表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
274/279

第274話【異世界転生】蟻帝国で無双するつもりが…これで無双…!?

目を覚ますと、俺は六本脚で土の中を這っていた。

最初は夢かと思った。いや、夢ならまだよかった。


だが、あまりに現実感が強すぎる。体がやたら軽いし、視界がモザイクみたいに細かい。どうやら──いや、認めたくはないが、俺は蟻になってしまったみたいだ…。


「おお、起きたか新入り!」


土壁の向こうから聞こえた声。現れたのは俺と同じ、小さな黒い粒。……いや、蟻だった。だが不思議なことに、何を言ってるか理解できる。まるで翻訳機でも脳に直結したかのように。


「今日からお前も俺たちの仲間だ! 歓迎するぜ!」


周囲を見渡せば、数えきれないほどの蟻たちがうごめいていた。だが、確かに感じた。彼らは俺を“仲間”として受け入れられている。


その瞬間、頭の奥に奇妙な声が響いた。


《転生特典スキル──【蟻帝王素質】発動》


……ん!?何それ。

別に俺…、特にチート転生を希望した覚えないんだけど!?



蟻としての一日が始まった。

俺はとりあえず巣の中をうろついてみた。巣穴は迷路のようで、食料庫、育児室、兵士部屋……どうやらここは「蟻帝国」と呼ばれる巨大な共同体らしい。蟻にとっては社会そのものだ。


だが、俺が動くたびに周囲の蟻達がざわつくのを感じた。


「何!あのフォルム……格好いいわ……」

「触角の角度が完璧すぎない……」

「あーもう、あの方に噛みつかれたいわ……!」


……いやいやいや。俺はただ普通に歩いてるだけだぞ!?

鏡なんてないけど、見た目はどうせ同じ普通の蟻じゃねぇーか!?


それなのに、すれ違うたびに蟻ガールズ(?)が震えてる。【蟻帝王素質】とかいう特典のせいなのか…?。


だが……。俺、意識は完全に人間のままなようだった。蟻にモテても全然嬉しくないんだけどな…。

正直、好みは今でも人間の女の子一択だ。



次の日。隣国の「赤蟻軍」が攻めてきた。

普通なら数百匹単位で激戦になるらしい。巣中に緊張が走った。


だが俺の周りだけは違った。


「彼に傷をつけるな!」

「彼のために道を作れ!」

「彼にふさわしくない者は潰すのみ!」


な、なんだこれ。俺、何もしてないのに?

蟻たちが勝手に突撃して、勝手に俺が戦うべき敵を次々と殲滅していき、俺を守ってくれる。


気づけば赤蟻軍は全滅。巣の入口で俺の目の前では、兵士蟻たちが黒い波のように押し寄せ、赤蟻軍に噛みつき、脚をへし折り、容赦なく地面に叩きつけていった。

「彼の通る道を死守せよ!」

「彼の足元に赤き血を流させるんじゃねーぞ!」


いやいや、俺そこまで歩く予定ないんだけど!?

戦場の砂埃の向こうでは、数百の赤蟻が必死に抗うも、我が帝国の兵士蟻は興奮状態。

その異様な熱狂の中心に、なぜか俺が担ぎ上げられているのがわかった。


俺の活躍はただ「え、マジで?」と呟いただけだった。


どうやら俺、戦わずして無双するチート蟻になってしまったらしい。

ありがたいけど……いや、ありがたくないかもしれないな…何も活躍してないし…。



その日の夜。俺は巣の奥深く、玉座の間へと呼ばれた。

そこで待っていたのは──女王蟻だった。


他の蟻とは比べものにならないほど大きく、堂々とした存在感。土の匂いの中に、どこか甘い香りが漂う。

その姿は畏怖を誘うはずなのに、なぜか見上げるだけで心臓がバクバクしてきた。


「今日の活躍はご苦労であったぞ…。」


低く甘やかな声が響く。思わず固まる俺。

いや待て、俺は何も活躍してないぞ…


「あなたのこと気に入ったわ!私はあなたを婚約者として選ぶわ。共にこの巣の未来を築きましょう」


「えっ!?」


女王蟻だけは格が違っていた。その威厳、その気品、その圧倒的フェロモン。


だが…、俺が欲しいのは決してフェロモンなんかじゃない。


放課後に聞こえる部活の掛け声とか、カフェでバイトの子が「ご注文は?」って微笑むあの一瞬とか……そういうのなんだ。


土のにおいよりもシャンプーの香りが恋しいし、蟻酸の刺激より炭酸ジュースのシュワシュワが飲みたい。

どうして俺だけ、転生しても“人間の日常”の意識に縛られてるんだ…。


「……はい」


気づけば思わず答えていた。

いや、そう答えざるえなかったのだ。

だが、心の奥では叫んでいた。


(違うんだよ! 俺は女子高生とか、カフェで隣に座ってる普通の人間の子とか、そういうのがタイプなんだよ! 蟻に迫られてもどうリアクションすりゃいいんだよ!)


こうして俺は、戦わずして女王の隣に座り、「蟻帝国」の次代の“蟻王”となった。

玉座の間では祝賀のフェロモンが充満し、兵士蟻も働き蟻も一斉に俺へ忠誠を誓う。


「王よ!」

「我らが王よ!」


いやいや、心の準備が……。

俺はただ、流されただけだぞ!?


だが帝国にとって、俺は希望の星らしい。

赤蟻を撃退し、女王に選ばれた蟻。誰もが俺を讃えている。


けれど内心ではまだ思っている。


(やっぱり、人間の女の子と恋愛したいなぁ……)


どうして俺の好みだけ、転生しても変わらなかったんだろう。


女王蟻は確かにすごい。気品も威厳も備えている。

でも俺の心は、土じゃなくてアスファルトの匂いを求めているんだ。制服姿の笑顔を、スマホを覗き込む仕草を、そういう“人間らしい日常”を。


──なのに、俺は蟻王。

土と闇とフェロモンの国の、次代の支配者だった。



こうして俺は、戦わずして蟻王となった。

だが本当の戦いはこれからだ。


──蟻帝国と、人間の恋愛フラグの板挟みという名の戦いが。


(あれっ…これ、まだ続く……のか?)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ