第98話 蟻=人類起源説
──歴史学者・宇田川白蟻教授による学説発表より
「諸君、地球の歴史を一万年単位で眺めると、ある疑問が浮かんできます──
人間とは、一体いつから“人間”だったのか?
逆に言えば、“人間の前”には、いったい何がいたのか?そしてどう人間になっていったのか?」
(スライド1:蟻の写真)
「答えは、これです──蟻です」
(会場ざわつく)
「いいですか、諸君。
蟻こそが、高度な社会性・構造性・労働分業を最初に達成した“知性生命体”なのです。
すなわち──人類の起源は、“蟻”なのです!」
(スライド2:ピラミッドと蟻塚の比較写真)
「見てください。古代エジプトのピラミッドと、現代のクロオオアリの蟻塚。どちらが先か?
……言うまでもありませんね。ピラミッドは“蟻文明”の名残なのです」
(スライド3:教科書の年表を赤線でグチャグチャにした図)
「人類史は、蟻の進化史の“再演”にすぎません。つまり、
人類は、蟻の遺伝的バックアップ装置なのです! 今も我々の“行動パターン”は、蟻のアルゴリズムに従って動いている!」
(スライド4:通勤ラッシュの電車写真)
「ほら、これを見てください。都心の朝8時。何百万人という人間が同じ時間に同じ方向へ群れを成して移動する……。これはもう、“蟻”の行動以外の何物でもない!」
(会場沈黙)
「我々は、蟻からの恩恵を受け続けて進化したのです。」
学会での扱い
この説を唱えた宇田川白蟻教授は、すでに4度学会から追放されている。
にもかかわらず、動画では200万回も再生され、「割と"あり"得るかも」とコメントも多数。
書籍『アントロポロジー入門──蟻が人間を装った5000年』は、
20XX年「読むと社会不信になる本」ランキング第1位。
電車内、一人の男性大学生がアンソロポロジー入門
を読みながら、ぼそりと呟く…
「蟻はどこから、蟻になったんだろう…」




