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第15話 蟻民党誕生 — 静かな革命のはじまり

記録コード:Z-19-POLIT-1502

状態:政権交代完了

順化率:都市圏 57% / 全国平均:43%

情報開示レベル:限定解除中(コード:HIVE-3)



選挙は、まるで予定調和のように終わった。誰も驚くことはなかった。そして誰も騒ぐことはなかった。


ただ、静かに、蟻民党が政権をとった。


獲得議席は単独で過半数。連立も必要ない。かつて“泡沫”とまで呼ばれた新興政党が、いまや国の中枢を完全に掌握した。


テレビはいつものように開票速報を流したが、相変わらずアナウンサーの声には抑揚はなく、スタジオの誰一人として表情を動かさなかった。


モニターの向こうでは、淡々とバンザイが繰り返されていた。

 拍手も無機質で歓声も特にない。ただ、指示された動きのように、機械的な歓喜だけが続いていた。



翌朝。第133代内閣総理大臣の就任会見が開かれた。


蟻野葉月。女性としては初の総理大臣。だが、そんなことは当たり前のようで、話題に登ることはなかった。


黒いスーツに身を包んだ蟻野は、演台の前に立ち、目を細めると、静かに語りはじめた。


「人と自然、そして有機的生命体との共生は、もはや理想ではありません。

これからは、“棲まわせていただく”という謙譲の態度が、新たな国家理念となるのです」


一瞬、彼女は息を止めた。空気を味わうように、目を閉じた。

 その瞬間、会場全体が――まるで合図を受けたかのように――全員、黙ってうなずいた。


 拍手もなく、歓声もない。肯定だけが、静かに伝播していった。




 街の変化は、誰の目にも明らかだった。だが、誰もそれを変化だとは認識しなかった。


 企業のロゴに、六角形が組み込まれるようになった。

 ポスターの文言には、「内包」「共棲」「調和」といった、意味のわかるようでわからない単語が増えていた。


 地下鉄の柱に、何かの装置が取り付けられていた。説明はない。誰も気にしなかった。



街の声

「最近、言われた通りに動くのが気持ちいいんだよね」

「“考えなくていい”って、こんなに楽だったんだなって思う」

「なんか、体の奥に別の自分が住んでる感じがするんだよ。不思議と、怖くないけど」


ネットの書き込み、街中の雑談、職場の昼休みまで、まるで共通の意識が芽生えたかのように、同じような言葉が、同じような口調で、同じような価値観が街の至る所にどこにでもあった。



---

極秘記録(Z-19中央統制局)抜粋:

順化言語補正率:日常会話の約28%に浸透

新内閣提出予定法案:生物的共棲統合法(仮称)

人体コロニー共棲指数:関東四都県で閾値超え

フェロモン応答端末:都市部駅構内 設置完了(未公表)



それでも、未だに世界は“正常”に見えていた。

 人々は笑い、働き、会話をし、そして順応していた。


そして順化が進み、それが最も危険な兆候だった。

本当の正常に近づいていく…


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