第14話 変化の法則(ロー・オブ・チェンジ)
記録コード:Z-19-LEGIS-1301
状態:法案通過(非公開)
順化率:都市圏41% / 全国平均:31%
情報開示レベル:制限中(コード:GRAZE)
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国会の一室で、関係者のみの非公開審議が行われていた。
議題は「環境共棲及び特殊生物保護に関する一部法案の改正案」。
内容は曖昧にされていた。資料には、「駆除対象の生物分類の見直し」や「共棲生物との文化的適応」「物件単位での生物収容評価」など、意味不明な語句が並ぶ。
出席した議員のひとりが、ふと隣の男に違和感を覚える。
彼は何も言わず、ただ時折うなずいているだけなのだ。顔も感情がなく、目がまばたきすらしていない。
(あいつ……順化してるんじゃないか?)
そう思えた瞬間、自分の発言を控えた。
周囲の空気が、異様に**“均質”**に感じたから。
そして後に、最近テレビでは国会中継が始まっていた。
巨大なスクリーンの前で、誰もが立ち止まり、黙って演説を見つめている。
「……本法案は、自然との調和的共生の観点から、有機共棲種の無断駆除を禁じるものであります。
違反者は最大で死刑に処します。」
拍手はない。ただ、皆が微動だにせず、うなずいている。
登壇した議員は、数ヶ月前まで情熱的な質疑で知られていた人物だった。
だが今は、表情の起伏がなく、口調は異様に滑らかで、覇気もなく、まるで誰かが“操作”しているようにも感じる。
ニュース番組のコメンテーターは無機質な笑顔で言った。
「これでようやく、人類は“棲む側”としての責任を果たせるようになりますね」
きっと、このコメンテーターも既に順化されているのだろう…
一方、街のドラッグストアからは、徐々にアリの巣コロリが姿を消していた。
告知もない。店員に聞いても、口ごもるばかりで「メーカーが……回収してるみたいでして」としか言わない。
代わりに並ぶようになったのは、
「地中調和素粒処理剤」「外骨系有機調整液」など、何に使うかわからないような用途不明の商品ばかり。
何より、この違和感に**“誰も疑問に思わなくなっている”**ことが異様な光景だった。
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Z-19中央統制記録 抜粋(極秘):
✅ 共棲秩序法:可決(公開前処理中)
✅ 人体内コロニー認可基準:地方自治体へ試験配布済
✅ 旧駆除用品:市中回収完了率 84.1%
✅ 事故物件認定:非公開試行中(対象物件ID:1472, 1493, 1520)
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世界では、まだ“正常”に見えていた。
でもそれが、最も危険な兆候へのはじまりだった。