Episode 3 ― 狙われる正義
英人による初の“制裁”事件が世間を騒がせてから数日。被害者が違法な麻薬密売組織の幹部だったことから、ネット上では賞賛と批判が入り混じった議論が沸騰していた。
政府は表向きには「テロ的サイバー攻撃」として対策に乗り出すが、実際にはその背後にある“正義”を掲げる異端のハッカーを警戒していた。
その中で動き出したのが、政府直属のサイバー犯罪対策組織──CGA(Cyber Governance Agency)。
そしてその中核を担うのが、ホワイトハッカー部門のリーダーにして天才的頭脳を持つ男、**西園寺煉**である。
煉はこれまでに起きた二件のハッキング事件を丹念に精査していた。手口、痕跡の残し方、使用されたツール、サーバーの選定……。
「これは日本人の手によるものだ」
煉はそう確信していた。VPNでの偽装、Torの活用、そして地理的タイムラグの整合性までも、極めて巧妙に操作されていたが、逆に“完璧すぎる”痕跡が逆手となった。
「完璧を装ったものには、人間の癖が必ず出る」
煉は犯人が意図的に撒いた偽情報の中に“選択肢の癖”を見出していた。
海外のサーバーの中でも、同じリージョンを使い続ける傾向。
煉の脳内には、犯人の「作戦傾向マップ」が浮かび始めていた。
彼は自らのチームに命じ、過去10年間の未解決ハッキング事案と照合するよう指示を出す。
だが、煉の頭の中ではすでにひとつの仮説が立ち上がっていた。
──この男は、かつて国家のネットワークを守るためにいた者ではないか?
煉は、CGAの内密データベースにアクセスし、過去に極秘で解雇された元セキュリティ要員の情報を洗い始めた。
その中に、“長谷川英人”という名が浮かび上がる。
英人は現在、ある人身売買組織を次の標的としていた。
旅館のFree WiFiを利用し、さらにVPNを通して三重のリダイレクトを使って偽装。
位置情報も完全にごまかしているはずだった。
しかし、その動きを西園寺煉はすでに掴みかけていた。
次回、ついに両者が“間接的な対話”を交わすことになる。




