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旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~  作者: 魯恒凛


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28.夫の恋を応援したい

 その日の帰り。私は買い物を済ませた足で『星霜の酒亭』を訪ねていた。マスターに相談しようと思ってきたら、カウンターにはアロルド団長の姿。買い物袋を抱えたこの場に不釣り合いな私に気づくと、おかしそうに笑う。


「おっ? 早く帰ったのにまだうろうろしてたのか? っつーか、ここカフェじゃねえぞ?」


 わかってます。お茶を飲みに来たわけじゃありませんから、ご心配なく。

 聞けばアロルド団長は、今日のお相手待ちなんだとか。は~。昼間あんなに訓練したのに、夜もお元気ですわね。

 

「はははっ! まあな。ところで、酒を飲みに来たのか?」

「あ、マスターに聞きたいことがあって。バーのマスターなら世間の噂話にも詳しいでしょう?」


 突然話を振られたマスターは目を彷徨わせる。

 あ、人に言えないような話を根掘り葉掘り聞こうってわけじゃないよ!?

 アロルド団長は興味津々といった様子で楽しそうだ。


「へぇ。よくわからないが、とりあえず俺に言ってみろ」

「実は夫に相談されまして。好きな人の機嫌を損ねてしまってどうしたらよいかと。それで、贈り物を提案したんですけど、好みがわからないんですって」

「……え~っと、俺の耳がおかしいのかな。なんだか頭が受け入れを拒否するんだが」

「それでですね。一年後に離縁する私としては夫の恋を応援してあげたいわけですよ。そこで、情報ツウぽいマスターにソフィア殿下が好きそうなものの噂とか聞いたことないかな~と思って来たわけです」

「あ~、そうきたか……」


 アロルド団長は頭を抱えカウンターに突っ伏してしまった。え、もしかして、私が不憫すぎて顔が見れないとか……?

 どうしたものかしらと考えていると、マスターがぽつりと口を開いた。


「……『暁の菓子工房』の雪華チーズケーキかな」

「それって、王都で一番人気のケーキ屋さんですよね?」


 マスターがこくりと頷く。どうやら、この店のふわふわチーズケーキを食べたくて、王女様はわざわざ行列に並んだという噂があるんだと。いたく気に入って、最近では月に数回、王家の紋章をつけた従者が買いにくるらしい。


「何それ……私も食べたい……!」

「へえ。じゃあ俺もキャロライナとリリアンヌと遊ぶ日にあ〜んしてもらおうかな」

「まっ……アロルド団長ったら……! 私には刺激が強すぎるので帰りますね」

「ははっ! ここに飲みに来ているおまえがそれを言うか? まあ、気をつけて帰れよ」

 

 *


 そんなわけで、翌日のお散歩タイムに王女が好みそうなものを片っ端から上げてみた私。


「ルー、女性はみんなお花が好きだからお花は絶対送った方がいいです。ほかには繊細なレースのハンカチや日傘なんかも素敵だと思いますよ」

「花は今でも好きなのか……そうか、それはすぐ贈れる。……レースはオーダーしよう」

「あとは……ベタだけど、お相手の色の宝石を使ったアクセサリーとか」

「あ……なるほど。俺の色を身に着けてもらって、俺は彼女の色を……」


 はにかむルートヴィヒ様に心がきしむ。

 

「……それから一番のおすすめは『暁の菓子工房』の雪華チーズケーキを買うことです。これは並ばないと買えないので、努力が垣間見えておすすめですよ」


 へぇと興味深そうに聞いていたルートヴィヒ様。……胸がちくっとするけど、きっとソフィア王女と仲直りできると思うから頑張ってくださいね。

 

 

 帰宅してクララからクラリスになり、夕飯をひとりで楽しく作っていた私のもとに執事がやってきた。え? ルートヴィヒ様がお呼び……? 今さら何か用かしら。

 本邸に向かい、晩餐室に案内されると数時間前までクララと散歩をしていたルートヴィヒ様が座っていた。……なんだか変な感じだわ。


 はす向かいに座らされる私。クララと同一人物であることがバレないように、ぼそぼそと尋ねてみる。


「あのぅ……、本邸に来るよう言われたんですが、どのようなご用件で……」


 そこへ使用人がトレイに載せたケーキを運んできた。

 目の前に置かれたのはチーズケーキ。


「え?」

 

 ま、まさか、『暁の菓子工房』の? さっそく買ってきたの?っていうか、なんで私にまで!?

 むすっとしたルートヴィヒ様がちらりとケーキに視線を落とした。


「……二時間並んで買ってきた。君に食べてほしい」

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