表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/279

第84話 ANTMODE:蟻界の頂点

人間たちは本気だった。

デザイナー、縫製職人、演出家、照明スタッフ──

すべてを総動員して、「蟻のためのショー」を成功させようとしていた。


――『ANTMODE 205-A/W COLLECTION』

舞台は、ドーム型のガラス施設。

その中央に敷かれたランウェイは、光を反射する黒いフェロモンラインで縁取られている。


「皆さま、お待たせいたしました。いよいよANTMODE 205-A/W コレクション、まもなく開幕です!」


司会の声が響き渡ると、観客席の人間たちは一斉に歓声を上げた。


今夜のテーマは「蟻と人間の融合」。

この数年、蟻の行動や姿にインスピレーションを受けた“蟻ファッション”が流行し、ついにそれを体現したショーが開催されたのだ。


最初に登場したのは、人間モデルたち。

ランウェイでは、本来ではトリを飾るトップモデル達が入場し、 会場を沸かせる。


背丈190センチ、六脚モチーフの最先端スーツを着こなし、完璧なポージングを決めてみせる。

六本足を模した細身のヒールを履き、黒く光る節を強調したボディスーツを魅せる。

彼女らは蟻の動きを真似て、低くゆったりと歩いていく。


客席からは、興味深げなざわめきが起こった。


「まるで蟻そのものね」

「触角みたいなアクセサリーがすごくクール!」


そんな熱気が高まる中、ショーは次のステージへ移行する。


次は本物の蟻が「ゲストモデル」として登場した。


「やばい、リアルで蟻が歩いてる…尊い…」

「見て!あの子、重さ0.1gしかないのに完璧なポージング!」

「蟻にしかできない表現ってあるんだなあ……」

観客達は再び熱狂し感心する。

「人間が真似していたはずなのに、やはり真のオリジナルに誰も敵わないわ」と客席は感じ始める。


控室のモニター前では、デザイナーの城崎ミナは息を呑んで見ていた。

モニターに映るのは、ゆっくりとランウェイを歩く蟻達だった。


彼女が作ったドレスを纏い、繊細なフェロモンラインを模した極細ファイバーの装飾が蟻の小さな体を美しく彩っている。


「……まさか、蟻そのものがモデルになるなんて夢みたいだわ…」

城崎は静かに呟く。


蟻の一歩一歩に宿るリズム、節ごとの曲線美、触角の動きすらもが、自然の造形美の極致だ。


「これこそが“究極のモード”……人工を超えた、生きたファッションよ……!」


彼女は膝をつき、深く息を吐いた。


「私のこれまでの努力は、この蟻のための道標に過ぎなかったのかもしれない……」


ランウェイに戻ると、客席の注目は完全に蟻へと移っていた。


「見て、あの蟻、まるで踊ってるみたい!」

「この生き物こそが本物のファッションモデルよ!」


人間モデルは脇へと追いやられ、背景の一部のように同化していた。


そして、いよいよ最後の瞬間が訪れる。


司会者の声が低く、感動を込めて告げた。


「皆さま、お待ちかねしました。世界一の人気トップモデル、アリーヌ様の登場です!」


巨大スクリーンに映し出されたのは、ゆっくりと歩を進める一匹の蟻。

歩く速度は先ほどにも増して、まるで時の流れを遅らせたかのようにさらに遅く、

その動きには会場は息を呑んだ。


人間たちは膝をつき、静かにその姿を見守った。


「これが……本物のモードなのか」


舞台裏で、プロデューサーは満足げに呟いた。


「遅ければ遅いほど魅了する価値がある。

“蟻様を待つ時間”こそが粋な空間なのだ」


スタッフ達は慎重に蟻の装飾を片付けながら、静かに呟いた。


「あの歩行スピードだと、絶対朝帰りだな…」


そして人間が模倣した蟻は、ついに主役の座をも奪い取った。

人間は、ただの舞台装置となったのだった。


長かったショーも無事、幕を閉じた。

終わったのは、明け方の5時だった。

その頃には、もう客席からはいびきが鳴り響いていた。


プロデューサーはとっくに日をまたぐ前には帰っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ