11.欲求不満?
チュンチュンと鳥のさえずる声に意識が覚醒する。
「ん……、まぶし……」
カーテンから差し込む日差しから察するに、どうみても日はすでに高い。……あれ? 朝なの?
寝坊したことに気づいて慌てて起き上がろうとするも、ひどい頭痛に体が揺れた。
「痛たたたっ……!」
う……、二日酔いだ。そういえば、どうやって帰ってきたんだろう? 昨日は結局明るいうちから暗くなるまで飲んで……。まあ、無事に自分のベッドで寝ているし、ちゃんと自分の足で帰ってきたってことだよね。
のろのろと上半身を起こしたものの、体が重くてだるい。それになんだか、あちこちが筋肉痛だ。もしかして、久しぶりに街歩きをしたから!?
……クラリスさんよ。日がな一日読書漬けだったとはいえ、軟弱過ぎないかい?
それにしても気怠い。二日酔い、さくらだった頃以来だな……。
頭を押さえながら違和感に気づき、ふと自分の体を見下ろして驚いた。
「ぎゃっ! な、なんで裸?」
片腕で胸を隠しながら、まさかと思い慌てて掛布の中を覗き込む。……は、履いてた。よかった……。
そういえば、夢の中で男の人に甘えていたような。うわぁ、自分からキスをねだっていなかった?
「は、破廉恥な夢っ!」
かっと熱くなった頬を両手で包む。私ったら、欲求不満なの!? 色気ムンムンのイケオジと飲んでフェロモンにあてられたのかしら。クラリスの女の性が呼び起こされたとか?
「……枯れてなかったのね、私」
私だってそういうことに全く興味がなかったわけじゃない。ルートヴィヒ様に嫁ぐ前に実家で性教育を受け、初夜に何をするかはきちんと学んできた。それに、これまで手にした本の中には恋愛小説も少なくない。
夫人たちが熱心に読む人気小説の中には、過激な描写をするものだって密かにある。読書好きが高じて性行為に関しては同世代の誰よりも知識があると思うし、そもそもこの手の話は前世の方がよっぽど進んでいるもの。私が密かに耳年増であることは否めない。
うっ。だからって、経験もない処女のくせにこんな妄想をするなんて恥ずかし過ぎる。
「はあ、脱いだ服はどこかしら……」
部屋を見渡すと、昨日着ていたドレスがしわにならないよう椅子に掛けられているのが目に入った。
コルセットやシュミーズは几帳面に畳まれ並べられているけど、……酔っぱらいながらも私がちゃんと畳んだのかしら。使用人がこんなことするわけがない。だって、あの人たちなら酔っぱらった私に頭からバケツの水を被せかねないもの。
だけど、ベッドサイドには水差しに酔い覚ましのお茶らしきものまで置いてある。どういうこと? 同情してくれた心優しい使用人でもいるのかしら。……まさかね。
きっと自分で厨房に行って持ってきたのだろう。後で顔を合わせたら勝手に持ち出したとネチネチ嫌味を言われそうだ。
「……それにしても軍人並みにきっちり畳んであるわね。私の密かな几帳面さが顔を表したとか?」
……やるじゃん、私。うん、いい風に考えておこう。
胃がムカムカして食欲はないし、熱いお湯にでも浸かりたいけど、使用人に頼むとまた文句を言われちゃうだろうな。……と思ったら、ちょうどいい感じにお湯が溜まってる! もしかして、新しい使用人が入ったのかしら。
「気が利く子がいるのかな。私に敵意がない、いい子だったらいいなぁ」
ゆっくり湯に浸かりながら、私は子ドラゴンのお世話係になる準備を楽しく考えることにした。




