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16.なるべく早く帰ってくる?

 あ、あれ? ほのぼのし過ぎてました? もっと訓練っぽいことしたらいい? ドラちゃんに走り込みでもさせたらいいの?


「いやいやいや……クララちゃん、言葉がわからないんだよね?」

「え? は、はい。でも何となくわかります」

「……そうなんだ」


 魔獣騎士たちと訓練を行う大人ドラゴンはさておき、子ドラゴンのドラちゃんは自由に過ごしていいのだそう。つまり、大人ドラゴンたちがお仕事をしている間、私はドラちゃんのベビーシッターをしていてね、ということらしい。


 アロルド団長いわく、「子どもの仕事は遊ぶこと」。まったく……。イケオジはイクメンにもなれそうなのに、独身だなんて本当にもったいないわね。


 その後、ひと通りの説明を受け、第二魔獣騎士団がいつ何時にどの辺りにいるのかもしっかり確認しながら、私はドラちゃんとお散歩に行くことにした。


「ねえねえドラちゃん。多分、ドラちゃんの方が詳しいから、いい場所知ってたら連れてって?」

「ギャ」


 というわけで、ご機嫌なドラちゃんと一緒にお散歩だ。普段立ち入ることのない魔獣騎士の宿舎周りを散策したり、グラウンドを遠目から眺めてみたり。

 「あのお花綺麗ね」「それは案内標識だから食べちゃダメ」なんて言いながら、穏やかな時間が流れる。

 ドラちゃんがチョウを追いかけるのに夢中になる姿を見ながら、私は今朝の出来事を思い出していた。



 初出勤日だからと早めに起きた今日。ルートヴィヒ様を見送ろうだなんて爪の先ほども考えいなかったのに、ばったり廊下で遭遇したのだ。


「っ……おはよう。もう起きたのか」


 は? もう起きたのかですって? あなたはすでに制服姿で出勤するところですよね? 「今頃起きて来て怠けた妻だな」なんて遠回しに言っているつもりかしら。

 

 どう返すのが正解なのかさっぱりわからない。だけど、下手に怒らせて「部屋から出るな!」なんてことになったら、初出勤が台無しになりかねないし、ここは当たり障りなく……。


「あ、はい……。これから出勤ですか? いってらっしゃいませ」

「……なるべく早く帰ってくる」


 え? なんのために?


 ぽかんとした私はきっとまぬけ面をしていたことだろう。立ち去る背中をぼんやり眺めていたら、なぜかちらちらと振り返ってくる。見送りに来てほしそうに見えるなんて、……私の気のせいよね?

 


 ……ということがあったのだけど、未だによくわからない。まあ、わかるわけもないか。一緒にいたのなんて、週に数回の夕食と義務的なパーティーの同伴くらいだもの。寝室だって別。つまり、圧倒的に一緒にいた時間が少ないのだ。


「毎日会話を重ねていたら、きっと今よりはもっとお互いのことを知っていたわね……」


 こう考えると私たちの結婚は最初から失敗だったように思う。本当に、どうして私に縁談の申し込みをしたのかしら。王女への想いを隠すためのカモフラージュ? だとしたら一ミリも隠せていないんですけど?


「はぁ……。だけどもう過去には戻れないもの。離婚したら明るい未来が待っていると思って頑張ろ!」


 うんうん。まずはお金を貯めて、実家に戻って、領地の隅っこでもふもふカフェをオープンだ! うふふふ。考えるだけで楽しみ~。

 にやにやともふもふに囲まれる未来を想像していて、はっとした。


「ドラちゃん? ドラちゃん、どこ?」


 ……ドラちゃんがいない! うっかり目を離してしまった。あの子は人間でいう三歳児と変わらない好奇心の塊。いたずらモンスター期だ。


「ま、まずいわ。何か破壊でもしていたら……」


 ううん、それならまだいい。不安なのはドラちゃんの意思とは関係なく人を傷つけてしまうことだ。もしもそんなことになったら、人懐っこいドラちゃんの心に一生消えない深い傷と作ってしまいかねない。


「ドラちゃーん! ドラちゃーん!」


 魔獣たちが寛ぐために作られた庭園は広大で、もはや小さな森。声を張り上げベンチの下や茂みを探してみるも、見当たらない。整備された小径から逸れ、雑木林の中に飛び込もうとした時、後ろから二の腕を掴まれた。


 驚いて振り返ると、そこにはグリフォンを連れたルートヴィヒ様! 


 ど、どどどどどうしてここに!? 

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