00.あの日々から現在の始まりへ
00.あの日々から現在の始まりへ
●
────遠い、過去の記憶が呼び起こされる。
気が遠くなるほどの昔の記憶だ。
自分は戦場に立っていた。
武器を手にし、多くの命を奪い、数多の涙を生んだ。
『…………』
手に握り締めた剣の柄に更に力を込め、唇を噛み締める。
ぷつり、と噛み締めた唇から血が流れた。それでも、自分の犯した罪は消えない、忘れられない。
──忘れる、なんて出来ない。
この罪は一生、背負っていくものだ。
『リスタ』
苦しい感情を表情にし、目には哀しみを溜めるリスタの手を、温かな体温が包む。
握られた手に、自分を気遣う静かな声にリスタは目を細める。
目の前に広がる戦場という光景に、リスタの心に重く響いていく。
『リスタ……』
繰り返し同じ声に呼ばれる。
リスタは応えようという気持ちになれなかった。
無言のまま、目に焼き付けるように、眼前の光景を見つめている。
手にしている剣は血で濡れ、着ている戦装束も返り血に濡れていた。頬にも生温かな感触がこびりついている。
『……リスタ……』
リスタの頬にこびりついた血が拭われる。
誰かの赤で全身染まった自分。それが重く、心にのしかかってくる。
けれども、受け止め向き合い続けなければいけない。
『……ごめん、エイデス』
やっとの思いで、リスタは声を振り絞った。
口に出した言葉はエイデスへ向けた謝罪。自分を気遣ってくれるエイデスの、静かな中にある柔らかな思いにリスタは感謝の思いがあった。
小さく『ありがとう』と、リスタはエイデスへ言う。
まだ、幼さが残るエイデスの顔に安堵の色が見える。
『……リスタ、少し休んだ方がいい』
リスタの銀色の髪に触れながら、エイデスは呟く。
銀色の髪にも血がこびりつき、それがリスタを追い詰めていくのだと察し、エイデスは重苦しい表情を浮かべる。
優しいリスタが己と心を殺して戦場に立ち続ける理由。それは故郷を救いたいという気持ちからだと、エイデスは理解している。
今のリスタの追い詰められた精神で戦場に立ち続けるのは危険だと、エイデスはリスタを気遣う。
だが、リスタは場に合わない、柔らかな表情で微笑む。
『──大丈夫だ。私は、まだ戦える』
『……リスタ』
握られた手から逃れ、リスタは剣を手に戦場へと歩み始める。
エイデスはリスタの背を不安な眼差しで見送ることしか出来なかった。
その広い背中に見える覚悟に、エイデスは苦しい感情を心に感じる。
『……私は、戦える』
自分に言い聞かせるようにリスタは呟いた。
そうでもしなければ、この戦場から逃げてしまいそうであったから。
リスタは、戦場の地を踏み締める。
強い覚悟と意志を持って、この戦場を生き抜く。
────それが、己が歩んだ過去の記憶だった。
●
呼び起こされた過去の記憶から現在へと引き戻される。
過去から現実へ。
自分はどれ程の時間、眠っていたのかと目を開けた。
懐かしむ感情は湧かず、心にあるのは重く、苦しいものだった。
リスタはベッドに横になっていた自分の身体を起こす。上体を起こし、周囲を確認する。
見慣れている、というわけではないが知っている部屋の光景が視界に映る。
「…………」
眠気の残る頭を覚そうと、ベッドから降りる。
寝室の中を歩き、リスタは鏡台の前を通り過ぎた。鏡に映ったのは、あの日から変わらない銀色の髪。
リスタは視界の端で煌めく、自分の髪を見た。
鏡台を通り過ぎ、寝室から出たリスタは浴室に向かう。
浴室に入り、洗面台を前にし、リスタは自分の姿を見た。
表情はどこか暗く、影を持っており、晴々としていない顔つきの自分を視界に入れる。
…………あの日もこんな顔をしていたかしら。
きっと、そうであろう。
エイデスに随分と心配をかけてしまった。
それは、今でも変わらないのだろうけど。
「……あーあ、ひどい顔ね……」
ため息まじりに言葉を吐き出す。
夢で見た過去が、心に重くのしかかる。こびりついた記憶は離れずに、自分は忘れまいと覚悟を決めていた。
…………やれやれ、ね。
リスタは苦笑を浮かべる。
数分程、沈黙し、夢を思い出したリスタは振り切るように、洗面台で顔を洗う。
冷たい水が頭を夢から引き離してくれるようだ。
現実に覚めたリスタは顔を上げ、洗面台の鏡を見る。
銀色の髪、金色の瞳。記憶の中の自分は今と変わらない。
「…………ふぅ」
リスタは髪に魔法をかける。大昔から魔法使いが使える色素転換という魔法。
髪や目の色、肌の色さえも変えることができる魔法だ。繊細な魔力操作技術があれば、自分を様々な色に変えてくれる優れた魔法だ。昔から重宝している。
リスタの特徴的な銀色の髪が金色へと変わる。
色素転換という魔法をリスタが使うには理由がある。リスタの髪は月の一族と呼ばれる一族の中でも高い位に多く現れる色なのだ。月の一族は現在の社会では滅んだものとされ、生き残りがいると世間に知られれば面倒なことになるのだ。
金色に変わった髪を洗面台に置いてある櫛で梳かす。
リスタの髪は長く、脚の膝まで届く程にあるのだ。
手入れも中々に苦労する。
長い髪を手入れしているリスタの横に画面が起動した。四角い枠の中に表示されたのは《音声通信》という表示。
リスタは画面の起動を一瞥し、確認した後は鏡を見つめる。
〈おはよう、リスタ〉
画面から聞こえてきたのは聞きなれた友人の声。
友人の名前はロベリム。
ロベリムの朝の挨拶にリスタは返す。
「おはよう、ロベリム。良い朝ね」
夢見はあまり良いものではなかったが。
リスタの返事にロベリムは声で察したらしく、画面の向こうで苦笑したのが感じられる声音だった。
〈……その様子だと、また昔の記憶を夢で見たのね〉
ロベリムの言葉にリスタは肩を落とす。
「……大丈夫。 あ、支度が終わったら、朝ごはんを食べに行こうと思ってるわ」
昔の話をしていたら、気分が落ち込んでしまう。話題を明るいものに切り替える。
身支度をしたら食堂へ朝食を摂りに行こう。
リスタの話にロベリムは画面の向こうで「そうね」と同意してくれる。
〈私も行くわ。昨日も食べたけど、ここのパン美味しいのよね〉
「ハクトと一緒に来る?」
〈そうねえ……。起きるかしら〉
ロベリムは言って、同室の彼を見たのだろう。
まだ寝ていることが推察され、リスタは笑みを浮かべた。
「私はエイデスに声かけるわ。何だかんだ誘わないと不機嫌になっちゃうから」
気難しい相方を持つと苦労する、とリスタは思うが、そのおかげで救われた部分もあるのだと知っている。
エイデスの無愛想な表情を思い浮かべながら、楽しそうな自分がいると、鏡に映る自分を見て思うのだ。
彼とのこれまでは気が遠くなるほどに長い。
だが、出会いは昨日のことのように思い出せる。
「食堂で待っているわ、ロベリム」
リスタは言って、通信を切った。
リスタ達がいるのは宿泊施設だ。そう、長居はしない、旅行客が泊まるような施設だ。
なるべく同じ場所に留まらず、リスタ達は旅をしている。
広い世界。大陸をあちこち周って見るのも悪くはない。
リスタはそうやってこれまでを過ごしてきた。
身支度を終えたリスタは宿泊していた部屋を出た。廊下を歩き、隣の宿泊部屋の扉の前に立つ。
扉の横に付けられた装置に手を伸ばす。
装置のスイッチを押し、数十秒間待つと静かだが不機嫌そうともとれる男性の声が、装置から聞こえてきた。
〈……リスタ?〉
リスタの魔力を扉越しに感じ取ったエイデスが装置を通して、リスタの名前を呼ぶ。
「おはよう、エイデス。食堂に行かない?」
宿泊施設に併設された食堂に行こうと、リスタはエイデスを誘う。
エイデスは迷うそぶりも見せずに返事をしてきた。
〈……ああ、行く〉
短く、それだけ言ったエイデスは装置の通信を切ったらしい。
リスタは無言でエイデスが来るのを待つ。
待ってから数分後、扉が開く。
部屋から出てきたのは見慣れた青年だった。
整った顔立ちの、長身の青年。金色と銀色を混ぜたような色の長い髪を頭部の後ろで一つにまとめている。
瞳の色は青。美しく、宝石のような魅惑的な双眸だ。
リスタにとっては見慣れたエイデスの容姿。だが、知らぬ者は惹きつけられるだろう。
「エイデス、寝起き?」
「……いや、数時間前には起きていた」
「早起きねぇ……」
リスタは小さく笑う。
エイデスは部屋の扉を閉めるとリスタの隣に移動する。
「今日はチェックアウトするのだろう?」
エイデスはリスタに聞く。
「うん。移動ばかりで申し訳ないけど」
リスタは首を横に傾け、隣のエイデスに視線を向ける。
「慣れている」
「……苦労ばっかり、かけちゃってるわね」
エイデスは何時もの無表情、リスタに視線をやり。小さく首を横に振った。
「俺のせいでもあるからな」
この旅路は、エイデスの身の上もあって留まることはできない。
他から他へ。
オルビスウェルトという世界を旅して周っている。
幼い頃から、そういう生活を送って来ているエイデスは、もう慣れてしまったと口にし、その原因が自分であるとリスタへ言った。
リスタは眉を下げ、申し訳なさそうな表情をした。
……ごめんね、エイデス。
心の中で謝罪をする。口にするのは何か違うような気がした。
「……リスタ」
するり、と自然に、エイデスに手を繋がれた。
子供の時の癖が抜けないのだろうか、とリスタは何でもないことのように思う。
名前を呼ばれ、少し擽ったい気持ちになりながらリスタはエイデスの横顔を見た。
「……エイデスが子供の時、手を繋ぐと安心できた」
「……子供の時?」
エイデスが不思議そうな顔でリスタの目に視線をやる。
「うん」
リスタは頷く。
「ここにちゃんといるって安心したの」
小さな、頼りない手だったエイデスの幼い頃を思い出す。
世界がどんなものなのか分からず、不安ばかりだっただろうに。エイデスの幼い頃の日々を考えると、リスタは再度、申し訳なさの感情が湧いた。
この世界でエイデスが生きるのには独りでは無理だろう。
リスタはエイデスが望んでくれる限り、共にいたいと思っている。
「…………」
エイデスはリスタの思いを知らずとも、複雑な心境を抱く。
何時迄も、子供扱いされているようで複雑なのだ。
二人は手を繋いだまま、廊下を歩き、食堂へ向かった。
●
────食堂は宿泊施設の一階に併設されている。
宿泊客以外も来店できるように食堂は受付を抜ければすぐのところにある。
食堂の内装は白い壁、大理石の床、と密かな高級感を漂わせている。
広い食堂の中をリスタとエイデスは歩き、適当な空席を探す。
「ここにしようか」
リスタはエイデスに言うと、エイデスは手を離し、席に座る。
心なしか不機嫌そうな雰囲気を出している。
…………?
先程までは機嫌悪そうには見えなかったのだが、とリスタは首を横に傾ける。
手を繋いでいたかったのだろうか?
「飲み物取ってくるね。何でもいい?」
リスタは戸惑いの気持ちを抱えながら、エイデスに訊く。
エイデスは腕を組み、リスタに答える。
「甘いの以外なら……」
エイデスの言葉にリスタは頷くと、席を離れて飲み物を取りに行く。
食堂の中には朝食用のビュッフェとドリンクバーが用意されており、自分で好きな食べ物や飲み物を取るシステムだ。
リスタは少し離れるぐらいなら、大丈夫かと思った。
そんなにエイデスに過保護にしてしまうのもどうかと思うのだが、エイデスは持ち前の容姿もあって何かと問題が起きやすい。
リスタが横にいようと、声をかけてくる猛者もいるぐらいだ。
なるべく急いで飲み物を持って行こう、とリスタはドリンクバーにコップを持っていく。
リスタが飲み物を取りに行き、独りになったエイデスのもとに二人の男性が声をかけてきた。
「君、独り?」
「凄く綺麗だね」
ありきたりというか、よく聞く言葉だ。
勿論、全く知らない他人から声をかけられてエイデスはうんざりする。
男二人は下卑た笑みを浮かべ、値踏みするようにエイデスの容姿をじっくり見つめてきた。
エイデスは眉を寄せ、不快感を表に出す。
「独りではない」
静かな低音でエイデスが言葉を声に出すと、男二人は驚く。
「男⁈」
どうやら女性と間違えられていたらしい。
男二人は顔を見合わせ、数秒。
「へぇ……、全然イケる。ねぇ、一緒に楽しいところに行かない」
どうやら、猛者の部類らしい。
エイデスは眉を更に寄せた。
「行かない。恋人が戻ってくる。失せろ」
エイデスは言うと、男二人に向かって鋭い眼差しを向ける。
それでも男二人は諦めず、エイデスに手を伸ばす。無遠慮な男の手を、リスタが自分の腕で防いだ。
「──あら、何かしら? 楽しいところって何処かしら。おねーさんが知りたいわね」
リスタはにっこりと笑顔を、男達に向ける。
男二人は突然、現れたリスタに顔を引き攣らせた。
「何だよ、あんた」
「この子のほ……」
訊かれたので『保護者』と答えようとしたリスタの言葉を遮り、エイデスが言った。
「恋人だ」
エイデスの言葉にリスタは苦笑を浮かべる。
…………保護者じゃ、だめ?
どうにも、最近は保護者では不服らしい。
こんな些細な日常でもエイデスの変化を受け取って、リスタは戸惑いを感じる。
「こ、恋人⁈ 本当かよ……」
恋人、という単語に男の一人は怯んだ。
効果があるのは分かっているリスタは乗ることにした。
「そうよ。私はこの子の恋人。ほら、分かったら、ここから退きなさい」
リスタは厳しい口調で男二人に言う。
「は……はぁ⁉︎ う、うるせえよ‼︎」
男の一人は顔を真っ赤にして、リスタに怒鳴る。
リスタは手にしていたコップをテーブルに置き、男二人を前にしても物怖じはしない。
「諦めろって言ってんの」
鋭い視線と言葉を男二人に向ける。
男二人は周囲の客の視線が自分達に向けられると気づき、「くそ!」と悪態を吐き捨てて、去っていった。
リスタは腰に手をあて、「やれやれ」と肩を落とす。
すぐに気を取り直し、エイデスに顔を向ける。
「大丈夫?」
リスタはエイデスに訊く。
「大丈夫だ」
エイデスは頷いた。
「……保護者じゃ、ダメ?」
疑問に思っていた。
エイデスは最近、リスタが保護者と名乗るといい顔をしない。不機嫌そうな空気を纏う。
「…………」
無言。
エイデスは沈黙し、リスタは口をへの字に曲げる。
互いの認識に差異があるようだ。
保護者とその養い子。それが二人の始まりだった。
だが、エイデスは最近、それを嫌がる。
…………どういうこと?
リスタは疑問に思う。
その関係ではいけないのであれば、どういう関係がエイデスにとって満足なのだろう。
長らく、保護者と養い子として共に生きて来た。その関係が変わろうとしているのか。
微妙な空気が流れるリスタとエイデスの間に、友人の明るい声がかかった。
「おはよー! 二人とも!」
ロベリムの声だ。
●
ロベリムは銀色の長い髪を持つ女性だ。金色の両眼は愛くるしく、顔立ちも可愛らしさがある。
彼女の後ろには白髪の美男子が離れずに歩いて来た。
「おはよう。二人とも。……ハクト、起きれたんだ」
リスタが近づいて来たロベリム達に声をかけると、ロベリムは苦笑を浮かべる。
「何とかね〜。中々、起きないのよ……」
起こすのに苦労したのか、ロベリムは背後のハクトに視線をやる。
ハクトは頭の兎耳を動かす。表情はエイデスと同様に無表情が多いのだが、頭についてる兎耳が感情のままに動くようだ。
「眠い……」
一言。ハクトは眠い、と呟く。
寝起きでどうやら機嫌が悪いらしい。
ロベリムは後ろに振り返り、ハクトの頭を撫でた。
「もうチェックアウトしないとだからね〜」
「……早いな」
ロベリムに頭を撫でられたハクトは目を細める。
そんな二人は仲睦まじい恋人同士であり、長らく苦楽を共にしている。
ハクトは目を開け、リスタに訊く。
「次はどこへ行くんだ?」
今、リスタ達がいるのは、小さな島国。
観光客で国を潤わせている国であり、豊かな緑に囲まれている。エメラルドグリーンの海も綺麗で有名だ。
リスタはハクトの問いに「そうねえ」と悩んでいる様子を見せた。
「隊長から任務の依頼は来てないのよね」
隊長、と呼ぶ人物から任務の依頼が来る。その依頼先を目的地として旅することも昔はよくあった。
それが無い時は気ままな旅をしている。
同じところに留まっていられないので、皆と相談し、目的地を決めたい。
リスタは自分の顎に指をかけ、悩む。
脳裏に隊長の後ろ姿が思い浮かぶ。
長い銀髪を靡かせ、戦場に立っている、あの日の彼。
────リスタ。
思い出される、静かな声。自分の名前を呼ぶ、彼の声。
────生きろ。
リスタは思い出す。あの日、彼が口にした言葉。
その言葉を胸に、エイデスの存在を支えに生きてきた。
…………隊長。
思い出せば、胸が締め付けられるように苦しい。
「……リスタ?」
ロベリムがリスタの名前を呼ぶ。
「……あ、ごめん。ちょっと、上の空になっちゃった」
現実に目を向けたリスタはロベリムに顔を向ける。
リスタのこの調子は今に始まったものではない。
エイデスも何かを感じたのか、無言でリスタに視線をやる。
「…………」
三人の視線が自分に集まり、リスタは気まずそうに取り繕う。
「あ……、あはは」
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────リスタの心にこびりついて離れない記憶。
血の臭いが辺りを満たす戦場の中、リスタは彼の下についていた。
『隊長』と呼ぶ彼は戦場に立ち、リスタに背を向けていた。
『──隊長』
遠い記憶の中で、彼を呼ぶ。
共に立った戦場は正義も悪もなく、自分達を動かすのは故郷を守りたい心だった。
リスタは手を伸ばす。
『……リスタ……』
彼の静かな声がリスタの名前を呼んだ。
戦場という場所。それがこんなにも自分達の心を揺さぶり、危ういものとするとは……。
リスタは疲弊していく自分の心も分かっていた。
そして、隊長と慕う彼の心の疲弊にも気づいていた。
長引く戦い。あの日々は終わりが見えず、皆の精神を磨耗させていった。
隊長がリスタへ振り返る。
リスタと同じ金色の両眼が哀しい光を見せる。
『……隊長……』
彼へと伸ばした手を引っ込め、リスタは眉を下げる。
──あの日々があったから今の自分がいる。
──エイデスを守れる強さもあの日々があったから。