第202話 【異世界転生×ファンタジー】転生したら蟻だったので、剣士になって魔王に立ち向かう
俺は剣道三段、人間界じゃそれなりに名の知れた選手だった。 だが不慮の事故で死んでしまい――今や、気づけば蟻として生まれ変わっていた。
(マジかよ……体ちっさ!)
六本の細い脚、ヒョロ長い触角。
だが不思議なことに、心は以前と変わらず、武士道を誇る剣士のままだった。
気づけばここは、蟻が席巻する巨大な王国。
――いや、それだけじゃない。 この世界では「魔王」と呼ばれる存在が、蟻の国を侵略し始めているというのだ。
俺は蟻として生まれ変わった運命を受け入れ、王に忠誠を誓い、魔王討伐隊に志願した。
剣が得意ということで、王は剣を用意してくれた。
しかし…問題があった。
(剣……デカすぎる……)
蟻の国には伝説の聖剣があった。
長老蟻が神妙に運んできたが――人間用の剣だった。
俺から見れば、家の壁よりも巨大だ。
「王様より剣が得意と聞いております」
(いや…そうだけど、こんなん持てるわけねぇだろ!!)
だが俺は諦めなかった。 しょうがなく家に転がっていた、ただの爪楊枝。 人間の頃ならゴミ同然のそれを、俺は両前脚で握りしめた。
(これが……俺の剣だ!)
魔王は凶悪だった。 蜘蛛とサソリとコオロギとカエルを掛け合わせたような巨躯。
(掛け合わせすぎだろ…)
蟻の戦士たちは次々に潰され、毒で溶かされていく。
そして、俺は爪楊枝を構えた。
「うおおおおおおお!!」
ピッ!
「…………」
……爪楊枝が魔王の尻にちょっと刺さった。
次の瞬間。
「ギャアアアアアア!」
なんか知らんけど魔王が盛大に転び、のたうち回り、地面に頭を打ち付けて絶命した。
(……あれ? 勝っちゃった)
周りにいた蟻たちは大歓声。 俺は爪楊枝を掲げた。
「これが俺の、最強伝説だァァァ!!」
王宮に戻ると、蟻王は涙ながらに俺の触角を撫でた。
「お前のおかげで国は救われた……。その小さな剣を我々は永遠に讃えよう」
俺は誇らしげに、爪楊枝を胸に掲げた。
(どんなに小さくても、剣は剣だ。 大切なのは……この心だ)
こうして俺は――蟻として、英雄となった。
でも、王様が次に連れてきたのは――
「これより新たな魔神を討ちに行ってくれぬか」
(……俺、次も爪楊枝で行くのか……?)
俺はちょっとだけ複雑な気持ちで、再び小さな剣を構えたのだった。




