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接触

メリダとの時間はあっという間であった。

当初の予定では、連休と言ってもただただ、惰性に家にいただろうに、これほど充実した気分になるとは思わなかった。

同じ学校には行けないものの、彼女は別にいなくなるわけではないという。会おうと思えば、すぐ会えるよ、と彼女は笑って言う。その笑顔に、俺は安堵のため息をつく。



俺はあの公園で彼女と二人、夕日を見る。

茜色の空を、俺と彼女は手をつないでみる。


「こんな日々がずっと続けばいいのにね」


「続くさ」


寂しそうな顔で言うメリダに、俺はそう言った。

しっかりと彼女の手を握りしめる。


「どこに行こうと、どんなに君が変わろうとも、俺は君が好きだ」


この気持ちは、ずっと変わらない。

何年も彼女を想ってきたのだ。たとえ、どれほど離れようとも、もう、この気持ちが変わることはないだろう。

俺の言葉を受けて、彼女は笑う。


「そうだね」


でも、その顔はどこか悲しげで。

蒼い瞳は、揺れ動く。俺を見ているはずなのに、違う何かを見ているように。

だが、俺はそれを聞けなかった。聞いてはいけないと思った。

彼女がわざわざそんなことを口にした、ということは、この日常が続かないことを知っているからではないのか。そんな気がした。




家に帰宅し、俺は冷凍庫から冷凍食品を取り出し、レンジに入れる。

今から料理をするには時間が惜しいし、なにより碌な食材がない。まぁ、栄養は偏るが、別にかまわないだろう。

俺は自室のパソコンを起動する。

いつものように、立ち上げ、インターネットを開こうとすると、一通のメッセージが来ていた。

なんだろうか、と俺はメールボックスを開く。

見覚えのないアドレスからのメール。

俺は、それを開く。

そして、俺は呟いた。


「なんだ、これ」


そこに記された一文を、俺は注視する。


『猟甲機兵を信じるな。彼女たちは人類を滅亡させる』


「なんだよ、これ・・・・・・・・!!」


俺は再び同じ言葉を口にする。先ほどよりも強く。

同じアドレスのものがもう一軒来ている。それは、今のものよりも一時間あと・・・・・・ちょうど三十分前に届いたものであった。


『君の見る世界は、本当の世界ではない。仮初の現実に君はいる。

 世界を、機甲の少女を知りたければ、五月六日、第三図書館に来られたし』


俺はそのアドレスに対し、返信のメールを送るが、エラーが出る。

間違いメールか、イタズラか。だが、俺にはそのどちらにも思えなかった。


偽りの箱庭。機械仕掛けの神。銀色の歯車。メリダと再会する前、公園で目にした言葉とものを俺は思い出す。

仮初の現実は、偽りの箱庭と似た言葉だ。これは、偶然なのだろうか?

いいや、違う。

俺は直感的にそう思った。偶然なんかのはずはない。

メリダとの再会の後、こうやって送られてきたメール。きっと、何か意味があるのだ。

俺の中には、もやもやしたものがある。違和感、と言ってしまえばいいのだろうか。

メリダが言えないことを、俺は待つと言った。だが・・・・・・・・。


今は考えても仕方がない。

俺は画面を見る。五月六日。明日だ。

明日は、連休最後の日だ。幸か不幸か、明日はメリダも用があるということで、予定はない。

俺は、知りたい。

知ることは怖いが、それでも何も知らないことは厭だった。

メリダのことを、猟甲機兵のことを。

そして、俺がそこにどう関係してくるのかを。




第三図書館。街の中心にある図書館で、豊富な紙媒体の書物と大容量ライブラリーデータスペースがある。

やや中心から外れた第一、第二とは違い、専門的であり雰囲気的にもあまり解放されている、と言う印象を受けないためか、あまり人はいないらしい。

無機質な建物のデザインや、昼間でも薄暗い内部などから怖がるものもいるという。

噂では、夜な夜な徘徊する霊がいる、とまで言われる。

科学によって、霊や悪魔が完全に否定された現代でそんな馬鹿な、と思うものの、どれほど科学が進もうと、人の恐怖は消し去れない。

そう言った事情もあってか、この場所を指定したのかもしれない。個室もあるため、人のいない場所を見つけるのも容易で、内密な話をするにはうってつけかもしれない。

俺は若干の緊張をしながら、第三図書館の前に立つ。

大きな建造物で、圧倒される。図書館と言うより、要塞、と言う印象がなぜか浮かぶ。

戦争など、この国ではもう何年も起きていない。第三次世界大戦でも、直接の被害はなかったのだから。

そのため、日本が再び世界の中でも経済大国として復活できたのだ。

俺は、意を決して中に入る。



機会による受付を済ませ、内部に入る。

戸籍による照会が行われる。カードがなくとも、公共の施設ではこうした設備で出入りが可能だ。

戸籍のないものや偽造した戸籍のものが公共の施設に入ることは不可能だ。

戸籍そのものの改竄は、現代ではほとんど不可能で、凄腕のハッカーでも日本の技術には手こずるため、挑もうとする者はいないのだそうだ。

俺は中に入る。

歩いている人影は少なく、しん、としている。

人はほとんどいないと言ってもいい。遠目にかすかに見えるのは、円筒形の小型ロボットだ。

管理・掃除用のロボットや小型端末型のロボットなどだ。公共施設の管理用に作られたJTO社のものだ。

JTOは、国内最大の企業で、あらゆる分野を統括する。

それまで米国によって支配されていた軍需ネットワークを瞬く間に支配した。大戦により、国力の落ちていた米国を抜き、シェアを広げた。

世界中の企業を傘下に入れ、拡大した日本を代表する企業。

政府すら、その意向を無視することはできない。

そんなJTOのロボットを見ながら、俺は歩く。

もし、あのメールが本物ならば、向こうは俺の顔を知っているはずだ。

歩いていれば、そのうち。

そう思い、俺は周囲を歩く。

ただただ公立のみを重視した書棚とデータベース用の箱。

機能性を追求し、没個性的、とさえ感じる。

たかが図書館に、それ以上を求める意味はないかもしれないが、それでも、と俺は思う。

ここは、あまりにも寂し過ぎる。



数十分ほど経つが、一向に接触はない。

俺はもう帰ろうか、と思ったが、その時、俺のポケットの中の携帯端末が震える。

マナーモードのため、音はもれない。俺は端末を取り出す。

そこには、霊のアドレスからのメッセージが送られてきていた。


『次の曲がり角を曲がり、そのまままっすぐ歩け』


俺は前方を見る。右への曲がり角が見える。前方に広がる通路ではなく、俺は右に曲がり、言われたとおりにまっすぐ歩く。

すると、いつの間にか、周囲の光景が変わる。

ざざ、と何かが奔り、周囲の景色にノイズが混じる。


「なんだ・・・・・・・・・?」


「少し、セキュリティを弄っただけさ」


俺の声に応える声があった。

それは、俺の背後から響いた。俺が振り返ると、そこには一人の人物がいた。

黒いコートで全身の様子はわからない。顔も、モザイクがかっている。

この空間に走るノイズに、顔のモザイク。目の前の人物はハッカー、それも凄腕のモノなのだ、と何となく俺は感じた。


「あんたが、このメールの主?」


俺が端末を振ると、その人物は頷く。

そして、凛とした声で言った。


「その通りだ、吉田幹彦くん」


俺はその人物を見る。

声の調子からして、恐らく女性だろう。だが、それ以外は全くわからない。

俺の前に歩み寄ると、彼女は静かに告げた。


「それで、あんたはなんで俺にこんなメールを?」


「君が、世界の命運を決める存在であるかもしれないから」


「は?」


俺は訳が分からず、目の前の人物を見る。

俺は、何の変哲もない人間だ。それが、世界の命運を決める?何を言っている?


「意味わかんねえよ」


「それでも、君はここに来た。わけのわからない戯言と思えば、ここには来なかった」


「・・・・・・・・・」


「君は知りたいのだろう。メリダ・サルバトーレ。機甲の少女を」


「俺のこと、知っているんだな」


「勿論だ。君は、全てを変えた」


意味深に呟くと、その人物は俺を通り越して、前に歩いていく。


「ついてきたまえ。君に見せてあげよう」


そう言い、彼女は少し声を落とす。


「残酷な世界を。真実の世界を」

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