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旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~  作者: 魯恒凛


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side story.前を向いて(アロルドSide)

 今日、ルートヴィヒとクラリスが生まれたばかりの息子を連れ、魔獣騎士団へ遊びに来た。


 星霜の酒亭のカウンターで、今日の光景を思い出しながら、琥珀色の液体を一気に流し込む。

 幸せな笑顔で溢れた一日だった。赤ん坊を見たらつい感情が高ぶってしまい、自分でも泣くとは思わず。水を差しちまった……情けない。


 それにしても、だ。


「まったく……クラリスのやつ、記憶が戻ったらしいのに俺のこと全然思い出さねえな」


 あいつに初めて会ったのは、グリフォンの子どもを助けたいと魔獣舎にやってきた時。

 

 その前の年、ソフィアが勝手に魔獣舎へ侵入し、ドラゴンたちの怒りを買ったことで俺たちはナーバスになっていた。万が一、ドラゴンが子どもを殺してしまうようなことがあれば、魔獣騎士団の存続が危うくなる。


 鱗か牙か、ドラゴンの血あたりか――。


 六歳の少女がドラゴンに何を求めているのかわからず、むしろ口に出してくれれば何とかするのに、少女は頑なにその素材を口にしない。

 第一魔獣騎士団内に困り果てた空気が流れる中、俺はほんの少しの同情心と好奇心で、付き添いに立候補したのだ。


「……あなたのお口は堅い?」

「なにか秘密のお話をドラゴンとするのかな? 約束するよ、君と僕の秘密にするって」

「……うん。あなたはいい人そうだからいいよ」

「ははっ! それじゃあ信頼に応えないとな」


 小さな手を引き、扉をくぐった先。ドラゴンたちが興味深そうにクラリスのことを見下ろす中、俺のパートナーであるドラゴン――アズに呼ばれ、その前で足を止めた。


 俺を見上げる少女のブルーグレーの瞳。こくりと頷くと、彼女は小さなカバンから絵本を一冊取り出した。……ん?


「もう教えてくれるか? ドラゴンから何が欲しいんだ?」

「……あのね、ドラゴンの涙」


 へぇ~、涙だったか。


「それじゃあ、つねったりいじわるしたら、泣くかもな」


 まあ、人間が傷つけられるような魔獣ではないけど。……からかったつもりが、少女の顔がみるみるうちに歪んだ。


「そんなことしたらダメ! ドラゴンだって痛いよ!」

 

 ぷっくりと涙が浮かぶまん丸な瞳。え? 俺が泣かせ……?


「もし、ドラゴンの涙が薬になるってみんなが知ったら、ドラゴンがいじめられるかもしれないでしょう? ずびっ……だから、誰にも言わないって、ひっく、やくそくしてくりぇる?」


 なんだか俺がこの子を傷つけたみたいなことに……ドラゴンたちから一斉に向けられた非難がましい視線が痛い。

 見上げれば、すでに瞳が潤んでいるドラゴンがいた。完全に絆されてるじゃねえか。


 目元を拭う少女に約束すると、彼女はにっこり笑って絵本を開いた。物語は花を届ける小さな鳥の話。ゆっくりとつっかえながら、ストーリーが進んでいくが、……本当に、ただ花を届けるだけの話だ。泣きどころがわからない。


 しんと静まり返る魔獣舎の中。ドラゴンたちはじっと静かに聴いていた。

「おしまい」の声で、上を見上げた少女。アズの大きな瞳には光が滲んでいた。え? アズさん?


 ぽたり。


 ひとしずくの涙が青い鱗を伝って落ちてきた。

 「あー!」と指さす少女の手から瓶を受け取り、急いで涙をキャッチ。あぶなかった……落としたら、ドラゴンたちにどれだけ責められたことか。


 何度も「ありがとう」とドラゴンたちに頭を下げながら、少女は魔獣舎を後にした。

 

 そんな、ドラゴンたちを虜にしたクラリスが、迷子のドラちゃんを連れて十四年ぶりに現れたんだ。そりゃ、あいつら大喜びで大騒ぎにもなる。アズの希望で息子であるドラちゃんのお世話係になんとかねじ込んだが……。正解だった。クラリスのおかげで、ドラちゃんは感受性豊かに育っていると思う。


 本来なら、俺の子どものパートナーになるはずだったドラちゃんは、正式な名を与えられることなく……、その体は成長できず子どものままだ。

 

「そろそろ、……ドラちゃんのパートナーを見つけてやらないとな」


 アズは俺の血筋をドラちゃんのパートナーにと望んで久しいが、魔獣騎士を目指す子どもたちと面談をしてみるのもいいかもしれない……。


 肘をつき、グラスの氷をぐるぐる回しながら今後の段取りを考えていたら、またしてもあいつがやってきた。


 ソフィアだ。


 何も言わずに俺の隣に座ると、誰に言うでもなく呟いた。


「……私、どんなに冷たくされても、やっぱりあなたのことが好きです。……想っているだけなら自由ですよね」

「……」


 二十四になったソフィアはもう立派な行き遅れだ。


 わがままで傲慢だった王女様は大人になり、ルートヴィヒとの噂以降、人間的にもちょっとは成長したが……完璧な美貌を持ちながら、こいつは中身が純粋過ぎるからポンコツに感じるんだろうか。

 

 素直で一生懸命だし、……いつだって悪気がないことはわかっている。だけど、もう少し自分の影響力を自覚して周囲に気を配らないと。

 


 ふいに、いつかのクラリスの何気ない言葉が思い出された。

 


 ――男の人も幸せにならないとですね。ひとりだけ寂しい思いをしてたら別れた奥さんだってつらい気がします。

 


 そうだな。……俺もそろそろ前を向かないとな。アズの期待に応えれるかはわからんが。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

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