表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
210/279

第210話 蟻的フレーズ

最近、職場の同僚の田島が元気がない。

いつもなら昼休みに一緒に四つん這いで散歩に出かけ、触角(に見立てた指)を擦り合わせながら顎をカクカク鳴らすのが習慣なのに、今日は一度も顎が鳴らなかった。


「どうした、田島。最近、顎の動きが鈍いぞ」


俺は軽く触角を伸ばしてみせたが、田島は小さく笑っただけで、触角を返してこない。


「いや、ちょっとさ……将来が不安でさ。俺、本当にこのまま働き蟻として終わっちゃうのかなって……」


そう言って、田島は土に突っ伏した。

顎はピクリとも動かず、触角も垂れ下がったままだ。


(これは深刻だ…)


俺はそっと田島の肩に触れ、静かにこう言った。


「田島、お前、自分が何のために顎を持ってるか知ってるか?」


田島はきょとんとした顔で俺を見上げる。


「それはな、女王様に奉仕するためだ。

お前の顎は、女王様に咀嚼音を捧げるためにあるんだぞ。

だからもっと自信を持てよ。お前の顎の鳴りは、俺が知ってる誰よりも蟻的なんだから」


言いながら、俺は自分の顎をカクカクと鳴らしてみせた。


すると田島も、少しだけ顎を動かした。


「……ほんとに? 俺の顎、まだイケてるかな?」


「当たり前だろ。お前の顎は最高に蟻的だよ。

さあ、触覚と顎を擦り合わせようぜ。俺たちは仲間じゃないか」


触角同士がそっと触れ合い、そして顎へ…ジョリジョリと小さな音を立てた。

その瞬間、田島の顎が再び力強くカクカクと鳴り始めた。


「痛っ…髭が……でも、ありがとう。なんか元気出たよ」


「よし、それでこそだ。俺たちは一生、女王様のために顎を鳴らし続けるんだぜ。

それが一番イケてる生き方だろ?」


田島は泣き笑いみたいな顔をして、もう一度しっかりと顎を動かした。


(やっぱり、蟻的なフレーズってのは不思議だ。

こうして悩んでる奴も、すぐにまた元気に顎を鳴らせるようになるんだから)


俺は自分の触角を誇らしげに揺らしながら、田島と並んで再び四つん這いで歩き出した。


土の匂いが鼻をつき、どこか心地よい。


――俺たちは、今日も最高に蟻的だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ