Episode 1 ― 静寂の反逆者
この世界は、嘘でできている。
元セキュリティ機関の天才ハッカー・長谷川英人。
国のために築いた防衛システムの裏で、数々の不正や闇取引が見逃されていく日々に、彼は限界を迎える。
「正義は、もう動かないのか?」
名を捨て、社会から消えた男は、0と1の世界で“真の裁き”を始める。
ハンドルネーム《0xJustice》――ネットに突如現れた謎の存在は、世界中の犯罪者の悪行を暴露し、人々の目を覚まさせていく。
だがその行動はやがて、国家をも揺るがす禁忌へと踏み込み、
政府直属のホワイトハッカーたちとの命を賭けた頭脳戦へと発展していく。
正義とは何か?
復讐とは、誰のためにあるのか?
静かなる反逆者が、世界に裁きを下す――。
頭脳戦××裏切りと覚醒のハイテク、開幕。
薄暗いサーバールームの中、長谷川英人は独り、ディスプレイの光に照らされながらコードを走らせていた。
キーボードを叩く音だけが静寂の中に響く。セキュリティ機関・NCTU、その対サイバー犯罪部門の最深部。彼の才能は若くして政府の目に留まり、国家規模の防衛ネットワークの一翼を担っていた。
だが、その瞳は、もはや誇りではなく、虚無を映していた。
「……また、見なかったことにするのか?」
英人は端末に表示されたログを見つめながら、つぶやいた。
政治家と大企業による裏取引の証拠。明らかに違法で、人間の命をもてあそぶような冷たい数字のやりとり。しかし、機関は何もせず、“国家の安定”という名のもとにデータは葬られていく。
「英人、お前は優秀だ。だが、現実は理想通りに動かない。理解してくれ。」
上司の神崎は、いつものように穏やかな笑みを浮かべていた。
その言葉に、英人はただ黙ってうなずいたふりをして、拳を握りしめていた。
腐っている。
自分はこの腐敗を守るために技術を使っているのか?
誰かが、間違っていると叫ばなければならないんじゃないか?
その夜、英人は静かに退職願を提出した。
誰も止めなかった。彼が去ることに、組織は何の感情も示さなかった。
数日後。
彼のハンドルネーム「0xJustice」が、ネットの片隅に現れた。
最初の標的は、海外の麻薬カルテルの幹部だった。
裏帳簿を記録したファイルを抜き出し、複数言語に翻訳して全世界へ公開。IP追跡を攪乱し、VPNやディープネットを駆使して足取りを完全に消した。
その一撃は世界に衝撃を与えた。
ニュースは連日、謎のハッカーによる告発を報じ、SNSは正体を巡る憶測であふれかえった。
多くの者が、0xJusticeを“新たな正義”として称賛した。
だが、彼自身はただ冷静だった。
「これは、始まりにすぎない。」
世界の矛盾と偽善に満ちた構造を、暴き尽くす。
腐敗の根を、一つ残らず暴露する。
そのためなら、法律も倫理も、彼の前では意味をなさない。
そして、政府もまた、静かに動き始めていた。
かつての同僚たちが、敵となって彼を追い始めることになるとも知らずに。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
これが『0xJustice』の始まり、第1話「静寂の反逆者」でした。
この物語は、元セキュリティ機関の天才ハッカーが、腐敗した世界に静かに、そして大胆に反旗を翻す物語です。
正義の形は一つではないし、時に正義は、誰かの悪になる。
そんな危うさを、この作品では描いていきたいと思っています。
主人公・英人はまだ動き始めたばかり。
これから彼がどんな告発をし、どんな敵と向き合い、そして何を失っていくのか。
ぜひ、最後まで見届けていただけたら嬉しいです。
それでは、次回「初めての告発」でお会いしましょう。




