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第120話 いっしょにつくろう!コロニーのおうち

テレビ画面いっぱいに広がる、明るい黄色のセット。

巨大な蟻のオブジェが所々に置かれ、その足元には元気いっぱいの小学生たちが並んでいた。


「みんなー!こんにちはー!」

「こんにちはー!!」


番組MCの“フェロモンお兄さん”はにこやかに手を振り、子どもたちの列に駆け寄った。


「今日はみんなでね、蟻様のおうち——そう、《コロニー》を作って、蟻様に住んでもらえるように頑張ろう!」


子どもたちは大歓声を上げた。


「やりたいー!」

「ぼくが一番きれいに作るんだ!」


番組は進行し、子どもたちはスコップで土を掘り、細い枝や小石を集めて巣のトンネルを作り始めた。

霧吹きで湿度を調整したり、フェロモン液を慎重に塗りつけたり。

MCが「そこはもっと丸くすると、蟻様が喜ぶかもね」と笑顔で指導する。


作業は何時間にも及び、額に汗を浮かべながら、子どもたちは一心不乱に土を整えた。


やがて夕暮れが近づく頃、子どもたちが完成したコロニーを囲み、瞳を輝かせて見つめる。


「これで……きっと蟻様が住んでくれるよね!」


MCは嬉しそうに手を叩くと、スタッフに合図を送った。


「じゃーん!今日は特別に、蟻様をこのおうちにお迎えしちゃいます!」


ケースの中から取り出された小さな蟻たちが、子どもたちの作った巣穴へと放たれる。

蟻たちはちょろちょろと動き回りながら、やがてその入口へと吸い込まれていった。


「わぁー!入った!」

「やった!ぼくたちのおうちに住んでくれるんだ!」


MCは優しく頷き、子どもたちと一緒に拍手をした。


「みんなの気持ちがちゃんと伝わったんだね」



数日後——。


子どもたちは再び集まり、期待に胸を膨らませて巣穴を覗き込んだ。


「蟻様どうしてるかな……ちゃんと暮らしてくれてるよね……?」


けれど、中をそっと掘り返しても、そこには湿った土がぽつんと沈んでいるだけ。

蟻の姿はどこにもなかった。


「あれ……いない……」

「どうして……こんなに頑張って作ったのに……」


子どもたちは顔を見合わせ、寂しそうに、それでも無理に笑った。


「ま、また今度作ろうよ……!」

「うん……もっと上手に作れば、きっと蟻様が来てくれるよね……」


夕陽が伸ばした影が子どもたちを包む。

その背中をカメラが静かに追うと、やがて彼らは手を取り合って帰っていった。


最後に映し出されるのは、誰もいない巣穴と、その横を無関心に歩いていく別の蟻の群れ。

彼らはただ、自分たちの目的地へとまっすぐ行進し、子どもたちの作った“おうち”には目もくれなかった。


そこへ、優しいナレーションがそっと被さる。


「みんなも、いつか蟻様に選んでもらえる日まで、 たくさん練習してみようね!」


画面ではカラフルな「またみてね!」の文字で閉じられた。


自分たちの、優しさは、蟻様にとっては迷惑だったのかもしれない…。

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