Episode 5 ― 隠された手
白い蛍光灯の下、CGA作戦分析室の端末が静かに瞬いていた。
西園寺煉は、GhostNodeに表示された英人の返信文を読み終え、無言で画面を閉じる。
『正義に未来を問うのは、愚か者だけだ。』
(そうだ……昔の俺なら、間違いなくこう言い返していた)
Zion。
それはかつて彼が使っていた名。
国家規模のサイバー攻撃を個人で防ぎ、裏社会でも名を知られた存在。
だが、それは過去に封じた“もう一つの顔”だ。
弟が難病を患い、治療費目当てに家族が詐欺に巻き込まれた。
警察も行政も動かず、正義が役に立たなかったとき、彼は決意した。
「俺が“守る側”になる」――その覚悟のもと、Zionという名を殺し、CGAに入った。
だが今、再びその影が彼の中で目を覚ましかけている。
煉はデスクの引き出しから小さなUSBトークンを取り出し、マシンに挿す。
即座に起動したのは、Zion時代の独自ツール群。アクセスログ、独自プロトコルの通信モニタ、仮想環境で隔離された追跡用AI。
(君を“追う”には、かつての自分を蘇らせるしかない)
英人の行動は、予測不能だ。すでに複数の政府関連組織や企業が彼によって暴かれ、無力化されている。
通常の手続きでは到底追いつけない。
そこで煉は、CGA内に極秘の“独立対策班”を立ち上げる決意を固める。
Zion時代の旧知、今もCGAに籍を置く数名の特殊技術者たち。
(情報解析専門の七瀬、リアル調査に強い元公安の朝比奈、戦術AIとクラッキングに長けた榊原)
彼らに個別に暗号メールを送り、“Project-0x”という名のプロジェクトに招集する。
表のCGAには報告しない。上層部すらも巻き込まず、完全に“オフレコ”で動く。
「これは、俺自身へのケジメでもある」
煉は、操作を終えた端末を閉じ、立ち上がる。
白い会議室の窓の外、夜の東京の街がゆっくりと明滅していた。
「英人。君の正義がどれほど危ういものか……俺が証明する」
目を閉じると、Zionとしての記憶が、再び静かに流れ始めた。




