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第160話 蟻RPG

最初は、ただの暇つぶしのつもりだった。


通勤電車で見かけた広告に、新作スマホゲーム《Ant Kingdom Saga》があった。

「女王を守れ!蟻の誇りをかけた戦略RPG!」

そんなコピーに惹かれて、軽い気持ちでダウンロードした。


画面の中では、無数の小さな蟻たちが列を作り、資源を運び、巣を広げて、そして女王を守る。

最初はその可愛さと精密なシステムがただ楽しかった。


「またそのゲームかよ」

同僚に笑われながらも、昼休みも帰宅後も、夢中で蟻の指揮を執っていた。


いつからか、ゲームを終えると妙に頭がスッキリしていた。


理不尽な上司からの指示にも「はい、分かりました」と素直に従えるようになっていたのだ。

むしろ、その命令がゲームの女王からの指示のように感じられていて心地よかったのだ。


(仲間のため、組織のために動けるのって、なんか悪くないよな……)


クリア目前。


画面には壮麗な地下宮殿が映り、女王蟻が大きなお腹をゆったりと揺らしていた。

『ありがとう。あなたは最高の蟻でした。』


そう文字が浮かんだ瞬間、脳の奥にピリ、っと熱いものが走った。


次の日、コピー機の前。


「ったくよ、あの課長の指示はムチャクチャだよなー」

同僚は文句をぶつぶつ言いながら、書類を抱えた。


「でもさ、昨日課長に『お前最近いい動きしてるな』って褒められたんだよ」

そう言った瞬間、同僚の顔が少し緩んだ。すごく嬉しそうだった。


「マジかよ、いいなぁ」

周りもつられて笑う。


自分も思わずなんか嬉しくなった。


(……なんだ、結局俺たちも同じじゃないか。)


頭の奥がまた少しピリ、と疼いた。


文句ばかり言ってるくせに、

褒められると結局、嬉しくなってしまう。


ふと視線を上げると、

向こうから歩いてくる課長の顔が、一瞬――あの女王に見えた。


(……不本意だが、俺たちはもう、喜んで働く蟻なんだろうな。)

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