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沼声Vtuber~声が低音すぎて気持ち悪いと幼馴染に振られたオレに学校一の美少女のママが出来ました~

作者: だぶんぐる

三題噺「沼」「心」「声」をテーマに書いた短編です。

かなりのご都合主義ですが楽しんで頂ければ幸いです!

「声が低すぎて気持ち悪い」


 その一言で俺の初恋は終わった。

 数分前のこと。



「ジュン! 俺と付き合ってくれないか?」


 俺の一世一代の告白。誰もいない校舎の隅っこで俺と俺の幼馴染である三原純だけがそこにいた。バクバクと心臓の音がヤバい。だけど、俺は信じてる。絶対に成功すると。だって、彼女は、ジュンは幼馴染でずっと小中高と一緒で、登下校もよく一緒で、『付き合っている』という噂もあったくらいだ。だから……。

 顔を上げた俺は、彼女の笑顔を見て成功を確信する。だけど……


「……ごめんねー、ワタシ、学人のことはただの幼馴染だとしか思ってないから」

「え?」

「それにワタシ、今、つき合ってる人いるから」


 最近染めたばかりで自慢してきていた明るい色の髪の毛をいじりながら淡々と告げられる事実に俺は言葉を失う。


「え?」

「だから、今付き合ってる人いるから。学人とは付き合えない。ごめんねー」

「え? いや、でも……じゃあ、その、一緒に登下校したりしてて大丈夫、だったのか?」

「え? うん、むしろ賭けしてたの。いつになったら学人がワタシに彼氏がいるって気付くか」


 は? 趣味悪。

 イライラと一緒に出掛けた言葉を呑みこむが、身体中が震える。そんな俺を見ておかしそうに笑うコイツがまた腹立たしい。


「いやー、学人鈍感だからヤバいかなーと思ったけど、告白してくれたおかげで伝えられてラッキー。これで賭けはワタシの勝ち。ありがとねー」

「その!」

「なに?」

「俺の何が、駄目なんだ?」


 自分でも女々しいと分かっている。ただ、悔しすぎるだろ。フラれた上に玩具にされてたなんて……ソイツより何が劣っていたかはっきりさせたくて思わず聞いてしまう。


「ん~……声が低すぎて気持ち悪い」

「こえ……」

「学人、顔はそこそこだけど子どもっぽい顔じゃん、なのに声が異常に低いじゃない? なんかいっつも萎えるっていうかテンション下がる。今度のカレシはさ、すっごくイケボで、歌とかでも超高音出てかっこいいの。マジ、Vtuberやろっかなーとか言ってたくらいでやってもガチでバズりそうな声でさ。それに比べて、学人の声ってなんか暗くてキモい。ま、そういうことで、じゃねー」


 そうはっきりと告げて、ジュンは去っていく。厭らしい笑みを浮かべて物陰からやってきたのが、カレシなんだろうか。

 確かに俺の声は異常に低い。中学生の頃は低めではあったけど今ほどではなかった。ただ、遅めの声変わりを経て、とんでもなく低くなった上に高い音なんて裏声以外でなくなった。合唱の時なんか先生が困った表情を浮かべていたし、俺も友達とのカラオケで俺が歌える曲なんて限られている上に低い声なので盛り上がらない。とにかく、とんでもなく低い声は俺のコンプレックスだった。だから、声変わりしてからあまり積極的に話さないようになったと思う。ジュンは変わらず接してくれていたと思っていたが、気持ち悪いと思っていたんだな……。

 俺は膝から崩れ落ちる、と同時にあふれ出る気持ちを抑えきれずに思わず口に出してしまう。


「あああああああ! くそ! 俺だってこんな低い声になりたかったわけじゃない! なんだよ、声が低くて気持ち悪いって……顔と合ってないって顔だって声だってキャラクターメイキングしてこうなったわけじゃないんだよ! なんだよなんでだよ! なんで最近の歌は全部声が高いんだよ! 歌えねえよ! なんで5回に4回は怒ってる? って聞かれるんだよ! 一日の8割キレ散らかしてたらもうソイツ頭おかしいだろ! 落ち着けよ! テンション低いって、テンションが低いんじゃねえんだよ! 声が低いんだよ! 超低音の人間が『うわーい! やったー!』って言っても棒に聞こえるんだよ! 悪いかよ! あー、Mrs.○REENAPPLEになりてえよおおおおおお!」


 声が気持ち悪くてフラれた上に、実は彼氏がいて賭けの対象にされてた俺に恥ずかしさなんてない! そう思った俺は全てを吐き出した。ああ、大○君になりてえよ……!


「ぷ」


 ○森君への思いを吐露し蹲る俺の頭上で可愛らしい声で噴き出すのが聞こえる。

え!? やば! 聞かれてた!?


 慌てて俺が身体を起こすとそこには、栗色の綺麗なロングヘアーの美少女が口元に手を当ててこっちを見ていた。この人、知ってる……間宮麻紀先輩だ。

一つ上の2年生だけどあまりの美少女っぷりに他校からも見に来る人がいるって言われている超有名人だ。俺も友達に誘われて見学ツアーに行ったことがあるから知っているけど、まさか……まさかまさか! 間宮先輩に聞かれてた!?


「ご、ごめんね……蹲ってたから大丈夫かなと思ってきたんだけど、まさかミセスになりたいなんて言い出すと思ってなくて……」


 聞かれてたー! もれなく聞かれてたー!!!!

 ああ、恥ずかしい! やっぱり一時の感情に任せて叫ぶもんじゃないなあ!


「だ、大丈夫だよ! 君の声、本当に低い上に蹲って叫んでたからかなり近づかないとはっきり聞こえなかったと思うし、周り見ても私しかいないし大丈夫だよ! うん!」


 大丈夫なのかなんなのか。この時ばかりは声が超低い事を喜ぶべきなのか。

 いや、結局間宮先輩には聞かれていたわけでちょうはずかしいんですけど。

 もう笑うしかない。


「あ、あはは……お聞き苦しいことを、すんません……」

「ううん、全然聞き苦しいなんて…………!」

「そ、それじゃあ……」

「待って!」


 恥ずかしさで顔が超熱い俺が慌てて去ろうとすると、俺の腕を間宮先輩が掴んでくる。

 めっちゃ小さくて柔らかい手! 壊れたりとれたりするんじゃないかと慌てて急ブレーキをかけて振り返ると間宮先輩の顔が目の前に! 目デカ! 二重すご! まつ毛なが! すげー良い匂い! すみません!


「な、なんですか!?」

「ごめん、怒らないで!」

「怒ってはないです、素のトーンです!」


 相変わらず勘違いされる声だが、なんとか説明を差し込んで怒ってない事を理解してもらうと、一瞬小動物のような怯えた表情を見せた間宮先輩は、大きく深呼吸をしてじっとオレを見つめる。しかし、ほんと目が大きいなこの人。顔の3分の1くらいあるんじゃないか。


「あ、あ、あのね……お願いがあるの。私を……ママにさせてくれない!?」

「え? なんですって?(超低音)」

「ごめん、怒んないで!」

「怒ってないです!」


 でっかい瞳に涙を浮かべ始めた間宮先輩を落ち着かせるまでかかること数分。

 出来るだけ囁き声で話しかけるように気をながら話を聞く俺。

 その内容は意外なものだった。


「……えーと、つまりは、俺にその、Vtuberをやってくれないか、と」

「そう!」


 聞いた話を要約するとこういうことらしい。

 間宮先輩は趣味でイラストをやっている。ちらっと見せてもらったところ、素人目には『え、プロ!?』というレベルだったのだが、間宮先輩曰くまだまだ未熟だと。

それで間宮先輩は、自分の実力を高め、認知度を上げるためにイラストの依頼なども受けているそうなんだが、最近受けた依頼でVtuberのキャラデザをお願いしたいというものがきたそうだ。


「いやー、自分の描いたキャラが動いて喋るなんてさアニメ化かVtuberかって感じじゃない? だから、嬉しくってさ二つ返事で受けちゃったんだけど」

「後払いで引き受けてしまった上に、描き上げたあとに先方からキャンセルが入ったと」

「いやー、私も悪いけどさ。向こうも酷いんだよ。キャンセルの理由がさ見てこれ『可愛いカノジョが出来ちゃったんで、ちょっと暫くVtuberするのは保留にしたんでwww』だよ!」


 文面が見るからにクソガキっぽい感じで確かにイラっとする。

 で、間宮先輩はキャラデザを持て余している。それならば、何か他に活用できると思うんだけど、何をどう思ったのかこの先輩。


「で、それでなんで俺にこのキャラデザでやってみないか、ってことになるんですか?」

「いや、さっきのさ君の叫びを聞いて、ピーンと来たのよ。合う! って。君のさっきの叫びも個性的で面白かったし……。それに、さっきから話してる感じもすっごく声が落ち着いてて聞きやすいし、君、結構話し上手だよね」


 自分の声はコンプレックスだ。だが、だからこそ、何か話を振られた時に声以外でカバーしようと普段からトーク技術は磨いている。まあ、妹相手だけど……。


「それに、同じ学校の子ならさ、色々活動してても感想とか聞けるし色々やりやすそうじゃない」

「えーと……間宮先輩。ひとついいですか?」

「ん? なにかな?」


 こてんと小首をかしげる先輩。くそう、かわいい……。


「合うからお願いするって、ほとんど面識ない男子に言うもんですかね?」


 すると、少しきょとんとした表情を見せた後に、先輩は眉間に皺を寄せてほっぺたを膨らませる。


「……あー、そっかそっか。君にとって私は見知らぬ先輩ってことね。ま、仕方ないか。私もこんなに声が変わってるなんて思わなかったし……」

「先輩?」


 腕を組みながらぶつぶつと呟く先輩。どうやら俺と先輩はどこかで面識があったらしいが、こんな美少女と出会った記憶がない。そもそも俺は幼い頃からジュンに付き合わされて友達が多くなかった。なので、友人なんて数えるほどしかいない。小学校の時も一人親友と言えるヤツがいたがそいつとも学区が違ったので中学校以降会えていないし……。中学校以降は親友というより悪友というべきであろう友人二人と出会えた事は幸運だろうか。アイツらは俺の声を馬鹿にしない。いや、バカにはするが不快な言い方はしない。

 そんなことを考えてると、いつの間にか間宮先輩が至近距離でじっと俺を見ていたことに気付く。大きな瞳に動揺している俺が映る。


「とにかく! 私は君に運命的なものを感じたの! 君の声が本当にステキだと思ったから。だからお願い! ちょっとだけでいいの! やってみてくれない!?」


 運命的なもの。

 先輩は男女の何かを言ったつもりはないのだろうがその言葉にドキッとしてしまう。

 それに。


 反動というべきだろうか。

 さっき馬鹿にされた俺の声を褒めてくれた人がいる。

 それだけでぶっちゃけ泣きそうになっていた俺がいた。

 それに、見せてもらったキャラデザインはめちゃくちゃいい。きっと先輩が魂込めて描いたんだろう。絵から伝わってくる愛情がある。

なら。


「あの……俺で本当に大丈夫か、分かりませんけどやらせてください」


 俺のこの声がこの人の力になれるのなら、やってみよう。


「……! ありがとう! よろしくね、一緒に頑張っていこうね!」

「はい!」


 間宮先輩の弾ける笑顔を見て、俺は思わず大声で返事をしてしまう。

 あれだけ周りを気にして小声で喋っていた俺の声で。

 こうして、俺は間宮先輩、いや、イラストレーター、ままきゃママのVtuberとして活動を始めた。


 そして、思いのほか、ままきゃママのキャラデザと俺の声の相性がよかったこと、その上、色々な出会いと運の良さで俺達はどんどんと有名になっていった。

 そう、数年後には地上波で取り上げられるほどに。




「ねえ!」


 俺を呼び止める声、数年前までは本当によく聞いてた声だ。


「ああ、ジュン。久しぶりだな」


 振り返ると、懐かしい幼馴染の姿。といっても、大分けばけばしい格好だし、それに何より酒やけなのか声が痛々しい。親から聞いた話だと、高校時代に付き合ってた彼氏がかなり無責任な男だった上にジュン自身も考えなしに行動していた様でギャンブルなどあまり大きな声で言えないようなことになっているらしい。


「き、昨日さ、テレビに出てたあのファンを沼らせすぎるVtuberの声ってあんたじゃないの!? す、すごいじゃない! ……あの、実はさ、あたし、今、フリーなんだよね。よ、よかったら……」

「ちょっと! 何さっさと出発しようとしてるの! お義母さんが、お義父さんは昨日テレビ見逃しちゃったから一緒に見ようって……って、あら?」


 俺の家から飛び出してくる麻紀。目を見開いて俺から視線を麻紀に映すジュン。


「ま、間宮先輩……」

「……ああ、そういえば幼馴染だったんだっけ? えーと、三原さんよね? こんにちは」


 麻紀の圧が強い。ジュンもちょっと震えているがそれは驚きだろう。

 俺はちょっと恐怖で震えている。


「こ、こんにちは……あ、あの……間宮先輩ってもしかして、学人と……っていうか、そのお腹……」

「そうなの、無理しちゃいけないって言われてて……私の実家はちょっと色々あってね。こっちでお世話になろうって……さ、お義母さんが呼んでるわよ、『パパ』」


 あんぐりと口を開けたままのジュン。彼女は俺の声が嫌いだから無言で手を振りその場を後にする。

 そして、俺の愛する人に、俺を、俺の声も心も好きになってくれた人の隣で俺は囁く。


「ありがとう、『ママ』。大好きだよ」


 俺の声を聞いたママは、新しい命に嬉しそうに触れながら笑ってくれた。


お読み下さりありがとうございます。私も低音コンプレックスだったので同じ人に刺さればうれしいです。

感想や評価などしていただけると嬉しいです!


また、連載中のVtuberモノ『クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~』も是非お読みください!

https://ncode.syosetu.com/n6472hv/


また、Vtuberモノ供養作もよければ!

『エグいVtuberの中もエグい幼馴染~ひなまつり編~』

https://ncode.syosetu.com/n2766kk/

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