表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/279

第42話 陽の下を歩く者たち

最初にそれが目撃されたのは、郊外のニュータウンだった。

一匹の蟻が、人間の手で作られた小さな背負い袋を背負い、歩道を横断していた。


子どもたちは最初、面白がって動画を撮った。

しかし、同じような「装備を持つ蟻」があちこちで確認されはじめ、事態は一変した。


「蟻たちが“ペット化”している」 「訓練すれば郵便も運べるらしい」 「蟻はもう、我々の生活の“パートナー”だ」



SNSは「#蟻のある暮らし」というハッシュタグで埋まり、

都内では「蟻歩道(アリ専用レーン)」の整備が試験導入された。




人間たちは気づいていない。

自分達がペット化していることに…


それが“自然の進化”でも、“人間の技術革新”でもないことに。

すべては蟻たち自身が仕掛けたものだった。


■ 蟻の行動学研究に見せかけた「人間訓練マニュアル」

■ 愛玩昆虫認定制度にすり替えられた「合法的な巣拡大許可」

■ そして、「共生型住宅」という名の、人間の居住空間を内部から植民する仕組み。



三年生の山田芳樹は、ある日、大学のキャンパスである異常を目撃する。


ゴミ箱の裏、電気メーターの隙間から覗いたその空間に、

人間サイズの巣穴が穿たれていた。


内部は乾燥しており、整然と区画化されていた。

パイプを伝って蟻たちが列を成し、何かを運んでいた。


それは、クモの死骸でも、食料でもなかった。


——人間の歯。 ——人間の骨。 ——人間の皮膚片。




山田は凍りついた。

「これは…“死体処理場”じゃない。建材だ……!」



蟻たちは、人間を資源として利用していた。

まるで、これから建設する“都市”の材料のように。




その頃、政府広報はこう発表していた。

「アリとの共生は次なるフェーズへ!」 「アリ型ロボット技術との融合で、街はもっと便利になります!」



人間たちは、街に溶け込む“新しい蟻”を喜んで受け入れていた。

もはや、誰も地下を恐れていない。

都市のインフラは、静かに、確実に“蟻の支配構造”へと書き換えられていた。



夜のマンション。山田が住む部屋の風呂場で、小さな異音。


カラン……カラン……


覗いてみると、排水口の金網の内側から、無数の複眼が山田を見ていた。


その中心にいたのは、翅を持つ蟻——

すなわち「繁殖能力を持つ、地上対応型の女王」。


ここは、もう私達の世界ではないかもしれない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ