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17.意外とおとなげない

 目を見開く私をよそに、彼は穏やかに尋ねてきた。


「第一魔獣騎士団の新人? そんなに慌ててどうしたんだ?」


 ……へ? 妻だって気づかないの? ウィッグを被って眼鏡をかけてはいるけど、声はそのままなのに? 

 あ、ああ……、そ、そうなんだ……。まあ、ほとんど会話していないからわからないのか……。

 

 それはそれでショックな気もするけど、……今はそれどころじゃない。


「ドラちゃんがっ! ドラゴンの子どもが見当たらなくて!」

「ドラゴン? ルクラ、探し出せるか?」


 ルクラと呼ばれた赤茶色のグリフォンは「グルル」と鳴くと頭をくいっと振った。まるでついて来いと行っているようだ。

 緊張しながらルクラについていくこと数分。ドラちゃんは花壇の植え込みの中でじっとアリの行列を眺めていた。ドラちゃんったらっ……!


「ドラちゃん! ……探したんだよ」

「ギャ? ギャ、……ギャ…………」


 ドラちゃんははっとしたように立ち上がると、申し訳なさそうに足元に抱きついた。上目遣いで見上げるその顔にぽたぽたと水滴が落ちるのを見て、自分が泣いていることに気づいた。あっ……。ほっとしたら涙腺が緩んじゃった。


 しゃがみこんでドラちゃんにこれからはいなくならないでほしい、とても心配したのだと説明すると、コクコクと頷いてくれた。ふぅ、……大事(おおごと)にならなくてよかった。


 その時、背中側からすっとハンカチが差し出された。

 あっ……。ルートヴィヒ様のこと、すっかり忘れてた。


「あ、あの、……探してくださってありがとうございました」


 受け取ったハンカチで涙を拭きながら頭を下げる私に、ルートヴィヒ様はゆっくりと頷いた。


「ドラゴンが無事でよかった。それに探したのはルクラであって、俺は何も……」

「あ、確かにそうですね。ルクラさん、ありがとうございました」


 ルクラに向かって頭を下げる私になぜかルートヴィヒ様は不機嫌になった。

 え? 自分で言ったのになんでむすっとしてるの? 変な人ね。


 そんなおかしな空気を破るかのように、グリフォンは目を細め私に顔を寄せてきた。撫でろってことなのかな? 


 顔は鷲、体はライオンのグリフォン。

 つまり……もふもふ! 念願のもふもふですよ!


 首筋をなでるとルクラはうれしそうに喉を鳴らした。これは、まるで巨大な猫では……! 大きな体で一見すると怖いグリフォンが、すりすりとあざとかわいい仕草なんて見せるんだもの。私のハートが一瞬で鷲掴みにされてしまったのは仕方がないと思う。


「っ! か、かわいぃぃぃ……!」


 夢中でわしゃわしゃする私にグリフォンはご満悦で、ドラちゃんはやきもちを焼いて私の足にしがみついたまま。視線を感じてふと顔を向けると、ルートヴィヒ様は口を尖らせていた。……え?


「グリフォンは警戒心が強い魔獣なんだ。パートナーである騎士以外、普通は触らせないんだが……君のことは特別なようだ」


 ああ、それでむすっとしてたんだ。意外とおとなげないのね。

 

「そうなんですか? えへへ、嬉しいなぁ。ルクラは私がもふもふ好きだって知ってたの? うふふ」

「ギャァ……」

「あ、ドラちゃんはもふもふしていなくても、とびっきりかわいいわよ?」

「ギャッ!」


 私とドラちゃんのやりとりをルートヴィヒ様はぽかんと見つめていた。


「君はドラゴンとも会話できるのか? ああ、当然といえば当然なのか……。いやだけどよりにもよって……」


 ……ぶつぶつ何か言っているけど、盛大に誤解されているような気がする。


「あの……。ドラちゃんとは会話というより、なんとなくわかる程度でして。それと、私は魔獣騎士ではありません。ドラちゃんのお世話係です」

「お世話係?」


 アロルド団長の教育方針(?)で子ドラゴンを伸び伸びと遊ばせたいこと。そのお世話係に私が採用されたことを説明する。ルートヴィヒ様にとっては青天の霹靂だったらしく、信じられないと言いたげに尋ねてきた。


「そう、なのか……。グリフォンたちは幼い頃から割と厳しく調教するんだが……。とにかく君はしばらく第一魔獣騎士団でドラちゃんの世話をしに来るということなんだな?」

「そういうことですね」

「次の出勤は? 何時から何時まで?」


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