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第102話 登る男、巣を築く女たち。〜アリダリング合コン記〜』

「で……趣味は?」


合コンの中盤。枝豆も冷めかけていた。


その問いに、石田遥斗(いしだ・はると・28)は一拍置いて、静かに口を開いた。


「俺…アリダリング、やってます」


「すごい! 最近、話題だよね!」

隣の女性が即座に食いつく。


「私の職場でも、やってる人います。全身運動になるって……」


「うん、体幹も鍛えられるし、なにより“集団感覚”が磨かれるんだ。 アリって無駄な動きをしないから。ルートも仲間との共有で最適化される。それが登るってことの、本質なんだよ」


彼の目は本気だった。


「それ、普通のボルダリングと違うの?」


「全然違う。アリダリングは“横に這う”動きも評価対象になる。 登ってる最中、後方から“嗅覚ガイド”を撒いてサポートする仲間がいる。

一人で登るんじゃない、群れで巣を作る登攀なんだ」


「巣を……作る?」


「そう。“女王巣”っていうゴールルートがあってさ。女王と接触できた者だけが“頂点”に立てる。 俺の先輩は“第12代女王ルート開拓者”で、今じゃアリウェアのアンバサダーやってるよ」


そう言ってスマホを取り出し、写真を見せた。

垂直のコンクリート壁を、ヘルメットと触角型サポート装備を身につけた男女が這っている。


「これ、先月の“東日本蟻ルート競技大会”。俺らは“断絶巣ネストブレイク”で敗退したけど、内容では押してた」


女性陣は熱心に頷く。

「すごい!」「カッコいい!」


石田は真顔でこう続けた。

「最近の若い子たちは、アリダリングから人生観変わるって今人気なんだよね。 “どう登るか”じゃなくて、“どこに自分達の巣を作るか”が大事なんだって」


その夜、石田は三人の女性と連絡先を交換した。


帰り道、友人の佐々木航平(29)がぽつりと呟く。


「石田すごいモテモテだったな……俺も、アリダリング、始めてみようかな…そしたらモテるかな…?」


──そして翌週、彼はアリダリングのジムに入会した。


佐々木は、わずか半年で越冬登攀を制し、群れ内の触角投票で満場一致の“第15代女王ルート開拓者”候補に選出された。


そして──1年後。


佐々木航平(30)は、“第15代女王ルート開拓者”として、全日本アリダリング連盟の頂点に立っていた。


表彰式の壇上、触角型ティアラを受け取る彼の隣には、一人の女性がいた。

──人気女優・小嶋あやめ(31)。


ふたりの披露宴はテレビ中継され、視聴率は35%。 そして式の最後、佐々木はこうスピーチした。


「これからも、群れの一員として──最短ルートで、あなたを守り抜きます」


その瞬間、会場の空気が“フェロモン濃度・最大値”を記録したという。


こうして、かつてただの合コン参加者だった男は、 日本の頂点へと「這い上がった」のであった。

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