第185話 ザマァ回 友情出演"あり"
火曜の朝方。 駅前のコンビニは、出勤前の急ぎの買い物の客でいつもより混んでいた。
俺は出勤前に昼食用のサンドイッチを買いに、少し焦りながらレジに向かう。 ふと足元で何か黒いものを見かけた。
(ん?)
入り口付近を、ちょろちょろっと蟻が横目に入っていた。 まあ、いつもの光景だ。ここ最近じゃ、どこにだって蟻様は現れる。
気にせずレジの列に並ぼうとしたら──
「ちょっ……!」
俺の目の前に、スーツ姿の脂ぎった中年男が強引に割り込み気味に飛び込んできた。 かなり焦っているようだ。
やたらキョロキョロして落ち着かない。 どうやらかなり急いでいるようでバタバタ足踏みしている。
すると横のレジ列のほうが早く進んでいるのを見て、中年男はそそくさとそちらへ移動してしまった。
(ああ……まあ、俺はここでいいや)
すると、男の前に並んでいたおばあちゃんが、小銭入れをごそごそ── 次の瞬間、ジャラジャラジャラ……っと派手に小銭を床にぶちまけた。
「ありゃまぁ……いくらだったかねぇ……」 おばあちゃんはしゃがみ込み、手のひらでコインを集めては一枚ずつ丁寧に数えはじめる。
中年男は舌打ちをしながら、顔を真っ赤にして明らかにイライラしているのが見てわかる。 かといって文句を言うわけにもいかず、唇を噛んでそわそわ足踏みしている。
(だから言わんこっちゃない……)
その間に、俺の並んだ列はスムーズに進み、すぐ会計に辿り着いた。
「○○円です」 「はい、どうも」
知らぬ間に後ろにも人が並び始めていて、もう列を変えることはできない。 中年男はずっとおばあちゃんの後ろで、肩を落としていた。
(最初の列に入っとけばよかったのに……ざまぁみろ、って感じだな)
お釣りを受け取り、ニヤリと心の中でつぶやく。
店を出てふと見やると── あの割り込み男の足元を、例の蟻が一匹すいっと通り過ぎていった。
えっ……蟻の話って?
──まぁ、実は今回はこの話のためだけに友情出演してもらったんだよ。
今回ばかりは、脇役ってことで許してやってくれ。