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第118話 蟻の選考

スーツ姿の若者たちが、緊張した面持ちでホールに並んでいた。

今日はいよいよ《大手蟻関連企業》の最終面接だ。


壇上には透明なパーテーションで仕切られた大きなケージがあり、中には数千匹の働き蟻が蠢いている。


「これより、選別面接を開始します」


係員の声が響くと、面接官席に控える人事担当者はメモを片手に頷いた。


学生たちは一人ずつ前に出て、自分の経歴や志望動機を精一杯に叫ぶ。


「私は幼少期から蟻に強い憧れを抱いてきました!貴社で仲間のために命を燃やしたいです!」


「私は大学で蟻行動学を専攻し、人間社会におけるコロニー管理をテーマに研究してきました!」


皆、順々に声を張り上げ、胸を張り、必死に誠意を示す。 顔には冷や汗、手は緊張で小刻みに震えている者もいる。


ひと通り自己アピールが終了すると、グループごとに選考が行われる。


そして、係員の人が言う。

「皆さんの熱意は、しっかり蟻様たちに伝わったと思います。それではAグループの選考始めます。」


係員はケージを開く

すると次の瞬間――無数の蟻がわらわらと溢れ出し、学生たちの足元に集まってきた。


誰のスーツの裾に多く蟻が群がるか。それが、そのまま採用基準だった。


「あっ……俺のところに……!やった……!」


蟻たちが集中して群がった学生は涙目になりながら顔を覆った。


寄ってこない、他の学生たちは悔しそうに自分の足元を見下ろし、少しでも蟻が来るようにと必死に匂いを変えようと体を捻る。


ほぼ、落選確定で泣き崩れそうになる学生が、自分の体臭を嗅いで、「もっと蟻に好かれる匂いにしてくればよかった…」なんていうものもいた。


やがて蟻はスーツの袖や足にびっしりと取りついた人に、担当者が淡々と告げる。


「はい、こちらの方が内定です。おめでとうございます」


――終わった。


選ばれなかった学生は、静かに会釈をして面接会場を後にした。 就活のために磨いてきた志望動機も、プレゼン資料も、努力して作り上げた自己アピールも、すべて蟻の気まぐれに過ぎなかった。


内定をもらった学生は震える声で仲間に報告していた。


「……やったよ、俺、選ばれたんだ。これでやっと、蟻様に仕えることができる……」


そう言う彼のスーツには、まだ蟻が何匹も這い回っていた。


誰も疑問にも思わない。 「本当に自分の努力が実ったのか」

「そもそも選ばれる理由なんてあったのか」


そんな問いを抱えることさえ、蟻にとっては無駄な贅肉だったのかもしれない。

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