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5.魔獣騎士団

 いやいやいや、こんなところにいちゃダメでしょう!


「ちょっ! な、なんでこんなところにドラゴンが……!」


 キョロキョロと周りを見渡してみるも、魔獣騎士団員の姿はない。ひょっとして抜け出して来ちゃったの?

 魔獣舎からはかなりの距離が……と思ったけど、この子たちには大した距離じゃなかった、と思い直す。


 そっと近づくと、水色の赤ちゃんドラゴンは私を上目遣いで見上げた。

 

 鱗に覆われた大型の爬虫類のような体に、コウモリのような翼がある。鋭い牙に長い尾、鋭利な爪がドラゴンの特徴なのだけど……。どのパーツもまだまだ丸みがあってかわいい。だけど、ドラゴンは火を吐く魔獣だ。赤ちゃんといえど暴れたりでもしたら、文官ばかりの執務塔エリアは大混乱に陥るだろう。

 

 その隣へしゃがんで近くで見ると、鱗は柔らかそうだ。本当に赤ちゃんのようだけど、前世の柴犬ほどはある。


「どうしてこんなところにいるの? おうちがわからなくなっちゃった?」

 

 きゅるるんと見上げてくる、つぶらな瞳。うっ、かわいい……!

 っと、こうしている場合じゃない。魔獣騎士団員を探しに行くべきか、誰か人を呼ぶべきか……。きっと誰かがこの子のことを探しているはずだわ。


「ちょっと待っててね。誰か呼んでくるわ」

「ギャァッ!」

「あっ! だ、だめよ、スカートを噛まないで! ああっ、袖ならいいってわけではなくて……! ううっ、わかったわ。私が一緒にいてあげる。送ってあげるから、ね?」


 その言葉に赤ちゃんドラゴンは嬉しそうに立ち上がった。

 

 ……ルートヴィヒ様に会いたくないけど、仕方がない。

 私はなぜか昔から魔獣に懐かれてしまう。気弱で無害だってにじみ出ているのかしら。

 まあ、嫌われるよりはいいわよね。


 赤ちゃんドラゴンは私について来いとでもいうように先導を始める。

 あれ、ひとりで戻れるんじゃない? と思って立ち止まると、スカートを引っ張ってくる。この、寂しんぼさんめ。


「へえ。こんな道があったんだ。ここを通ると魔獣騎士団のいる場所も近いわね」


 どうやら地図上にない裏道を通っているようだ。ひとけのないルートは、目立ちたくない私にとっては僥倖。

 頭の中にある王城の地図が書き替えながら、魔獣舎が近くなった頃。私は楽しそうに歩くドラゴンに躊躇いながら話しかけた。


「ドラちゃん……私ね、ルートヴィヒ・レーンクヴィストの妻なの。知ってる? 漆黒のグリフォースって呼ばれている人」

「ギャァッ!」

「私の夫、王女殿下とよく一緒にいるでしょう? 二人は王国の理想のカップルなんですって。世間で私は悪者なの。でね。……二人が一緒にいるところ、見たくないの。だから、魔獣舎の手前で帰るね?」

「ギァ……」

「ふふっ、慰めてくれるの? ありがとね」


 なんとなく、同情された気がした。

 ルートヴィヒ様との冷え切った関係に寄り添ってくれたのは、この子が初めてかも……。

 ドラちゃんを送ってよかったな、と思っていると魔獣舎の建物が見えてきた。


「ふぅ。四十分くらい歩いた? 思いがけずいい運動になったわ。それじゃあね、ドラちゃん」

「ギャァッ」

「ええ? ここまでって約束したじゃない。ド、ドラちゃん……」


 ドラゴンは私の服をぐいぐいと引っ張ってどこかに連れて行きたい様子。困ったなと思ったけど、ドラちゃんは頑固であきらめようとしない。

 目の前には巨大な倉庫のような魔獣舎がそびえ立つ。

 ……仕方がない。周囲を警戒しながら魔獣舎の中に連れて行かれると、色とりどりのドラゴンたちが一斉にこちらを向いた。


「わぁ、圧巻ね……」


 どうやらここはドラゴンの魔獣舎のようだ。左右一列に仕切られた部屋からドラゴンたちが顔を出し、私を見つめる。

 赤ちゃんドラゴンはひときわ「ガァァァ――!」と騒ぐ真っ青なドラゴンの元へ駆け寄って行く。雰囲気がお母さんなような気がした。


「えっと……。迷子のドラちゃんを連れてきただけなので、失礼します」

「ギャオォォ――! ギャオォォ――!」

 

 お母さんドラゴンが謎の大騒ぎ。賑やかな魔獣舎の様子が気になったのか、第一魔獣騎士団員がぞろぞろとやってきてしまった。ああ……なんてこと……。


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