第177話 あなたはどうする?
──日曜の午後。
公園のベンチで、一人の男がタブレットを片手に笑っていた。
画面には電子小説『蟻帝国』。
「ははっ、くだらねぇ……こんなバカな世界、あるわけないだろ」
声を上げて笑う。
周りに散歩をしている親子連れやジョギング中の若者が目を向けたが、気にも留めない。
「蟻が人間を支配? 蟻に懺悔? アホくさ……」
しかし──
ふと視界の端に、何か黒い筋が動くのが見えた。
芝生の上、ほんの細い筋。
何百匹もの蟻が、規則正しく列をなし、まるで軍隊の行進のように進んでいる。
(……まさかな)
喉がごくりと鳴る。
馬鹿げていると頭ではわかっていても、男は思わず周囲を見回した。
ベンチに座る老人が蟻の列をじっと見つめ、そっと頭を下げるのが見えた気がした。
(いやいや……そんなはずない。ないよな……?)
心臓が妙に早く打つ。
手に持ったタブレットの中の物語が、さっきよりずっと現実味を帯びて胸を刺してくる。
男はそっと立ち上がり、馬鹿馬鹿しいと思いながらも、念の為蟻を踏まないようにそっと足を運んだ。
──さて、読んでるあなたならどうするだろうか?
あなたは、今後、その蟻の行列をただ笑って通り過ぎることができるだろうか…。
それとも……次に出会ったとき、思わず道を譲ってしまうかもしれない。