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第108話 公平の名のもとに

新聞の一面を大きく飾った見出しは、誰もが目を疑った。


国が新たに制定した法律──

「蟻比例運搬法」


《本日より施行 “蟻比例運搬法”成立 人間も公平に身体重量よりも重い荷物運搬義務化》


アナウンサーは笑顔で言う。

「かねてより、共生蟻が運ぶ運搬総量と普段人間が持ち運びする荷物の総量との対比が大きすぎるとのことで、不公平ではないのかと度々議論されてきましたが、政府の移行により今日から蟻比例運搬法が施行されます。」


スタジオの後ろでは、満面の笑みを浮かべた官僚や蟻庁の職員たちが拍手を送っている。



出勤するサラリーマンは、普段トラックで移送している荷物を一般人にも均等に割り当てられるようになった。


移動時には鉄資材や鋼鉄の束を背負い、運搬も兼ねて移動する。


これにより、社会全体の運搬コストも下げられ企業も経費が下げられるので、今後、利益率も上がるようになるとの試算だ…。


施行後、その日から、街には異様な光景に包まれるようになった。

青筋を立てながら、一歩一歩よろめくサラリーマンたち。

主婦は冷蔵庫や資材袋などをロープで体に縛りつけ、買い物袋を引きずりながら歩く。


「ハァハァ……」

息を切らし、倒れ込んだ青年が息を荒げる。

途中で足がすくみ膝をつく。


すると…近くにいた監視員が素早く駆け寄り、起こしにくる。


休めない…そう…決して、休ませてもらえない。


ぶるぶる痙攣しては立ちすくみ、監視員に起こされ、また立ち上がり、荷物を再び抱えて運ばされるのである。


「わかりました。……運びます……運びますから……!少し休ませてください!」


道端には続々と、力尽き動けなくなり、倒れていく。

そして、白目を剥く人々が累々と倒れていた。




夜。

ニュース番組では「倒れた人々の数は全人口の12%に達しましたが、公平社会のためには尊い犠牲です」と報じられた。


インタビューを受けた市民は顔面を青くしながらも、必死に笑みを作った。


「え、ええ……公平性は重要ですから……共生蟻が頑張って運んでいるのに、私達も等身大以上の荷物を運ぶのは、当然ですし、義務だと思います……。」


その肩には、彼女の背中には体重の2倍を超える巨大な石柱が括りつけられていた。


カメラが引いていく。


夜の街を這う蟻の列は規則正しく歩いていく、そしてどこか満足げに輝いていた。


その列に並ぶように、荷物に潰され半身を引きずりながらも必死に前に進む人間たち。


公平を掲げるその世界では、

誰ももう「不公平だ」と声を上げる力すら残っていなかったのだ。


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