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第161話 作文発表会

子どもの将来の夢


小学校の体育館で、作文発表会が開かれていた。

壇上に立つ子どもたちは緊張した面持ちで、自分の夢や家族の話を語っていく。


その中で、ひときわ小柄な男の子がマイクの前に立った。


「ぼくの将来の夢は……蟻になることです。」


会場が一瞬、静まり返った。

だがすぐに、ぱちぱちと拍手が起きた。


教師が目頭を押さえながら言った。


「素晴らしいわね。社会のために尽くしたいなんて、なんて立派な夢なんでしょう。」


周りの親たちも、目を細めて頷いている。

男の子は少しはにかみながら、それでも嬉しそうに頭を下げた。


発表が終わって家に帰ると、母親は玄関先で待っていた。


「本当に立派だったわよ。お母さん、あなたが誇らしいわ。」


子どもは顔を真っ赤にして、照れくさそうに笑った。


夕食を食べ終えたあと、母親が優しく頭を撫でながら尋ねた。


「ねぇ、どうして蟻になりたいって思ったの?」


すると子どもは、目を輝かせて答えた。


「だって蟻は、いつもみんなと一緒でしょ?ひとりで好き勝手なんかしないし、自分のことは考えないで、みんなのために働いてるんだ。」


少し考えて、言葉を足した。


「ぼくね、大人になったら、もう自分のことなんか考えないんだ。ずっと、みんなのためだけに働くの。」


母親は目を細め、愛おしそうに子どもを抱きしめた。


「そうね……それが一番幸せな生き方よ。」


窓の外では、街灯の下を整然と列をなして進む蟻たちがいた。

その光景を眺めながら、母と子は静かに寄り添っていた。


――この国では、それが当たり前の幸せだった。


そう…本当の幸せとは考えないことにあるのかもしれない…。

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