第132話 蟻のラーメン行列
昼休み。
商店街の角にある人気のラーメン屋には、今日も長い行列ができていた。
スーツ姿の会社員や学生、作業服姿の男たちが、スマホを見たり小さく会話をしながら、じりじりと自分の順番を待っている。
その列に、一人の若い男が戻ってきた。
どうやら一度列を抜け、買い物か電話でもしていたみたいだ。
男は当然のように列の間に入り込む。
すると後ろに並んでいた中年の男が顔をしかめ、 「ちょっと君、それ順番抜かしじゃないか?」
と低い声で言った。
若い男は「え?」と振り返り、少しきょとんとした顔をする。
それを見て周囲の視線も集まった。ピリつく空気。
「いやいや、おかしいでしょ。ちゃんと最後尾から並び直してくれよ。」
中年男は眉間にしわを寄せて詰め寄る。
しかし、その時だった。
「連れですけど…」
若い男が、ふと視線を落とした。
そして、中年男も下を見る。
――地面。
アスファルトの地面に、細い列が数匹と続いていた。
黒い小さな蟻が、規則正しく並んでいた。
「……あ」
中年男も同じものを見て、言葉を失った。
列はラーメン屋の自動ドアの方へ並んでいるようだった。
(……蟻様が並んでいらっしゃる……)
男たちは互いに視線を合わせ、息を呑んだ。
そして次の瞬間、中年男は小さく頭を下げた。
「……す、すみません。お先にどうぞ。」
若い男はペコペコと頭を下げ、列にそのまま並ぶ。
中年男も軽く礼をしながら、蟻の行列を避けて列の元の位置に戻る。
再び静寂が戻ったラーメン屋の前で、
蟻たちは何事もなかったように、ただ黙々と列を進み続けていた。
人間たちは黙ってその後ろに従い、店から漂う豚骨の香りを嗅ぎながら、じっと自分の番を待ち続けるのだった。
そして、最近では蟻様を使って順番を並ぶ者が後を絶たないらしい。