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第77話 リングの上の命

会場は東京ドーム、世界が注目するWBL世界バンタム級タイトルマッチ統一戦。


チャンピオンは不敗神話を誇るアメリカの“機械拳”コーディ・ジョンソン。


そして挑戦者は新鋭鬼神、共生先進国・日本の神野 玲司かんの・れいじ


試合前日、会見会場にて。 下馬評は9対1で王者完全有利。誰もが、挑戦者神野に勝ち目はないと思われていた。


だが、神野は言った。 「オレの中には、まだ“負けてない拳”がある」


──そして、いよいよ当日そのゴングが鳴った。


そして世界中が注目する一戦。 序盤から王者コーディ・ジョンソンは完璧な距離とコンビネーションで完全に試合を支配した。

2R、3Rと神野が全く手も足も出ない展開が続いている。


6ラウンド終了時点では、実況席は冷ややかだった。 「これは、完全にワンサイドですね……」 「神野選手は防戦一方です」


そして7ラウンド。


王者の左ボディ、右フック、さらにダブルジャブ。 神野はロープ際に追い詰められ、神野ダウン寸前──


そのとき。


「——ストップ!」


レフェリーが腕を広げ、試合を止めた。

誰もがTKOテクニカルノックアウトかと思った。


すると…リングの中央に、1匹の蟻が歩いていたのだった。


最初、誰も何が起きたのかわからなかった。

しかし、スクリーンで映像がズームする。

青いコーナーのロープ近く、小さな命が這っているのが見えた。


「これは……アリですね、はい、アリがリングに入ってきています」


観客のブーイングが、ざわめきに変わる。

会場が、徐々に“理解”をしはじめたのだ。


リングサイドの共生蟻保護官がリング上に駆け寄り、蟻を丁重に誘導する。

慎重に、アクリルケースに収められ、拍手とともに退場していった。

実況席でも混乱している様子。


観客席では

「うわ…あの瞬間に止めるんだ。すごい時代になったな……」


—しかし、問題はそのあとだった。

試合が再開されようとしたとき、チャンピオンのジョンソン陣営が猛抗議を始めたのだ。


「こんなのバカげてるだろ! こんなことで止めてたらスポーツにならないだろ!」

「ただのアリだぞ!? 人間同士の試合がアリごときに止められるのかよ!?」


マイクのない怒鳴り声がリング中継にも響いてくる。

セコンドが椅子を蹴り飛ばす。観客から再びブーイングが起こる。


数分後——

試合続行を拒否したジョンソンに対して、団体は失格を通達した。


理由は、「生物多様性共生条約第15条・配慮義務違反」。


神野 玲司は、史上初の「蟻中断によるタイトル獲得者」として、新王者となった。



試合後、神野は喜びのインタビューではこう答えた。

「オレはあの時、リングの中央で救われました。

人でもセコンドでもない、たった一匹の命に。

勝敗ってのはさ、数字だけじゃないんだと思います。これからも、練習と蟻への配慮忘れず頑張っていきます。」


翌日、各スポーツ新聞紙も全面に躍った。

『アリを守れ。リングもまた共生の舞台』

『“虫一匹で中断”は異常か? 新時代のスポーツ倫理』

『拒否したチャンピオン、差別主義者とSNSで炎上』


そしてSNSでも

「“あれが王者の態度?”と、ジョンソンの娘の学校にも抗議が殺到したらしい」



そして、半年後…神野 玲司の初の防衛戦が行われる。


またリングのどこかに、彼のために動いた陣営の小さな命がいたことを──


それを知ってか知らずか、神野 玲司はまたリングに向かって歩き出す。

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