家から出まい。そう思っていた矢先に…携帯が鳴った。
(英語のノート見せて!)
ちらっと外を見た。まあしかし、世話になっている友達からの願いだからしかたねぇか…
重い腰を上げ、通学カバンに手を突っ込み、傘を片手に外へ出た。生暖かい風が強く吹いている…
「ありがとう!明日返すね。」
友達の笑顔とは逆に、全く笑えない空がそこにあった。
真っ黒な空からは今にも雫が落ちてきそうで、風がとにかく強い。
ともだに手をふり、家へと走り出した。
俺の足よりも雨のほうが先だった。ぽつぽつから本降りになるまでの時間がとても短く、慌てて傘をさした。
ざーざーと強い雨の中、俺の家の前の緩やかな坂を水溜りを舞い上げながら走り下ってくる人がいた。
ん?まさかあのシルエットは…
全力で走っていたせいで疲れたのか、その人は立ち止まり、傘を持っていないことに腹をくくり歩き始めた。
「傘忘れたの?」
彼女を傘下に入れ、声を掛けた。
「あ!栄山君。…うん。」
なんかうつろな目をしていた。何かを隠すように必死なように見えるのは気のせいだろうか?俺だけだろうか?
「まあ、とりあえずこの傘使いな。」
「え?でも栄山君が…」
「俺の家、そこだもん」
すぐそばの団地を指差した。
「いいの?」
「うん、それに、それ以上制服濡らしたら明日着ていけなくなるよ。」
「有り難う。でも、返す時お互い都合のいい時間とかわからないよね?」
「そのままあげる…っていうのは話す機会を失うから嫌だ。」
「え?」
驚きの表情を浮かべる。下心に気付いただろうか?いや!まだ、きっと大丈夫だ‼
「もしよかったら、メールアドレス交換しない?そうすれば、楽だしさ。
それに、暇な時にメールできたりしたら嬉しいからさ…。」
凄く顔が熱い。気温のせいだろうか?それは少しばかりあるのだとしても、膝までガタつくのは間違いなく違う。心臓の鼓動は速くなり今にも何かを吐き出してしまいそうだった。
「私のなんかでいいの?」
君のがいいです!とまでは言えなかった。不安というより恥ずかしい…彼女も同じなのだろうか?
雨を伝って雨粒が落ちた。雨は今もなお強く降り続ける。…そっと彼女は口を開いた。
「いいよ。こんな私のでよかったら。」
真っ直ぐに垂れている前髪から、うるうるとした大きな瞳をのぞかせるその姿は…あ〜だめ!その上目遣いは反則‼
メールアドレスをもらい、携帯をポケットにしまい込んだ。
「有り難う、気をつけてね。」と別れをつげた。
「こちらこそ有り難う。じゃあね。」と手を降り返してくれた。
彼女の顔がいつもより赤みがかっていたように感じたのは気のせいだろうか。
すいません…いつも投稿が遅くて…
そして、読んでくださった方々に感謝したいです。
有り難うございました。




