表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~  作者: 魯恒凛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/71

53.過去の悪意

 あれは、結婚して一年目の頃……。

 

 お茶会や夜会に全く誘われず、これではルートヴィヒ様に迷惑を掛けてしまう。妻として人並みにきちんと社交をしようと一念発起し、詩の朗読会に参加しようと決意したことが、私にもあった。

 だけど、クローゼットの中は派手なドレスか品のないドレスばかり。年配の貴婦人の前にはとてもじゃないが着ていけず、仕方なく街へ出かけたことがあったのよね。

 レーンクヴィスト家が使っていると以前お義母様に教えていただいたヴァルドリック・アトリエに向かい、入店してすぐのこと。私に近づいてきた店員が頭の先からつま先までじっとりと舐めるように眺めてきたのだ。


「あらあら。レーンクヴィスト小伯爵夫人。どうされたんですか? 道に迷われました?」

「え?」


 店にいた買い物客らしき夫人たちが、店員と私のやり取りを聞きながらくすくす笑う。初心(うぶ)なクラリスはなんのことかわからず、真っ赤になって途方に暮れてたっけ。


「わたくしどもの店はソフィア王女にもご愛用いただいておりますの。……控えめなレーンクヴィスト小伯爵夫人にうちの商品がお似合いになるかどうか……ねぇ」

「っ、その……知り合いがいたようなので声を掛けようと思ったのですが、見間違いでした。失礼します」


 なんとなく二人の噂は耳に届いていたけど、あの頃はまだ信じていなかったのよね。それなのに、突然悪意を浴びせられてつらかったなぁ。クラリスが彼女たちに何かをしたわけでもないのに。ブティックはここだけじゃないしと目尻を拭い、他の店に向かってみたものの……。

 

 どこもソフィア王女の御用達、もしくはファン、もしくは国民的カップルを応援したい信者たちであふれ、レーンクヴィスト小伯爵夫人に売る商品はないのだと口を揃えられたのだ。

 ソフィア王女は流行の最先端を行く、この国のファッションアイコン。彼女を敵には回せないのもうなずけるけど、最後に立ち寄った店は特にひどかった。やや質の落ちる低位貴族向けだとは知っていたのだから私も悪かったのだけど、あの時のクラリスはとにかくドレスを手に入れようって必死だったものね。

 

 裏通りとは言え人が行き交う通路上、私は手ひどい門前払いを食らったのだ。


「あんたのせいでお二人は一緒になれないのよ! あんたに売る服なんてないわっ」

「……っ」


 完全に恥をかかされた挙句、弁明の一つもさせてもらえないまま詰られ。

 人通りが少なかったのは幸いだったけど、針のむしろというのはこういうことなのか、と視界が滲んだ記憶がある。


「――というわけで。ヴァルドリック・アトリエに行くくらいならパーティーには行きません」


 わなわなと震えるルートヴィヒ様の手には曲がったフォーク。いやいやいや、厨房の人たちがかわいそうだから、やめて。


「そうか、そんなことが……。クラリス、本当に申し訳なかった」

「……」


 はい、いいですよ、とは簡単には言いたくない。

 曖昧に首を傾げた私に、ルートヴィヒ様は眉尻を下げた。

 

 ぎゅっと唇を引き結んだ彼は、視線を落としてしばらく考えこんでいたけど、おもむろに顔を上げると私に尋ねてきた。


「……クラリス。店舗を構えていないデザイナーを連れてきていいだろうか? デザインが気に入らなければドレスを作らなくても構わないから」


 まあ、あの時のブティックのどれかと関係していないのなら構わないけど。アテがあるのかしら。

 う~ん。一着くらいきちんとしたドレスを持っていた方が何かと役に立つし、手に入れたい気持ちもある。……いいわ。お気に入りの一着を仕立ててもらって、離縁する時に記念としてもらっちゃおう。


「はい、それならいいですよ」


 そう返答した私に、ほっとしたように喜んだルートヴィヒ様。

 

 口角を上げた彼がデザイナーを連れて来たのはそれから三日後のことだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ