表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/279

第124話 蟻のテーブルマナー

ファミリーレストランの一角。

テーブル席に座る三人組の若者は、スマホを机に置き、動画を大音量で再生しながら笑い合っていた。


「マジこれウケるんだけど!」

「うるさくない?ってか他の客の迷惑じゃねw」


箸をテーブルに置きっぱなしで、だらしなく頬張る。

片膝立てて、口を開けたままくちゃくちゃ食べて喋るので、ご飯や食べカスが飛び散る。

スマホはべたついた指で操作され、画面には油の指紋が無数に付いていた。


隣のテーブルの中年夫婦は、眉をひそめてそっと顔を見合わせる。

別の家族連れの小さな女の子は耳を塞ぎ、母親は困ったように目を伏せた。


(もう少し静かにしてくれればいいのに……)


そんな空気もお構いなしに、若者たちは画面を指差してゲラゲラ笑った。


一方その頃、さらに別の席。

小さな透明ケースがテーブル脇に置かれていた。

中には数十匹の蟻がきちんと円を描くように並んでいる。


ケースがそっと開けられると、蟻たちは列を崩さず、一匹ずつ小さなテーブルに降り立ち、小さく切り分けられたケーキのかけらへ向かった。


そして――

整然と列を組んだまま、最前列の蟻がちょん、とケーキを口に運ぶ。

次の蟻が続き、さらにその後の蟻がまた同じように。


まるでリレーのように、一口ごとに順番に味わっていく。


誰も押し合わず、奪い合わず。

静かに、慎ましく。


小さなテーブルの上は、完璧な秩序に満ちていた。


その様子を遠目に見ていたウエイターは思わず息を飲む。


(やっぱり蟻様は違う……人間よりよっぽどマナーがいいな……)


それでも若者たちのテーブルからは、相変わらず大きな笑い声が響く。


「うわっマジそれやば!w」

「おいポテトとってよポテト!」

「おい、それ俺んだぞ!」


指で皿をつつき、ケチャップがテーブルに垂れる。

床にも油染みが広がっていく。


後ろの席のOL二人組は不快そうに顔をしかめながら、椅子を引き寄せるようにして少しでも距離を取った。


ふと、そのテーブルの上を蟻が一匹通り過ぎた。


若者たちは「うわっ蟻様登場だぜぇ」と、何のマナーもなくスマホで撮影し始める。

だがその小さな蟻は、彼らよりずっと綺麗に――品格を持って食事をしていた。


(……人間も、見習うべきだな)


近くでそれを見ていたウエイターは、小さくそう胸の内で呟いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ