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8.もふもふはどこ!?

 あ。そっか。貴族の女性は侍女やら護衛やら連れているものよね。花咲さくらの感覚でいたけど、クラリスがひとりで歩いていたら異質なのか。だけどついて来てくれる人がレーンクヴィスト伯爵家にはいないし仕方がない。


「あ……、ちょっと探しているお店があって……」

「っ! ど、どんなお店ですか!? もしよろしければ私めがご案内いたしますよ?」

「ほんとですか!」


 やった! この人たち、おまわりさんみたいなものよね。それなら安心だわ。


「あの、もふもふカフェに行きたいんです」

「もふもふ……?」


 こてんと首を傾げられてしまった。

 あれ? 伝わらない? 一緒になってこてんと首を傾げてしまう。


「えっと、もふもふというのは、犬とか猫とか毛がふわふわした動物のことで、私が探しているのは戯れることができるカフェとかサロンとかなんですが……」

「イヌやネコ……?」

「もふもふ……?」


 衛兵たちが顔を見合わせる。え、まさか、この世界には犬も猫もいないの? ノーもふもふ!? ううん、クラリスの記憶が動物図鑑で犬も猫も見たことを覚えている。

そのうち、ひとりの衛兵が「深窓の令嬢なのか?」とつぶやき、気の毒そうな目で私を見下ろしてきた。

「ごほん。あのですね、王都は三大魔獣がいるため、一般動物は怖がって寄り付かないのです。ご存じありませんでしたか?」

「……え?」

「ドラゴン、グリフォン、ヒポグリフは最上位の魔獣です。彼らは普段王城にいますが、王都内を巡回することもあります。ああ、ほら。ちょうどヒポグリフ騎士団があそこに」


 彼が指さす方向を見ると、ヒポグリフに跨った第三魔獣騎士団が隊列を組んで歩いているところだった。

 馬よりも二回りほど大きな体。だけどその頭は鷲のような姿だ。鋭いくちばしに鋭い爪。翼は折りたたまれているけど、あれを広げたらかなりの大きさになるだろう。

 魔獣騎士団は空を飛んでいるイメージが強かったけど、地上を歩いていることもあるのね、なんて思いながら遠目に眺める。それよりもだ。


「動物が寄り付かない……?」

「ええ。だから王都は馬車ではなく、スレイプニルが引く魔獣車が走っているんですよ」


 聞けば個人的に飼育している貴族はいたのだけど、魔獣に驚いて逃げ出してしまったり、トラブルが多いことから今では飼う人もほとんどいなくなったのだとか。

 というわけで、王都にはもふもふカフェどころか、もふもふ自体もいないに等しい状況らしい。


 なんてこと……! 


 衛兵いわく、領地では飼っている人が多いから地方に行けばもふもふがいるだろうとのこと。つまり、もふもふカフェを開くなら地方が正解ってことらしい。

 それなら実家の領地の片隅がいいかしら。出戻ったとしても両親は喜んでくれるだろうし、甥っ子や姪っ子が遊びに来てくれたら、もふもふと幼児の戯れが目の前で見られる……! はわわ。想像しただけで至福の光景だわ。


 私は衛兵たちにお礼をいってお別れし、もう少し歩くことにした。せっかくここまで来たし、もふもふカフェはなくてもカフェで休憩くらいして帰りたい。家はそんなに早く帰りたい場所でもないしね。

 おしゃれなスイーツ店……は女性客が多いから白い目で見られそう。王女殿下とルートヴィヒ様の仲を切り裂く悪女として、どこにいっても風当たりがきつい。


 はぁ、クラリスやクラリス。こんな状況、よくぞ今まで耐えてきたわね。

 これからは蹴散らしてやりましょうね、とも思ったけど、やっぱり関わらないのが一番。無駄に労力を割くよりも、もふもふカフェのオープンに向けて計画を立てた方が絶対に楽しい。


「あら。シンプルで落ち着けそうなお店。ここに入ろっと」


 看板には『星霜(せいそう)酒亭(しゅてい)』の文字。


 レンガ造りの多い建物の中で、ふんだんに木を使ったレトロな外観がいい。なんだか落ち着きそう。ぱっと目についたその店に入ると、中にいた胡乱な目つきの客たちがちらっと私を見て二度見した。


 ……あれ? ここってもしかしてカフェじゃない……?

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