書籍化御礼SS 未来の騎士団長
書籍化御礼SSはクラリスとルートヴィヒの息子を巡るお話です。
ぜひお楽しみください^^
かわいい息子ライオネルが生まれて早数か月。
この世界では乳母に世話を任せるのが一般的だ。だけど、前世の記憶があるからか、どうしても自分で世話をしたくてお願いしたところ、ルートヴィヒ様も義両親も快諾してくれた。
そんなわけで初めての育児に奮闘していたのだけど、頼もしい周りのサポートもあって、息子はすくすくと成長している。
そして今日は久々に息子を連れてのお出かけである。
行き先はもちろん、魔獣騎士団幼稚園——通称もふもふカフェ。
子育ての疲れを癒やすにはもふもふしかないでしょ!ってことで、カヤを伴っては頻繁にライオネルを連れ、遊びに行っている。
到着するやいなや、待ち構えていたのはアロルド団長だ。
「こんにちは、アロルド団長」
「お~、来たか。ライオネル」
すっと両手を伸ばしてくるイケオジに苦笑しながら、抱きかかえていたライオネルを手渡す。
初めの頃は、まるで触れると壊れてしまうかのようにおっかなびっくり抱いていたアロルド団長も、ここ最近は慣れたもの。慈愛に満ちた表情でライオネルをそっと抱きかかえる。
色男×赤ちゃんの組み合わせである。
どうなるかというと、その場に居合わせた女性騎士や書類を届けに偶然通りかかった女官が、それはもうメロメロの大惨事だ。
見慣れたその光景にため息をつきつつ、イケオジもいい加減に結婚すればいいのに、と喉まで出かけて言葉を呑み込む。
だけど、イクメンでもあるイケオジが独身だなんて本当にもったいない。
アロルド団長ほど女性の扱いに慣れているなら、誰とでもうまくいきそうな気がするのに。
まあ、金髪のあの方の重たい恋心——執着ともいう——は私もすでに知っているけど、案外その組み合わせも悪くないような。あんな美人に十数年も一途に思われるだなんて男冥利に尽きるってものよ。
ルートヴィヒ様にもそう話したのだけど、彼の反応はいまいちだ。ふたりがうまくいってほしいのは山々である一方で、「うまくいかないだろう」というのが彼の意見。
たしかに、アロルド団長が王族と縁続きになるかしら、と思うと前途多難なような気もするわね。
まあ、人の恋路はなんとやらよ。首を突っ込まないのが一番。
とにかく、かわいい息子は生まれた直後から時々ここに顔を出しているおかげで、コワモテ騎士からの圧もなんのその。今もアロルド団長に抱かれながら、睨まれたら絶対泣く!というコワモテ騎士たちに囲まれているけど、息子はキャッキャッとうれしそうにしている。
私の元同僚でもあるドラゴン騎士団の皆さんが、ライオネルにデレデレになりながら尋ねてきた。
「なあ、クラリス。ライオネルはドラゴン騎士団に入れたらどうだ?」
「え?」
その言葉に、アロルド団長もまんざらでもない様子だ。
「悪くないな。ドラちゃんはきっとライオネルがパートナーになったら大喜びするぞ。ほら、どっちもクラリスの息子みたいなもんじゃないか」
「ドラちゃんがパートナーかぁ」
成長したドラちゃんが、甲冑を身に着けた息子と並び立つ姿を思わず想像してしまう。
……うん、それもありかも。
ドラゴン騎士団の皆さんはライオネルを可愛がってくれることだろうし、第一魔獣騎士団に入れば、アロルド団長に女性へのスマートな接し方まで学べる特典付きだ。まあ、プレイボーイになるのは困るけど。
彼らが「ドラゴン騎士団団員とわかるように、乳児用赤マントを作ろう」なんて盛り上がる様子に笑っていたら、室内の温度がぐっと下がった。
不機嫌な、けれども聞き間違えようのない低い声が背後からした。
「アロルド団長。妻を誘惑するのはやめてもらえますか」
ルートヴィヒ様だ。だけど、言い方が悪い。悪すぎる。
「ちょっ……語弊があるわ。まるで私が不貞行為をしかけているみたいじゃない」
そう抗議するも、ルートヴィヒ様の目はアロルド団長をはじめとするドラゴン騎士団の皆さんを睨んだまま。
そのうち、ルートヴィヒ様の背後にグリフォン騎士団が一人、また一人と並び、一触即発の空気が流れる。
まるでドラゴン騎士団vsグリフォン騎士団が対峙する構図だ。
「わが息子ライオネルは、グリフォン騎士団へ入団することが決まっています。レーンクヴィスト伯爵家は代々第二魔獣騎士団の団長を務めているんですよ? アロルド団長。年のせいで涙腺が弱くなっただけでなく、記憶力も低下したのでは?」
……口下手だったはずのルートヴィヒ様がいつのまにそんな嫌味を?
びっくりして目を瞬かせてしまう。
だけど、アロルド団長は大人の余裕を醸し、息子へやさしく語りかける。
「ライオネル、聞いたか? おまえは父親のような性格の悪さを引き継ぐなよ? 目上の人間に向かってあんなことを言うなんてダメだぞ?」
ハッとしたルートヴィヒ様が途端に顔色を悪くし、アロルド団長にずいっと近づいた。
「申し訳ございません。撤回させてください」
「ライオネル、見たか? 男には時として謝らなくてはいけない時があるんだ」
……もう。ルートヴィヒ様ったら。完全にアロルド団長にからかわれているじゃない。
アロルド団長の言うとおり、ライオネルはレーンクヴィスト伯爵家に生まれルートヴィヒ様の嫡男である以上、将来は第二魔獣騎士団団長を引き継ぐことになるだろう。
ここにいる誰もがわかっているのに、まったく素直なんだから。
そう微笑ましく眺めていたのだけど、アロルド団長がルートヴィヒ様に何やら耳打ちをした。そのうち、眉間にしわを寄せていたルートヴィヒ様の目がみるみるうちに見開き、満面の笑みが浮かんだ。
「……なるほど? ですが……まあ、ライオネルがどうしてもと言うなら」
「だろう?」
「でも、次はクラリスにそっくりな娘が欲しいし……弟たちはその次ですね」
……なんて言ったのか、わかった気がする。
まったく。あなたが産んでくれるなら、何人でも兄弟を作りたいわね。
その日以降、ルートヴィヒ様は「ライオネルの将来はライオネルが決めればいい」なんて言いだした。その意見には賛成だけど、そんなこと言っていいのかしら?
案の定、アロルド団長だけでなく第三魔獣騎士団——通称ヒッポグリフ騎士団の団長まで「うちもありですよ?」なんて、ライオネル争奪戦に参戦する姿勢を見せ始めた。
まあ、嫌われるより好かれた方がいいし、みんながライオネルをかわいがってくれるなら何より。カヤはカヤで「フェンリルベイビーと仲よくなって、第四魔獣騎士団を創設しましょう!」なんて言っている。
周囲の思惑を右耳から左耳に流し、腕の中のかわいい息子に尋ねる。
「ライオネル。あなたは一体、どの魔獣騎士団を選ぶのかしらね」
その答えが出るのは、まだまだ先の話である。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!




