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第36話 小さな手の中の罪

日曜日の午後。

風の気持ちいい公園。木漏れ日が地面を照らし、ブランコの鎖が軋む音がしていた。


母親・木村沙織きむら・さおりはベンチに座り、本を読みながら5歳の息子・悠真ゆうまを見守っていた。


「ママー!みて!ちっちゃいの、いた!」


悠真が両手を包み込むように差し出してくる。


その中には、一匹の蟻。

赤茶けた背中が、まだゆっくりと動いている。


「この子、けがしてるの。足、ぴくぴくしてる……」


「うちに連れてってあげたら、元気になるかなあ?」



沙織は一瞬だけ微笑む。

「そうね……(でも、蟻構成員かもしれないわ。どこの登録個体だろう)まっ、でも保護してあげるだけだから大丈夫か…」


そして家に連れて帰り、クリアケースに入れて保護してあげる。


あくる日

朝9時 インターホンが鳴る

そこには制服を着た2人の捜査官が、立っていた。


「Z45コロニーより捜索願いが出ています。」

「対象個体の不正所持を確認。未登録誘拐とみなします」

「その構成員個体を、今すぐ解放してください」

「箱に閉じ込め、残虐性があります。」

「えっ、ちょ、待ってください、息子はただ!」


悠真は蟻を持ったまま、母の背中に隠れる。

「お子様本人に執着の意志が確認されました。“保護”は意図的に行われたと判断されます」


「やだよ!この子、助けてあげたの!ぼくが、なおしてあげるの!」


「児童構成員誘拐未遂により、即時保護拘束を行います」



一瞬のうちに、悠真は腕をつかまれ、後ろ手に拘束される。


「ママァァァアアアア!!!!」

「やだぁっ!!この子、しんじゃうのにっ!!!」



沙織が立ち上がって手を伸ばした時には、

もうすでに息子は手錠をかけられた。

「連行します。」


「やめて!!離して!!わたしの子よ!!」

「まだ五歳なのよ!?ただ、蟻を助けようとしただけじゃない!!それだけで、なんで……!!」


母親の叫びが、マンション中に鳴り響いた。


だがその後ろでは、

「“ああ、あれやっちゃったね”」「親もやばいんじゃね?」と囁く親子連れの姿。


誰も手を差し出さない。

ただ、スマホで動画を撮る者さえいる。


悠真はパトカーに押し込められ、走り去る。母親が崩れ落ちる。

もう、その手には誰もいない。


 

――翌日のニュース。


『未登録蟻構成員個体の不正誘拐未遂。5歳児を含む“教育案件”として国家再形成庁が対処』

《※再教育期間中、保護者には面会の許可は与えられません》



母親の泣き声を切るように、画面が切り替わる。

《“蟻に優しく、人に厳しく。” 社会の礎は、私たちの目線から》

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