人助け
山田はいつものように、高速道路を運転していた。
ちゃんと決められた速度で走っており、秋晴れの中、快調に進んで行く。
夏とは違い、少し肌寒いのだが、山田は静かに輝く光を見つめながら、ハンドルを握っている。
すると、少し進んだところで、あることに気づく。
「…何だ?」
路肩に車が停まっており、20代くらいの女性が側に立っている。
その女性は可愛い感じで、少しぽっちゃりしており、オシャレだった。
しかし様子がおかしく、ずっと何かを待っているようだった。
1人でか細そげな印象を受けたので、山田は気になり、車幅をあけて、トラックを停める。
「おい、どうした?」
エンジンを切り、運転席から降りると、女性がびっくりしたような表情となる。
山田は気にせず、女性を見続けると、手を不安そうに合わせて言ってくる。
「た、タイヤが…」
「タイヤ? …どれどれ」
山田が近づくと、女性から良い香りがした。蜜に誘われた蜂みたいだなと思いつつ、女性の車に近づく。
色はピンクで、全体的に丸いデザインであり、女性にはぴったりの車だと判断する。
「あー…タイヤがバンクしたのか」
後ろのタイヤを覗き込み、山田は舌打ちする。
それが怖かったのか、女性はびくりと肩を揺らしたが、山田は気にせず、潰れたタイヤに注目する。
「JAFは呼んだか?」
「は、はい…!! 呼びました」
スマホを握りしめており、山田は重々しくうなずく。
JAFとは道路で故障したり、トラブルがあった時に来てくれる車の修理屋みたいなものだった。
「それならいい」
そう呟くと、山田はどうしようかと迷う。
仕事で急いでいるわけではないので、女性1人残すのもどうかと思ったのだった。
ー俺といると、怖がらせるみたいだし。
そんなに恐ろしい顔をしているだろうかと、顎を擦る。
女性は救いを求めるようにこちらを見ており、山田は決意する。
「JAFが来るまで一緒にいてやるか?」
「え…。で、ても…!!」
「運ぶものは運んだ帰りだから、俺も余裕がある。何分前に連絡した?」
「えっと…、その、30分か1時間前に。私も気が動転しているので、詳しくは…」
「そうか。とりあえず、ちょっと待て」
山田はトラックに戻ると、助手席に置いたトートバッグから、何かを取り出す。
それは缶コーヒーであり、キャップ型のものだった。
「これでよければ少し飲め。心を落ち着かせないと」
「え…。あ、あの、いいんですか?」
「いいさ。くれてやる」
山田が手に持たせてやると、女性は少し戸惑ったように言ってくる。
「ありがとうございます。感謝します」
「どういたしまして。それで? どこまで行くつもなんだ?」
「それは、ちょっと…。でも、あの、友達に会いに行くつもりで」
「そうか。それは災難だったな。1人で淋しかっただろう?」
山田がそう言うと、何故か女性は涙をこぼす。
「え、おい。俺のせいか?」
「ち、違います…!! あなたの優しさが嬉しくて」
両手が塞がっているので、女性は手の甲で涙を拭う。
優しいと言われ、山田は少し頬を赤く染める。
「大したことはしていないぞ。一緒にJAFを待っているだけだ」
「そうなんですけど、皆、無視しているように見えて…。助かります」
女性はようやく少しはにかんだ。
山田はどきりとし、胸を撫でる。
ー落ち着け、俺。女性だって気があるか分からないんだから。
呪いを唱えるように繰り返し、自分自身に言い聞かせ、山田は落ち着いた風に言う。
「もうすぐ来るといいな」
「はい!!」
山田がうなずくと、女性はおずおずと言ってくる。
「あ、あの…」
「何だ?」
「お礼がしたいので、連絡先を交換してくれませんか?」
「え…。俺の?」
びっくりして自分を指すと、女性がこくりと子どものようにうなずく。
「分かった。交換しよう」
本当は天に昇るような気持ちだったが、冷静さを装い、スマホを取り出す。
「えっと…俺のアドレスはこれだ」
「は、はい。えっと…」
女性はスマホを操作し、打ち込んでいく。
「あの、名前は…?」
「山田だ、あんたは?」
「はい、桐島と申します」
「桐島さんね。…よし」
互いに連絡先を交換し、山田は一言言う。
「困ったら、連絡していいぞ。道に迷ったとか、そういうのなら、大体、答えられるから」
「ありがとうございます。…あ!! JAFかも」
女性ー桐島が見つめる先に、JAFの車がやって来ていた。山田はよし、と手を挙げると、大声を張り上げる。
「タイヤのパンクだ!! 見てやってくれ!!」
「お願いします!!」
桐島が頭を下げたので、山田も軽く頭を下げる。
JAFの車が来たということは、山田はもうお役御免なので、桐島を振り返る。
「じゃあ、気をつけてな」
「はい…!! ありがとうございました!!」
ここはかっこよく去ろうと、手を上げ、トラックに乗り込む。
桐島は頭を下げてくると、JAFの人と話し始める。
それを見届けてから、山田はエンジンをかける。
ー思わぬ収穫があったな。
スマホを見つめ、トートバッグの中にしまう。
山田はアクセルを踏み込むと、トラックを走らせる。
「達者でな!!」
聞こえたかどうか知らないが、山田は大声を張り上げると、高速道路を走っていく。
いつもの日常に戻ったことにほっとしつつ、良い縁ができたと微笑む。
「よし行くぞー!!」
張り切ってハンドルを握り、一気に加速するのだった。




