第150話 《異世界転生》蟻帝国に転生した俺、フェロモンスキルで世界最強の蟻王になる
気がつくと俺は地面に立っていた。
いや、立つっていうより、六本脚で張りついていた。
前脚を持ち上げると、それが真っ黒で細い――蟻の脚だった。
(……転生した? 俺、蟻になってる……?)
昨日までブラック企業で資料に埋もれてたのに、気づけば蟻帝国の森にいた。
ファンタジー小説でよくあるやつじゃん。ついに俺にも異世界転生チャンスか!
心臓(どこにあるのか分からないけど)がドキドキした。
(そうだ、ステータス画面……!)
意識を集中すると、脳内に文字が浮かぶ。
▼ステータス
名前:???
種別:働き蟻
フェロモンスキル:なし
王族適性:なし
生殖適性:なし
(……は?)
【絶望の判定】
頭の奥がぐらぐらした。
(フェロモンスキルなし? 王族適性も……生殖適性も……?)
周囲を見渡すと、豪奢な金色の腹を持つ王蟻の幼体や、フェロモンを煌めかせて行進する兵蟻たちが誇らしげに歩いていた。
(でも……もしかしたら、俺の中にも何か特別なものが隠れてるかもしれない……)
そんな淡い希望が胸をよぎる。
近くの広場では、選別の儀が行われていた。
「フェロモンを掲げよ! 選別の時だ!」
衛兵が声を張り上げ、並んだ働き蟻たちを一匹ずつ調べていく。
俺も列に加わった。
(もしかして……俺だけが未知の血統で、突然王蟻に見初められたり――な〜んてね。)
夢みたいな妄想が頭をかすめる。
順番が来て、衛兵が俺の触角を検査した。
「血筋判定、なし。次。」
目も合わせずに突き放される。
あまりのあっさりさに、逆に笑えた。
(……はは、やっぱりな。)
結局、何のチートも発動せず、俺は巣の奥で他の働き蟻と一緒にひたすら餌を運ぶだけだった。
(ここも、ブラック企業だな……。)
それでも――
ほんの少し、まだ期待していた。
「いつかは王蟻様の目に留まって、フェロモンを授けられるかもしれない」
「選別の場にもう一度呼ばれるかもしれない」
だが、そんな日が訪れることはついになかった。
ある日、餌場で潰れた幼虫を運んでいると、横を通った別の働き蟻が呆れたように言った。
「お前、まだ期待してんのか? この世界じゃ血筋がすべてだ。
適性のない奴は、死ぬまで運ぶだけさ。」
(……だよな。)
結局、俺はただの働き蟻だった。
いつか何かが起きるんじゃないかなんて、馬鹿な夢だった。
数ヶ月後。俺は相変わらず餌を運んでいた。
(血筋なんて……最後は関係ないって思いたかったけど……結局は、血筋だったな。)
そして今日も、小さなパン屑を抱えて歩き出す。
この蟻帝国で、俺は俺のまま、ただ黙々と運び続ける。
――この世界には定年なんてなかった。
俺は死ぬまで、ここで働き続けるはめになった。
(こんなことなら、転生しなくて良かったよ…。)
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