第74話 蟻婚スクープ
都内某日。SNSがざわついた。
「#蟻婚速報」「#第Z19コロニーの奇跡」「#感動の求愛ダンス」
発端は、共生庁のフィールド観察班が偶然撮影した2匹の登録蟻(個体番号:Z19-1431とZ19-1439)の求愛行動だった。
互いの触角を絡めるように近づき、繊細なステップでダンスする様子が、まるで「キス」や「ハグ」に見えると話題に。
動画が投稿されてから24時間で、再生数は6800万回を超えた。
「これが…愛だ」
「人間より誠実そう」
「もう、私たちより美しい」
著名人も続々とコメント。
「今年いちばん感動した出来事です」──(共生系インフルエンサー・ありのまな)
「人間も見習わないとね」──(環境副大臣)
次第に、社会が動き始めた。
・Z19-1431とZ19-1439の求愛行動は「婚約」として公認され、“蟻婚”として初の行政記録に登録
・テレビ番組では、求愛再現ダンスを披露する小学生や、蟻型カップルリングを販売するブランドまで登場
・祝福イベント「第1回 蟻婚祭」開催が決定。主催:都共生文化振興課
しかし──
当の“カップル”は、既に自然行動の一環として、求愛フェーズが世間の話題をよそに勝手に終了していた。
観察班の記録によれば、交尾完了後、オスであるZ19-1431はその3日後に死亡。
女王候補だったZ19-1439も、巣の深部に移動して以降、個体観測不能となっている。
けれど、人々は熱狂し続けていた。
・葬儀イベント(メモリアルアート化)
・追悼Tシャツ
・“蟻のように添い遂げる”が結婚式の新定番に
ひとりの高校生が、投稿した。
「結局さ、“愛”に見えたから勝手に盛り上がっただけで、相手が人でも蟻でも関係ないんだよね。 “自分が感動できるか”がすべてなんだ」
コメントはバズらなかった。
数ヶ月後、Z19-1439の子孫とみられる個体が、新たなコロニーで確認された。
観察者は報告書にこう記した。
「対象個体に“感情”があるかは不明。
だが、この個体は一切迷わず、生きている。」
恋愛すら、人間の祭りになるのだ…




